レッドフォックスvsグリューンダクス

藤色緋色

レッドフォックスvsグリューンダクス

『第3防衛線、突破されました! 最終防衛線まで後9000!』

『ぐうぅぅっ! 砲撃隊! 奴らの進路上にバラ撒け! 足を止めるんだ!』


 とある惑星のとある場所。

 2つの星間国家が相争う世界。

 戦略的重要拠点となる惑星で、その戦いは熾烈を極めていた。


「司令! 自分達が出ます! 出撃許可を!」

『……やはりあのキツネ共に対抗出来るのはお前達だけか……良かろう中尉、出撃を許可する!』

「了解! グリューンダクス緑のたぬき隊、出撃します!」


 識別名"ロートフクス赤いきつね"。敵国語で言うなら"レッドフォックス"。


 頭部に狐の耳のような広範囲索敵装置を付け、全身を赤く塗られた全高3メーター程の機体。


 機動装甲服、マシーネンリュストゥング。敵国語だとアームドアーマーと呼ばれている、兵士の身体能力を補助し、攻撃力と生存性を大きく向上させる装備。

 様々な惑星での戦闘で生身の人間はあまりにも脆弱過ぎ、それを補う為に開発された兵装だ。


 大口径の対物狙撃銃ゲヴェーアを連射出来る膂力、至近距離からの重機関銃弾を弾く装甲、百数十メーターを跳躍出来る推進器トゥリープクラフト

 MRは、あらゆる面で生身の兵士を上回り、陸上戦闘の常識を覆した。


 戦車も、航空機もMRの汎用性の前に容易には近付けない。


 こうして惑星上の戦いはMRが主力となっていった。


 MRの開発はこちらが先行していた為、当初、惑星上の戦いは我が国が優勢だった。

 しかし鹵獲されたMRを解析され、相手国のAAも性能が向上、戦力が拮抗する事態となった。


 高い機動性と操縦技能に翻弄される我が軍だったが、ようやく彼奴らに対抗する部隊を創設出来た。

 それが我が隊、グリューンダクス緑のたぬき隊だ。


「いいか。奴らの尾部安定器シュヴァンツスタビリザトゥアーの動きに惑わされるな。機体本体の動きをよく見て丁寧に攻撃を当てていけば勝てる。分かったな?」

『ダクスツヴァイ、了解。腕がなるわ!』

『ダクスドライ、了解! 今度は俺達が勝つ!』

『ダクスフィーア、了解。援護は任せて』


 幸いな事に、こちらの最終防衛線付近は森林地帯。

 相手は緑の場所に赤い機体で嫌でも目立つ。

 そしてこちらの機体は緑。視認率に関してはこちらが圧倒的に有利だ。


 ここは相手の侵攻経路を予測し、伏して待つのが得策か?


 立体地図ドライディメンジョナルカルテを確認する。

 山の上にあるこちらの拠点に至る経路は2つ。

 1つは東からの稜線伝いに登る経路。

 もう1つは西からの稜線伝いに登る経路。

 彼奴らの侵攻正面は断崖になっている。

 普通ならどちらかの稜線を突破していくだろうが……


「基地の南、1200で待ち伏せする」

『『『えっ?』』』


 俺の指定した場所は断崖の手前、森が途切れる所だ。

 当然の如く仲間から口々に疑問の声が上がる。


『ホントにそこでいいの?』

『どちらかの稜線にヤマを張った方がいいんじゃないか?』

「いや、奴等の機体を考えるとここだ。奴等の機体は4機共こちらの騎兵型シュプリンゲルと似た高機動型だ。この崖も、登ろうと思えば登れる筈。もし宛が外れたとしても、ここからならどちらも等距離だ。稜線の戦力で足止めさせて奴等の背後から強襲してやればいい。ダクスツヴァイドライなら余裕で間に合う筈だ」

『成る程。そこまで考えての事なら納得ね。了解よ』

『ウチのリーダーはさすがだな!』

「よし。ならダクスツヴァイドライは森に向かって右斜め前方400の場所で潜伏。俺の突撃後、相手の側面から攻撃。ダクスフィーアは左斜め前180に潜伏して狙撃。俺はダクスフィーアの最初の射撃後正面から突撃する。いいな」

『『『了解!!』』』


 さぁ来い! ここで仕止めてやる!!


