第12話 半年ほど頑張ってみたが
俺はあれから半年、大きな岩と格闘していた。
いやいや、本当に格闘している訳じゃないぞ?
大きな岩を除去しようと、考えられる事は全部やったつもりだ。
岩を砕く。
地面を掘って岩を動かす。
岩の周囲を掘りまくり、そこに岩を落とす。
色々試したが半年の間、村長宅ほどの大きさの岩はびくともしない。
親父は違う所を開墾するように言ってきたが、俺は拘ってしまった。
その間に親父も兄貴も木を切って根を取り除き、どんどん先に進んでしまった。
周りの人も同じだ。岩は放置。
結局俺はこの岩の近くに【土】で寝泊まりできる小屋を作り、ここでひたすら魔力が枯渇するまで岩の近くの地面を掘りまくった。
だがなんだこれ?
この岩・・・・ただの岩じゃないな?
どうやらただの大きな岩と思っていたのは、巨大な岩の塊の一部だったようで、地面を除去しても現れるのは巨大な岩のみ。
俺はひたすら自作した小屋からスキルを使用→魔力の枯渇で気を失う→小屋の中で回復する→小屋からスキルを使用・・・・と言った事を繰り返した。
半年もするとスキルを得た頃に比べ、魔力は数倍になった気がする。
たまに親父達が小屋に寄ってくれるが、俺の頑固さに呆れるばかり。
時々弟と妹もやってきて・・・・というか2人は毎日俺に食事を運んでくれる。
まあ俺もずっとこの小屋にいる訳じゃないから、時折魔物を狩ってその肉や素材は弟と妹に持ち帰ってもらったりしている。
何せ体を動かさないと筋肉が弱くなる。
だから適度に体は動かしている。
「クーンにい!後1週間で王都に行くんだよ!」
「クーンにいも来てほしいな!」
そして、いつの間にやら弟と妹が王都に向かって出発するのが1週間後と迫っていた。
もうそんなに時間が経ったのか。
そんな時、このタイミングで?と思うがついに岩が揺れた。
どうやら岩の下まで辿り着いたようだ。
そうなると後は地面を掘りまくるだけだ。
ひたすら地面を掘る。
すると面白いように岩が沈んでいく。
そして明日弟と妹が出発、という時にやっと巨大な岩は完全に地面に沈んだ。
これで今後はこの周囲も農地になるだろうし、こうした場所も今後は農地にできるから中々に広い土地が確保できるんじゃないか?
だが俺は、岩を何とかしようとずっとここに居たせいで、村中が大騒ぎになっている事に未だ気が付いていなかった。
・・・・
・・・
・・
・
「いいかお前達、もう開墾できる場所は殆どない。一か所を除いてな!」
クツーゴ男爵である。
今は開墾を行っている農民の代表がクツーゴ領内の集会所に集って、領主と対面していた。
クーンの父親もその場にいた。
「もう緩衝地帯は開墾が終わり、残すは魔境の向こうだけとなった。」
クツーゴ男爵はごうつくばりで有名だ。
そして今回未だ誰も成しえていない魔境の向こうを領地にしてしまおうと考えている。
「ちょ!ちょっと待って下さい!」
集ったうちの一人が領主に意見をしようとするも、
「農民風情が男爵さまに意見など生意気な!」
領主の部下がその男に近づき、その顔を思いっきり殴った。
「ぐぎゃ!」
顔から血を流しその場に倒れる。
「明日はいよいよ領地の将来ある若者の出発じゃ!それに合わせ魔境の開墾を開始しようではないか!」
魔境を超えるとか大丈夫なのか?いや大丈夫ではないだろう。
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