第2話
「去年の冬なら、受験勉強で忙しい時期だよな。雪女なんて見に行く暇あったのか?」
牧田が雪の思い出を語り出した途端、村山が話の腰を折る。
「それとも、牧田や佐藤のところって、近場で雪女が出るほど山奥だったのか?」
「失礼なこと言うなよ。俺たちの地元、そこまで田舎じゃないぞ。普通にビルだらけの街だった」
「それなら、どこで……?」
「予備校の教室から見えたのだよ、セーラー服を着た後ろ姿が」
「おいおい、ずいぶんと俗っぽい雪女だな」
村山のツッコミを無視して、牧田は改めて話し始める。
「お前たちも知っての通り、俺は一年浪人している。だから去年は、高校生ではなく、予備校生だったわけだが……」
牧田がその時受けていたのは、英文法の授業だった。
彼の志望校――つまりこの大学――の英語の問題は、和文英訳と英文和訳ばかり。もちろん文法的知識が皆無ならば読み書き出来ないけれど、文法問題そのものが出題されない以上、その読み書きさえ出来れば英文法はどうでもいい、というのがこの大学の英語だ。
だから英文法は重要ではない授業であり、一応出席していたものの、ついつい彼は窓の外を眺めていたという。受験のストレスやプレッシャーから逃げる意味で、外の景色は良い気分転換になったそうだ。
「遠くに見える緑の木々も目の保養になったけれど、他にも面白いものが見えたのさ。近所の私立高校の裏庭だ」
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