第6話
今日は旅の途中で1匹のかわいらしい狸のようなモンスターに出くわした。サラが言うにはサレイという人畜無害な種族らしく、俺達にとてもなついてくる。餌をあげると喜んで食べていた。餌が欲しくて甘えていたのかもしれないが、人語を話さないため実際何を考えているのかはわからない。このモンスターも化けるのが得意で、熊に化けたり、ドラゴンに化けたりして、俺達を楽しませてくれた。本来は外敵から身を守るための能力なのだが…。
「この狸ホントにかわいいねぇ」
サラは狸の頭をなでなでしている。
「そうだな、でも飼わないぞ」
「えーなんでー?」
サラはふくれっ面をした。
「世話するのが大変だろう」
「そっかぁ、残念…」
「だいぶ道草をくったな、そろそろ出発しないと。狸ともお別れだ」
「バイバイ、狸さん」
狸と別れ、しばらく歩くとハンジ村という所に着いた。この村も主に農耕と牧畜で生計を立てている。店舗もちらほら見える。村にしては珍しく体術の道場まである。どんな道場なのか気になったため、俺達はちょっと体術を体験していく事にした。
「すいませーん、ちょっと体術を体験したいんですけど」
サラが元気良く尋ねた。
「いいですよ、ではそこにある道着に着替えて下さい」
サラと俺は更衣室で道着に着替えた。
「やっぱりこういうのを着ると身が引き締まる気がするな」
俺は道着をバサバサさせながら言った。
「そうね、なんだか違う自分になったみたい!」
サラはクルクル回っている。
師範が手を叩き、皆に向かって言った。
「では、始めよう!まずは前蹴りから」
俺達はしばらく打ち込みの練習をしていた。
俺は自分の村の道場で習っていた時を思い出し、なにやら懐かしい気持ちになった。あの頃もこんな風に汗を流して、必死で特訓してたっけなぁ。苦しい日々の鍛錬を乗り越えてきたからこそ今の自分があるんだ。
「君達なかなかいい突きをしてるねぇ、どこかで習ってたの?」
「はい、自分の村で何年か習ってました」
「そうだったんだぁ、ねぇちょっと俺と組手やってみないか?」
「いいですよ」
師範と戦う事になってしまった。だが、やるからには全力でいく。
「それでは、始め!」
師範のするどい突きが飛んできた。なんとか腕でガードして、回し蹴りを放った。しかし、師範には当たらない。師範が猛攻をしかけてくる、避けてガードするのが精いっぱいで攻撃に転じる事ができない。師範の上段回し蹴りが頭をかすめた。しばらくして、2人共余力がなくなってきた、最後の力を振り絞って右突きを繰り出した。師範も同時に同じ攻撃をしてきた。2人同時に左わき腹に突きが入った。
「それまで」
勝負は引き分けとなった。
「やるなぁアロル君、こんな強者は久しぶりだよ」
師範は汗をダラダラかきながら言った。
「俺もこんなに全力を出したのは、何年ぶりの事か」
俺は涼しい顔で答えた。
「君とはまた戦いたいな、いつでも来てくれ」
「はい、今日はありがとうございました」
俺達は道場から出た。
村を散策していると、2人の青年が話しながら前方からやってきた。そして、俺達の近くで大きな声で「バカ」と言った。すると、近くにいた35才ぐらいのおじさんが顔を紅潮させて、俺の方へ向かってきた。
「おい、今俺にバカって言っただろ?」
当然2人の話の流れの中で出てきた単語であって、俺に言ったわけでもこのおじさんに言ったわけでもない。しかし、完全に誤解している。
「それはあそこにいる若者が話の流れの中で言ったんですよ」
俺は若者達を指さして言った。
「嘘つけ、お前が言ったんだろ。俺にはわかる。俺はな、バカって言われるのが何より嫌いなんだ」
「だから違いますって」
おじさんは何か呪文のようなものを唱え始めた。すると、隣りにいたサラが急に殴りかかってきた。不意打ちだったので俺はもろにパンチをくらってしまった。女の力とはいえ結構痛い。
「何するんだいきなり、痛いじゃないかサラ」
「アロルお前を殺す」
サラがとびかかってきた。
「どうしたっていうんだサラ!正気に戻ってくれ」
サラは攻撃をやめようとしない。
「まさか…おじさんがサラの意識を奪ったのか?」
「そういう事だ、もうお前の声など届きはしない。仲間に殺されるがいい」
おじさんは不気味に笑いながら言った。
「サラ!しっかりしてくれ」
「殺す、アロル」
サラはなおも攻撃をやめようとしない。
そうだ!術者が意識を失えばサラは元に戻るんじゃないだろうか?やってみるしかない。俺がおじさんを攻撃しようとしたその時。
「ガトリングシャワー!」
サラが水魔法を繰り出した。
俺はとっさに防御魔法を使った。
「ベルセイヌ!」
炎の壁を作り出し、攻撃を阻止した。
「そんな技まで使って俺を殺そうとするなんて…」
俺はがっくりしてうなだれた。
「サラ…サラー!!!」
俺はどでかい声でサラの名を呼んだ。するとサラの動きが止まった。
「ア、アロル…い、いまのうちに…は、はやく…」
願いが届いた!サラは正気をとりもどしつつあるようだ。俺はこの機を逃さなかった。おじさんに向かっていき、意識がなくなるまで殴り続けた。
ようやくサラは完全に正気を取り戻した。
「ごめんね、アロル…痛かった?」
サラは心配そうな顔をして小さな声で言った。
「なーに、これぐらい大した事ないさ!それよりサラが元に戻ってくれて良かった。コイツもこれだけ殴られればもう襲ってきたりはしないだろうよ」
俺は空元気を出した。
「また今回みたいな事があったら遠慮しないで私を攻撃していいんだよ」
「そんな事はしないよ、絶対に!何かいい方法を考えるさ」
「私に殺されないでよ」
「ははは」
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