第5話
ケイトレインという町にやってきた。この町は商業を中心としていて、様々な店舗が軒を連ねている。人口も多く、かなり発展した町だ。
俺達は今、宝石店にいる。サラがどうしても寄って行きたいというので、仕方なく立ち寄った。俺は宝石になどまったく興味はないのだが。
「見て見てこのダイヤのネックレス、超キレイ」
サラは興奮しながら話している。なぜ女はこんな石ころがそんなに好きなのだろう。
「ああ、いいね」
俺は気のない返事をした。
「どう似合う?」
サラはダイヤのネックレスを首に巻いた。
「似合ってるよ」
「これ買ってほしいなぁ、ダメ?」
サラは甘えた目つきで俺を見た。
「ダメ!いくら金があるって言ってもなんの役にも立たないものを買うわけにはいかない」
「ちぇっ、ケチ」
サラは渋々商品を棚に戻した。
しばらく、商品を見て回っていると1人の剣を持った男が店の中に入ってきて、大声で怒鳴った。
「お前ら、騒ぐんじゃねぇぞ!邪魔する奴は命がないと思え!」
「な、なんですか?お客様」
店員がおどおどしながら、質問した。
「このバッグに宝石をありったけ詰めろ!」
「で、できません」
「どうやら死にてぇようだな」
強盗は剣を振りかざした。
「わ、わかりました。おっしゃるとおりにします」
店員は慌てふためきながら、バッグに宝石を入れ始めた。客達は黙って成り行きを見ていた。
「さっさとしねぇか!ちんたらしやがって!」
強盗は恫喝した。
やはり、黙って見過ごすわけにはいかないな。あまり目立ちたくはなかったが仕方ない。
「おいお前、こんな暴挙はすぐにやめて立ち去った方がいいぞ」
俺は強盗に諭すように言った。
「なんだお前、そんなに死にてぇか!?」
「いや、やられるのはお前の方だ」
「ふざけんじゃねぇ!」
強盗は俺に向かって剣を振り回した。動きを見てすぐに戦いの素人だとわかった。
俺はひらりと身をかわした。
「そんな遅い攻撃が当たるわけないだろ」
「このやろー!」
強盗は今度は突きを繰り出してきた。
そんな素人の突きが当たるわけもなく、余裕で避けると、相手の腹に足刀をお見舞いした。
「おえ」
強盗は吐いた。
「さぁバカな行いはこの辺にして、さっさと引き上げろ」
「ちくしょう、おぼえてやがれ」
男は宝石を詰め込んだバッグを置いて、逃げて行った。
「兄ちゃんメチャクチャ強いな」
「ステキ!お名前はなんて言うんですか?」
「かっこよかったよ、お兄さん」
客達が寄ってきて、俺を褒めたたえてくれた。やはり、見てみぬふりをせず、強盗を退治して正解だったと思った。
「お役に立てたようでよかったです。それではこれで失礼します」
「あの、本当にありがとうございました」
店員が深々とおじぎをした。
店を出て、雑貨店などで買い物を済ませ、今日泊まる宿を探していた。
大通りを歩いていると、後ろから何者かが走ってくる音が聞こえた。俺が振り向くと同時に13才くらいの男の子が俺の財布を抜き取って、走って逃げて行ってしまった。俺も必死で追いかけたが、少年の足は結構速く、なかなか追いつけなかった。散々走り回ってようやく少年を捕らえる事ができた。
「さぁ財布を返してもらおうか」
「嫌だ!これはもう俺の物だ!」
少年は駄々をこねた。
「どういう教育を受けているんだ。親の顔が見たい」
俺は少年の手から無理に財布を奪いとった。
「なんでこんな事をしたんだ?スリは立派な犯罪だぞ」
俺は説教をたれてみた。
「金がないからに決まってんだろ、バカ!」
少年は泣きながら走り去ってしまった。
まったく今日はよく犯罪に巻き込まれる日だ。治安の悪い町だったんだなぁ。警備兵達がしっかり取り締まってくれないと困るよ。
かなり走ってきたので、サラとはぐれてしまった。大きな町だから探すのは一苦労だ。しかし、そんな遠くには行ってないだろう。俺はサラとはぐれた近辺を探し回った。だが、サラは見つからなかった。
道行く人に聞いてみる事にした。
「すいません、この辺りで青い髪をした女の子見ませんでしたか?」
「さぁ、知らないなぁ」
ダメか、次!
