第9話 置いていかれてしまった・・・・

 俺は飛び起きた。まだ頭が痛い。


 急いで下に向かうと、誰もいない。

 食堂へ向かうと、

「坊主寝坊か?お前の仲間はもうずいぶん前に出発しちまったぞ?まだ食事はできるがどうする?」


 し、しまったあああ!!!!!


 まさかの寝坊。

 しかし今から急いで走って追いつくのか?

 その前に腹ごしらえだな。金は払ってあるんだ、今更慌てても仕方あるまい。


「親父さん、食事は頂くよ。食事が終われば水筒に水を入れてもいいだろうか?」


 水がないと道中困るからな。

「ああいいぜ。井戸に行って自分で水を汲んで入れとけ。」


 俺は急ぎ食事をし、荷物はまあどうせカバン一つだ。あ、台車があったなあ。それと杖か。


 そうだ、この台車を改造し、【キック▼ード】みたいにしちまえば移動が楽になるんじゃないか?


 【キッ◎ボード】ってなんぞ?


 俺は外に出て、王都を出た。

 門の近くで冒険者のパーティーを発見したが、手を振ってくれる。

 あれはニールスにいだな。


「何だクーン、寝坊か?」


「そうなんだよ。昨日スキルを使ったらぶっ倒れちまったらしいんだよ。」


「ぶっ倒れたってまた無茶を。おや、相変わらず器用だなクーン。それはクーンが作ったのかい?」


 ニールスにいは俺の作った台車を指さす。

「そうなんだよ。なかなか便利でさ。」


「荷物を運ぶのに便利そうだね。」


 俺はニールスにいとそのパーティーメンバーらしき冒険者を見た。

 何故か全員女性。【ハーレム】か?

 まただ、【ハーレム】ってなんだよ。


「何だクーン、彼女達が気になるのかい?まあ僕以外全員女の子だからなんだ?って思うよな。単純に彼女達はスキルが少なくて途方に暮れていたんだよ。まずあの背の高い彼女。その彼女の伝手でどんどん増えてしまってね。まあここだけの話、彼女達だけでやっていける様になったら僕はこのパーティーから抜けるつもりなんだよね。」


 そう思っているとその背の高い女性が俺に声をかけてきた。

「この子がニールスの弟かい?」


「そうだよ。今から領地に戻るんだって。」


「一人で?危険じゃないのか?」


「寝坊したんだよ。」


「何だそうか、ニールスの弟のくせにだらしがないな。」


 寝坊したからな。言い返せないぞ。

「それよりその台車、君のかい?」


 やっぱり気になるのか?

「ああ、昨日作った。」


「売ってくれないか?」


 え?売るの?今から改造して移動手段にしようと思っていたんだけど。これをまた一から作るときっと魔力が枯渇するよな。


「こらノールチェ、いくら僕の弟だからって無理を言ってはいけないよ。」


「だ、だけどさあ、あんな使いやすそうな台車、あったら色々活動が楽になるじゃないか?」


 この頃にはニールスにいのメンバー全員が俺の周囲、というか台車の周囲に集まってきて色々言っている。

 ごめんニールスにい。ニールスにいは立派だったよ。【ハーレム】と決めつけた俺は恥ずかしい。


「俺は今から台車を改造して移動手段にしようと思っていたんだが、魔力を回復させるポーションがあれば新たに作る事は出来るぞ。」


 すると背の高い、ノールチェと呼ばれた女性が何かカバンを探しているぞ。

「これ!ここに魔力の回復ポーションがある!これでどうだ?」


 ニールスにいのため息が聞こえる。

「確かに台車があれば今後の活動で随分助けになるのは間違いないだろう。今まで捨てざるを得なかった魔物の素材を持ち帰る事もできるからね。だがまだ弟は駆け出しで冒険者になりたてだ。無理はさせたくない。」


 うーん、あのポーションの効き目がどれほどか分からんが、全快するならやってみる価値はあるな。


「分かった。試してみよう。」


 俺はポーションを受け取り、まだ魔力は残っているから早速【土】のスキルで地面の土を確保していく。


「大きさはどうする?この台車はお試しで小さく作ったから、ニールスにい達の人数だったらこの2倍ぐらいの大きさでもいいんじゃないかと思うんだが。」


「できるのかい?」


「たぶんできるよ。」


「じゃあそうしてもらおう。おーいまだ魔力の回復ポーションを持っている人はいる?」


 すると2本出てきた。

 これだけあればいいんじゃない?


 俺は更に土を確保し、この時点で頭がガンガンと痛くなったので早速ポーションを頂くが、何だよこれ、物凄く不味いじゃないか。

 だがこう頭が妙にすっきりし、力がみなぎってくる気がする。単に気分がよくなったのか?


 で、パーツを大きめに作り、今度は作ったパーツに圧をかけていく。

 荷物を置く台には穴が開いている。

 荷物がでかくなれば、台に紐を通して括り付ける事ができる。

 尤もデカすぎれば台車を動かす事も困難になるから考え物だが。

 圧をかける事で強度が増す。

 重さは変わらないけれど、脆くなれば台車の寿命なんてあっという間だからな。

 だからここは魔力を惜しまなかった。

 そして車軸と車軸受けと車輪。

 特に車軸と車軸受けは大事だ。

 良さげな岩があったのでそれを加工する。

 土と練り込む感じ?

 そして【油草】と呼ばれている油がたくさん採れる草を見つけ、これを車軸と車軸受けの接する部分に塗りたくる。

 これはニールスにいも知っているだろうから、定期的に塗ってもらおう。


 ついでに持ち手を利用し、【キックボ◇ド】にもなるようにハンドルも変えた。

 普段は手押し台車のように使えるようにと、ハンドルは固定。

 ピンをまわして外せばハンドルが動く。

 因みにピンは衝撃や振動で外れないよう穴をあけて植物のスジを利用した紐で結んである。


 我ながらいい出来だ。


 ついでにもう一台同じのを作った。

 最後に車輪に空気草を二重に巻く。

 これもニールスにいなら知っているだろう。


 【キ▲クボード】風に作ったもう一台は俺が使おう。なので都合台車は3台目の前にはある。

 あれ?今更だけどポーションって高いのか?

 3本とも使ってしまった。


 だが、できは上々。台車の代金と思えば安いもん・・・・だよな?

 それに一応盗難防止のキーを設けた。

 キーがないと車軸が動かないようになっている。無理やり回せば壊れる。


「できた・・・・この小さいのと、新たに作ったのを置いていく。もう一台のは今から俺が使うから。」


 こうしてニールスにい達のパーティーは台車2台持ちとなり、今後魔物の討伐時に持ち帰る事の出来る素材が格段に増え、かなり有利な立場になったようだ。

 俺はこの後1年後に弟と妹の為に再び王都に来る事になるのだが、その時にはニールスにい達のパーティーは、パーティーランク、個人のランク共にDになっていた。


 何度も言うようだがこの世界は訳の分からん【ドラえ■ん】の【四☆元ポケット】のようなのは存在しないんだ。

 何だか水色のネコ型ロボットを思い浮かべたが何だろう。但し猫型なのに耳がない。狸か?


 ニールスにいとパーティーメンバーには感謝されまくったが、いかん!急いで合流しないと!


 お礼がどうのこうのと聞こえたが、急いで出発した。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る