第155話 ノック

 ノックの音はすれども誰も居ない。ぶっちゃけドアを開けた時に何の気配もなかった。

「確かに聞こえたわ。何だったのかしら。そうだ、精霊達に聞いてみる。」

 そう思ったが、ヤーナもしっかりとノックの音が聞こえていたようだ。

 呼び出されたのは風の精霊。

 何故か2体現れた。シルフとジンのようだ。

 シルフはいいが、ジン程の上位種をこんな事で呼び出すとかどうなんだ?

「ねえ何でジンが来たのよ。私シルフしか呼んでいないわよ!」

 ヤーナは御立腹だ。そして呼び出していなかったようだ。

【マスターよ、我はたまたま近くにおった故、様子を見に来たのだ。】

 どうやらジンはたまたま近くに居たからとこちらに・・・・苦しい言い訳だ。

「まあいいわ。2体にやってもらいたい事があるのよ。さっき正体不明の何かがドアをノックしたから、直ぐにドアを開けたけれど何も居なかったのよ。正体を突き止め、可能であれば拘束して頂戴。あるいは状況を把握してほしいわ。」

【畏まりましたマスター。】

 本来の召喚相手であるシルフが去った。

 そして召喚していない上位種のジンは、

【そういう事であればすぐに済む。成程よからぬ気配がそこかしこにおるな。暫し待て。】

 ジンも去った。

「ヤーナ、何だったんだ?」

「余程この地が気に入っているのね。」

 まあ魔境が近いし、魔力が多いのか?

 さて、精霊が戻ってくるまでどうしよう?そう思ったが、

「え、嘘!信じられない。」

 ヤーナの様子が変だ。

「どうしたヤーナ。」

「シルフが消滅しちゃった。ジンも危ないわ。」

 そう言ってヤーナが飛び出そうとしたので、俺はヤーナを羽交い絞めにし身動きが取れない状態にした。暴れるヤーナだが、その度にヤーナの事故主張・・・・違った自己主張・・・・が腕に・・・・こ、これは仕方がないんだからね!

「離してよ!それに胸が痛い!」

「今離せば闇雲に外へ行くから離せない!」

「スケベ!」

「何とでも言え!」


 そのうちヤーナの動きは止まった。

 俺はヤーナを背後から抱きしめている格好になってしまっていた。何だよこれドキドキするじゃねえか!

「ヤーナ落ち着いたか。」

「落ち着いたわ。シルフが消滅したわ。ジンは何とか逃げ切ったようだけれど。」

 俺はヤーナを正面から抱きしめる。

 ヤーナは拠点が破壊された時、自身が呼び出した精霊を沢山失っている。

 今回もそうなってしまった。

「クーンのくせに気が利くじゃない!」


 何これ!どうにかなりそう!

 だがここまでだった。ジンがかろうじて戻って来たからだ。

【件の魔道具が設置してあった。ノックはそれを伝えようと他の精霊が教えてくれたのだ。気配が無いのはノックをした後に消滅したからだ。】


 どういう事だ?

 まさかと思うが3人の元領主を囮にし、おびき出そうとしていた魔族の仕業か?

 つまりこちらの意図がバレていて、先手を打たれていた?

 国王よ、何やらかしてくれてるんだ!手紙で伝えようとしたようだがバレているじゃないか!こういう時はどうするか?

 速攻魔道具を無力化し、魔族を確保するか?だがその魔族の正体がわからん。

【魔族は分かった。使用人に紛れている。】

 ジンはそこまで調べてくれたようだ。

【シルフと共に使用人に憑依している魔族に気が付いたのだが、その魔族に我等の存在がバレた。シルフが盾となり我はその隙に辛うじて抜け出せたのだ。】

 魔境も近い。どうすんだよこれ。

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