第三章 檻の中の子供達

第三章(01) 門

「そこのお前、ちょっと待て」


 街へ入ろうとすると、二人の門番が立ち塞がった。出入りする人間を確認し、また街の外の様子を見張る二人は、中年の男。決してたくましい体格ではなく、一人の腹は出始めていた。しかし彼らは怪しいと判断した人物を止め、街に入るのを制した。


 止められたのは、美しい黒のマントにすっかり身を包んだ小柄な人物だった。フードを深く被っていて、門番でなくとも不審に思うだろう、少し異様な姿だった。


「貴様、何者だ。まさか竜資材りゅうしざいを盗みに来たんじゃないだろうな?」


 一人が尋ねれば。


「いえ、そんなことは」


 まだ幼さが残る、少女の声が返ってきた。甘く清らかさの漂う声。

 門番二人は不意をつかれたかのように目を丸くする。


「おや……まだ子供か?」


 一人が彼女のフードの下を覗こうとする。けれども彼女は素早く一歩下がって、


「兄を探して旅をしています。メサニフ……ええと、メサ、という男の人なのですが、ご存知ありませんか?」

「……いや知らんな」

「俺も聞いたことがない」


 二人は顔を見合わせる。少女は。


「そうですか……いえ、お気になさらず。街で尋ねてみようと思います。もしかしたら、会った人がいるかもしれないので」


 彼女は軽く頭を下げる。門番はもう止めなかった。元の立ち位置に戻れば、街に迎え入れる。


「兄を探して旅か……事情はわからないけど、見つかるといいな!」

「一人で旅だなんて『戦竜機せんりゅうき』に出くわすかもしれないのに、勇敢なんだな! 頑張れよ!」


 ――人間は疑うこともあるが、その心は優しい。いまこの世界には、人間全てに共通する敵が存在しているから。


 と、少女が門をくぐり終えようとしたところで、門番が思い出して声をかける。


「そうだ旅人さん! この街では子供の『戦竜機』が見られるんだ! 滅多に見られないだろうから、息抜きにぜひ見て行ってくれよ!」

「――その子供の『戦竜機』、どこにいますかっ?」


 突然、少女はマントを翻して振り返った。その勢いに門番たちは気圧されるが、苦笑いを浮かべて教える。


「あ、ああ……南広場にある時計台の下に行ってみてごらん。そこでいつも見世物にされているから」

「そう……そうですか、ありがとうございます。いえ……気になっていまして。でも、その前に兄を探さないと、ですね」


 我に返った少女は平静を取り繕う。そして二度と振り返らず、街の賑わいに溶け込んでいく。


「……子供の『戦竜機』……見世物にされている」


 そう呟いた彼女――フェガリヤの足は、まっすぐに南へと向かっていた。

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