◇◇◇


『フォックス1、ここを抜ければ目的の崖です。我々の機体と練度なら登りきれます。これで敵の本拠を叩けますね!』

「そうね。でも油断しないで。敵にだって同じ事出来る機体はある。気付く奴がいるかもしれない」


 敵の第3防衛ラインを突破し、最終防衛ラインに迫る我々レッドフォックス赤いきつね隊。機体の性能と自分達の腕で防御の薄い断崖を乗り越え、敵本拠に迫る算段だ。


 森の中では目立つ赤い機体色を隠す為に被ったカモフラージュシートを靡かせながら目的地に向かって疾駆する。


 森を抜けるまで後500メートル。特に敵影は見えないが……嫌な予感がする。


ドガッ!


『ウグワーッ!』

「フォックス3!?」


ドンッ!

ドゥゥゥウウウ!!


 ひし形隊列クロスドッグの右側を担当していたフォックス3が弾き飛ばされる。


 そして遅れて聞こえた銃声と共に、正面から大きな円形盾ラウンドシールドを構えた緑色のアームドアーマー、いや、向こうではマシーネンリュストゥングと言うんだったか、が凄まじい勢いで迫ってくる。


 明らかに重装型なMRをこの速度で跳ばせるなんて、なんて高出力の推進器ブースターなの!

 あんなのにシールドバッシュを喰らったら機体がバラバラになる!


ガッ!


「きゃあ!!」


 ギリギリ回避するも、掠められた衝撃だけでバランスを崩しそうになる。

 何とか体勢を整え、こちらの隊列を通り抜けたMRの背中に向けて12.7ミリメートルマシンガンを構えた。


『フォックス1! 9時方向から新手2!』


 くっ! 完全にこちらの動向を読まれてた!


「フォックス2、4で応戦! フォックス3、動けるか?」

『機体は動けるが右肩の駆動をやられた。盾を捨てないと攻撃出来ない』

「なら、フォックス2、4と合流して狙撃からの防御を! 私があの重装型を抑える!」

『戦術眼を含めてかなりの手練れだ! それにあの城兵型ルークに似た機体は滅法堅い! 気を付けろ!』

「了解よ! 機動力ではこちらに分があるわ。速度で撹乱して隙を狙う。そちらも手強そうだから気を付けて」


 さぁ! 反撃するわよ!


◆◆◆


「流石だな。あの突撃を躱すとは」


 最初の突撃で倒せなかったのは痛いが、まだまだこれからだ。


 相手の1機はダクス4の狙撃で武器腕を損傷した。なら、3対3になっても攻撃の手数でこちらが有利だ。

 だったら、俺が目の前のコイツを抑えられればこちらが勝てる。


 機動力は圧倒的に相手が上。防御力と膂力はこちらが圧倒している。


 背中の大型推進器トゥリープクラフトを庇うように巨木を背にして防御姿勢を取る。

 この推進器は、直線だけなら他の追随を許さない加速力と速度を誇る。

 但し、最大出力を得る為には一定時間のエネルギー充填が必要になる。


 攻撃を耐えながら推進器へのエネルギー充填を進める。

 相手の方が素早く動ける以上、回避行動に入られる前に致命傷を与えるしかない。一瞬の機会を得る為の策。


 80……90……100!


「勝負だ! ロートフクス!!」


 推進器が爆発的な光を放つ。機体が弾かれたように跳ぶ。

 後方画面が一瞬虚を衝かれた様子のロートフクスを映しだしたが、直ぐ様推進器を噴かて追い縋り銃口をこちらの背部に向けた。


「今だ!!」


 俺は大型推進器を強制分離した。そこに放たれた銃弾が殺到する。


ドオオオオオオン!!