「あのこの辺で青い髪の女性を見ませんでしたか?」
「見てないよ」
またダメか、次!
「今日この町で青い髪の女見ませんでしたか?」
「ああ、見たよ。さっき変な男2人に連れ去られているように見えたから一応警備兵に連絡しておいたよ」
「なんですって!そりゃあ大変だ!情報ありがとうございます」
まさかサラがさらわれるなんて…水魔法で撃退する事はできなかったんだろうか?それにしても一体どこへ行ったんだ。俺は町の中を当てもなくグルグルと走り回った。もう町の外へ出て行ってしまったかもな、クソっ、どこへ行ったか見当もつかない。トボトボと歩いていると、「占いの館」という店が目にとまった。占いなんて当てにならないが、もしかしたら手がかりが得られるかもしれない。俺は藁にもすがる思いで占いの館に入った。
「いらっしゃい、どうぞおかけになって下さい」
ダボダボの服を着て、ヨレヨレのハットをかぶった45才くらいの女性が机の向こう側に座っていた。
俺は席に着くとすぐに事情を説明した。
「サラという名の青い髪の女の子を探しているんです。見つける事はできますか?」
占い師は不敵な笑みを浮かべながら答えた。
「できますよ、ただ少々値がはりますがよろしいか?」
「金に糸目はつけません」
「わかりました、では3万ギンドになります」
「本当に見つかるならその倍の値段だって払いますよ」
占い師は目を閉じ、両手を合わせ精神を集中し始めた。
5分程すると、占い師が目を開けた。
「見つかりましたよ」
「本当ですか!?教えてください」
俺は思わず歓喜の声を上げた。
「その前にお代をもらいましょうか」
俺は4万ギンドを渡した。
「場所は4丁目の川沿いの立島屋という店から北に100メートルほど行った所にある古い倉庫だよ。その辺りに倉庫は一つしかないからすぐにわかると思うよ」
「すごいですね。ありがとうございました」
俺は急いで目的地へと向かった。だいぶ離れた場所だったが、倉庫はすぐに見つかった。思い扉を開けて中へと入った。すると、奥の方にサラとさきほどの強盗とガタイのいい男がいるのが見えた。サラは縄で縛られている。
「コイツ魔法を無力化できる力があるから気を付けて、アロル」
サラが大声で危険を知らせてくれた。魔法が使えなくなるのか、どうりでサラが簡単に捕まってしまったわけだ。だが、俺には長年に渡り磨き上げた体術がある。魔法が使えなくてもどうという事はない。
「なぜ、サラをさらったりした?」
「お前がむかついたからに決まってんだろ。それにしてもよくここがわかったな」
強盗が答えた。
「そんな理由でサラを危険な目にあわせるとは…断じて許せん」
「今度はさっきみたいにはいかないぜ、なんたって兄貴がいるからな」
強盗はガタイのいい男の方をチラッと見た。
「コイツがさっきお前が世話になったっていう野郎か…どれ、相手をしてやるか」
ガタイのいい男はそう言うと、俺の方へ向かってきた。
「うおー!」
俺は雄たけびをあげながら突進した。
ガタイのいい男は右ストレートを放った。は、はやい。俺の左頬を拳がかすった。今度は俺が右ストレートを打った。しかし、ガードされてしまった。この男かなりケンカ慣れしている。俺は相手の脇腹めがけて回し蹴りを放った。しかし、うまくよけられてしまい、今度は相手が足刀を打ってきた。俺はギリギリかわし、反撃しようとしたが、相手の攻撃の方がはやかった。こんな激しい攻防がしばらく続いた。
お互い疲れてきた頃、1匹のねずみが現れた。
「ぎゃあーねずみー」
男は悲鳴をあげた。
その時、魔力が戻った。どうやら驚きで集中力を失ってしまったようだ。
「メサオ!」
ガタイのいい男の全身を炎が取り巻いた。
「あ、あつい、助けてくれー」
「反省して大人しく帰るか?」
「もう二度とお前らには手を出さない!だから頼む、助けて」
俺は炎を消した。ガタイのいい男は軽い火傷ですんだ。
「まさか兄貴でもかなわないなんて…」
「おら、行くぞ!手貸せ」
強盗はガタイのいい男をおんぶして逃げ去って行った。
俺はサラの縄をほどいた。
「必ず来てくれるって信じてたよ、アロル」
サラが抱きついてきた。
「大変だったなサラ、よく頑張った」
サラの頭をなでた。
ちょっぴり2人の心の距離が縮まった気がした。
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