第2話 魂のイレモノ

「うあああああああああぁぁぁぁぁ!!!!パパ!ママ!」


それは死体、ただの肉。父と母でもなんでもない。父と母だ。


そして奥の部屋から2人、いや、3人の鎧を着た人間が出てきた。


「子供がいたのか、禁忌を犯した者の子だ。構わん、殺せ」


そう1人の人が言うと、


「「は!」」


残りの2人の人は腰から剣を抜く。


殺される。ここで僕は死ぬんだ。




嫌だ。




その時、父と母が見えた。目の前に。体には黄色い光を纏っている。


「パパ、ママ!」


父と母は険しい顔をしていた。


「マーリン、逃げろ、走って、走って家の向こうの森へ逃げろ。」

「大丈夫よマーリン、ママとパパはずっとあなたのそばにいるから。だからほら、走って」


2人の声はとても温かかった。


力が入る。


「うん、わかった」


足をバネのようにして玄関から外へ出る。


「あ、クソ!このガキ!!」


家の西側には森が見える。そこに向けて駆け出す。


頭は真っ白。けれど、父と母の暖かい言葉だけが残留していた。


後ろをむくと人間が追いかけてきている。でも確実に少しずつだけれど離れていっている。


そして森の中へ入った。


奥へ、もっと奥へ。走れ、走れ!


いつの間にか木々の間から除く空の色は変わっていて、青く広がっていたものは茜色に染まっていた。


そして頭に母と父が死んだ。その事実が引火するように思い出せられる。


「うっ、あっ、ううううっ」


視界が滲む。


「うああっ、うっ、あっうああああああ」


泣いた。泣きじゃくった。



■■■



人間界最高位魔法賢者、イグリス=フォードは、半年ほど前に王都の魔法騎士団[カーマーゼン]から脱団した。


理由は特にない。強いて言うなら歳が歳だから。今年でよわい81。髪は白く染まり、顔に皺も増えた。体にも限界というものが訪れる歳なのだ。


そして、王都郊外の森の中の小屋に住み始めた。


彼は幼き頃から天才と呼ばれていた。7歳にして上位魔術の使用。王都騎士との実践対戦練習では、傷一つ付けられず圧倒し、騎士に戦慄をあげさせた。

1年に1度開かれる戦闘武闘会では52回出場し、47度の優勝。彼はやはり天才だった。

そして今までに3度起こった悪魔との世界統一戦争では圧倒的力を発揮し、多大なる戦果を上げ称えられた。


しかし彼はそのようなことも全く気にせず、全く夢も持たず人生を送った。魔法を極め、魔法騎士団に入る。それが彼の人生のこれまでの全てと言えよう。

そして今に至る。


茜色に染まりつつある森の中を散歩していた。そのとき、子供の泣き声が聞こえた。


「なにごとじゃ」


彼は声のする方に駆けつけた。そこに着くまでに鳴き声はやんでいた。


そこにはまだ7歳ぐらいだろうか。男の子が眠っていた。その寝顔は優しさがこもっており、安らかだった。なによりそれを壊したくない。


「1度家に運ぶか……」


男の子を持ち上げ、そのとき、男の子から違和感を感じた。


ただの人間ではない。


それを直ぐに察した。

しかしそのようなことは関係ない。今すぐ家に運んでやろう。



###



布団の上でぐっすりと眠る男の子の体を触る。そして、少しだけ不自然な眼帯を外す。


子供の腹に自分の手のひらを被せるように少し浮かせて目をつぶる。


手に神経を移す。

手に魔力を渡す。

外部の魔力マナと手のひらに集まった魔力を錬成。




「見えた」


ほう、と頷く。


「人間と悪魔の混血か。珍しいものじゃ」


あまり驚きはしなかった。しかし、不可解なものを見つけた。


「こ、これは……」


ごくり、固唾を飲む。


「魂が3つ存在する……」


簡単に言ってしまえば魂とは人間そのものを具象化する[人格]であり、その者の人生の経験の積み重ねが形成する。つまり、魂が3つ存在するということは、人格ペルソナが1つの体というイレモノに3つ存在するということだ。


生殖とはつまり、生命タマシイの分割移植であり、親が所持する[呪い][能力]や、体内に宿しているもう1つのタマシイ、つまり、自身の体に封印した人間、悪魔、霊、神の魂である、[封印者]が母と父の分割魂こどもに受け継がれるのだ。


ひとつの体に2つの魂が人間の許容量であり、3つ以上の魂を体に入れると精神汚染が始まり、人格、精神が崩壊し人間ではなく、バケモノになる。


つまりこの3つの魂を保持封印している子供は異常、ただの人間ではないのだ。


魂分析アナライズ開始オン──」


魂それぞれの人格の分析を始めた。


「1つは、この子の魂じゃな、それから、悪魔の魂。ここまではわかっているんじゃ、」


あと1つ。あと1つの魂はなんだ……


それを理解した後にきっと驚かない者はいないだろう。


「まさか、こんな者の魂がこの子に入っているとは……」


その人格、魂は──




「神の魂じゃ……」

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