背中美人の雪女

烏川 ハル

第1話

   

「おっ、雪が降ってきたな」

 村山の言葉に釣られて、窓に視線を向ける。

 彼の言う通り、空から白いものが落ちてきていた。

 大学生になってから初めての雪だ。ここは暖かい地域なのだろう、と改めて思う。何しろ僕の生まれ故郷では、もう一ヶ月以上も前に、雪の季節に突入していたのだから。

「今年の初雪か。どうせなら、もっと風流な環境で楽しみたかったな」

「大袈裟だなあ、村山は」

 僕は苦笑するが、彼の気持ちもわからないではなかった。

 大学の食堂で、午前と午後の講義の狭間に、ランチの真っ最中さいちゅうなのだ。精神的なゆとりは小さいし、何よりも男三人という時点で、風流とは程遠かった。

 大学生になれば華やかなキャンパスライフが待っており、女の子たちと毎日楽しく過ごせる……。入学前はそう思っていたのに、現実はまるで違うではないか。

 高校までの『クラス』に相当する『学科』には女子もいるけれど、講義は全て選択制だから、学科単位で活動する機会はほとんどなかった。入学直後に懇親会のようなものはあったが、男子校出身の僕は女性と話すことに慣れておらず、そこで仲良くなったのは同性だけ。

 その結果、いつも男三人でつるむ形になっていた。


「雪といえば……」

 もう一人の友人である牧田が、遠い目をして口を開く。

「……俺、雪女を見たことがあるぜ」

「ああ、あの話か」

 微妙な顔で僕が呟くと、村山が不思議そうに尋ねてきた。

「知っているのか、佐藤?」

「うん、前に聞かされたからね、牧田と知り合ったばかりの頃に。ほら、僕と牧田は同郷だからさ。それで話が盛り上がって……」

「待て、佐藤。そこを説明すると、雪女の話のネタバレになるだろ?」

 牧田がストップをかけてきたので、僕は肩をすくめて、彼に任せる。

「じゃあ、牧田の口から説明してくれよ」

「おう、喜んで。去年の冬の話だ。あの日も雪が降っていて……」

   

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