 エネルギーがまだ半分以上残っていた推進器が大爆発を起こした。


 姿勢制御推進器で機体を反転させ着地。元々の慣性力と爆風の威力で地を滑りながら腰に装備されていた熱断斧を抜き放ち、爆炎を抜けてきたロートフクス目掛けて振りかぶる。


 そして……


ガギャアアアアン!!


 俺の斧がロートフクスの首を飛ばすのと同時に、ロートフクスの銃剣が俺の胸を貫いた……


◆◆◆


『ゲームオーバー! 第1回赤いきつね緑のたぬき杯AA・MRチームバトルトーナメント決勝は、リーダー相討ちによりドロー! 両チーム同時優勝となります!』


 SF世界を舞台としたVRMMOゲーム"アステール・オンライン"のAA・MRを使ったPvPイベント、"赤いきつね緑のたぬき杯"はこうして幕を閉じた。


 リーダー同士の壮絶な相討ちはしばらくゲーム内で語り草となった。


 優勝賞品のゲーム内アイテムと東洋水産から贈られた"赤いきつね"と"緑のたぬき"は両チームで折半となった。


 あぁ、自己紹介がまだだったな。

 俺は緑野みどりの狸雄りお。東洋水産大学経済学部の二年生。

 グリューンダクスアインスを操っていたのは俺だ。

 そして座卓を囲んだ隣に座っているのが、同じ大学の同じ学部に通う俺の彼女、赤井あかい狐子りこ

 レッドフォックスワンの操縦者だ。


 今俺達は、この前のイベントの実況動画を見ながら、賞品として貰った赤いきつねと緑のたぬきに舌鼓を打っている。


「あ~んもう! もう少しで勝てると思ったのに!」

「そう簡単には勝たせてやれないなぁ。チーム戦だからメンバーにも申し訳立たないし」


 ちなみに、俺が食べているのは赤いきつねで、彼女が食べているのは緑のたぬきだ。


「いつも沈着冷静で定評のある『リオン』が、あんな博打を打ってくるなんて予想外だったわ!」

「それを言うなら、いつもは即、白兵突撃してくる『キツネコ』が、いやに慎重だったじゃないか」

「チームプレイだったしねー。戦術的には見事にしてやられたわ」


 汁を一口啜る。んまい! やっぱり出汁はマルちゃんが一番だな!


「楽しかったねー。今年も後少しで終わりかぁー。来年の今頃は就活でゲームなんてしてられないんだろうなぁー」


 よし、その言葉を待っていた!

 俺は今日、ある決心をしていた。それは……


「それなんだけどさ、狐子。大学を卒業したら、こうならないか?」


 そう言って、お湯を入れる前に半分に分けておいたジューシーお揚げを狐子のカップに放り込んだ。

 狐子の食べているのは緑のたぬき。それにきつねを放り込んで"緑のきつね"。


 しばらくカップの中を見つめ続けていた狐子が、頬を染めながら俺を睨んだ。


「もう! これ、『プロポーズの言葉は何ですか?』って聞かれても答えられないじゃない!」

「あっはっは! ごめんごめん! じゃあ、改めて、狐子、卒業したら一緒になって欲しい」


 そしてジーンズのポケットに忍ばせておいた小箱を出して狐子に渡す。

 頬を真っ赤にして小箱を両手で包み込むように受け取った狐子は今までで一番可愛いと思った。


「じゃあ、来年はまず、狸雄のご両親に挨拶に行かないとね♡」


 エヘヘ、と笑う彼女を抱き寄せ唇を重ねた。


 彼女の唇はマルちゃんダシの味がした。

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レッドフォックスvsグリューンダクス 藤色緋色 @fuzishiki-hiiro

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