スイカ割りの歌

北比良南

スイカ割りの歌

 悪さする子はおらんかな~♪

 駄々をこねる子おらんかな~♪

 悪さする子とスイカ割り~♪ 

 沢山沢山スイカ割り~♪

 割れたスイカは畑へポイッ♪

 汚れたスイカも畑へポイッ♪


 今年もこの不気味な歌が聞こえてくる。

 私は、この寂れた村に生まれた時から住んでいる。

 もうかれこれ45年程だ…だが、この夏の時期に聞こえてくる、この歌はいつまで経っても慣れることはない。


 私の住んでる、この寂れた村には本当に何もない。

 あるのは少しばかりの海と砂浜、山の方にはただ山があるばかり、そこには小さい川がいくつかあるくらい。

 それ以外だと本当に畑と田んぼばかり。

 そんな環境を解釈は人それぞれだが大きく分けて二つ。


 良く言えば自然の溢れた静養地。

 悪く言えば自然しかない田舎。


 そんな寂れた村に好き好んでくるものは、そうそうおらず、来るとしても夏場の長い休みに稀に来る人くらいである。

 正直この村へは、夏場に人が来ることを望んでいない。

 夏に限った話ではなく元々田舎という閉鎖性も含めて来ること自体がおススメ出来ないのだ・・・この村も多分に漏れず閉鎖的な部分が多い。

 ただ、そうはいっても完全な閉鎖とはなっておらず一応は社交性がある事はあった。

 ただ、その社交性というのも、裏に色々あっての事ではあるが…



 話を観光客へと移そう…



 今年の夏は三人がこの村へとやって来た。

 いかにも頭の悪そうな若い男性2人と若い女性1人


 この三人である


 正直、この村で悪さだけはしないで欲しい。

 過剰な我儘を言わないで欲しい。

 そして何より、この村から無事に出て欲しい切に切に願う・・・


              若い男女のお話


「隆志~恵奈~早く海行こうぜ! 海!」

「ちょっと待ってよ~」

「おま!公一お前が早すぎるんだよ」


 俺達は、夏休みを利用して車での旅行をしている。

 車で適当に移動して気になる場所へ泊って過ごすという形だ。

 メンバーは、神田隆志、山本恵奈、佐藤公一の三人だ。

 何が刺さったのか隆志がこの田舎が気に入ったらしく、恵奈も同意したので宿泊施設で宿を取り、昨日からこの村で過ごしている。

 今日はこれから海へ行くところだ。


「それにしてもここ本当になんにもないね~」

「恵奈こういうのがいいのに分かんね~の?」

「隆志のそういうところ俺には分らんわ」


 わいわい話している内に海へとついた。

 周りには小さな海の家以外特に何もなかった。

 その小さな海の家へ恵奈は走っていった、そしてあるものを見つけてはしゃいでいる。


「ねえ!スイカあるよ!スイカ!ねえスイカ割りやろうよ」

「ガキ臭ぇ恵奈~子供かよ~」

「まあまあいいじゃねえか俺やった事ないからスイカ割りやりたいぞ」

「しゃあないな~付き合ってやるか~」

「なんか上から目線~」


 わいわい騒ぐ三人

 結局三人はスイカ割をやる為にスイカを買う事にした。


「すんませ~ん誰かいませんか? スイカ買いたいんすけど~」


 しばらくすると店の奥の方から、人の良さそうなお爺さんが出てきた。


「出るのが遅くなってすまんなぁ~この年になると動くのも鈍くなってのぉ~さてスイカを買うという事はスイカ割でもするのかぃ?」


 人の良さそうなお爺さんは、ニコニコと話しかける。


「そうそうスイカ割やるんだよスイカ1個いくら?」


「ほっほっほっそうじゃな久しぶりのお客さんだしお代はいらないよ。それからスイカ割りするのなら、木の棒と目隠しも必要じゃろ? あげるから持っていきなさい ただスイカ割りの片づけはきちんとしていって欲しい。このゴミ袋に入れておいてくれるだけで構わない、約束じゃぞ」


「爺ちゃんふとっぱら~スイカの片づけね? うん約束ね~」

「マジか~スイカただでくれるなんて神じゃね? それくらいは守るよ」

「ちゃんとやるやる~それよか早くスイカ割りしよ~ぜ」


 こうして男女三人はスイカ割りに興じる。

「右、もっと右! いきすぎ! もうちょっと左! そこだよ~」

「あはははっ外れてる~」

「次は私がやりた~い!」

「結構難しいなスイカ割りって」

「言い訳がましいぞ~公一」


 こうしてスイカが割れるまで三人はスイカ割を満喫したのだった。

 そして海で思う存分遊ぶと宿泊施設に戻るときには、スイカ割りの片づけをすっかり忘れていた。

 三人が宿へと戻る途中、海の家で店番をしていたお爺さんに会った。

「おぉスイカ割りは楽しかったかい?」

「楽しかった~」

「なかなか面白かったな」

「そうだな」


 お爺さんはニコニコと嬉しそうにしている。


「そうかそうかそれは良かった。ところでスイカ割りで出たゴミを入れた袋は何処らに置いてあるんかの? 後で回収せにゃならんからの」


 お爺さんに言われて片付けの事を思いだした三人


「あ~ごめん…忘れてた」

「俺も忘れてた」

「すまん俺もだ」


「約束してもらったし、今から行って片付けておいてくれんかの? その後はこちらでやるから」


「え~明日じゃダメ~?」

「爺さんどのみち回収するなら片付けておいてくれよ」


「じゃ、じゃが約束したじゃないか何もゴミの処分までは言わん頼むから片づけだけでも」


 食い下がるお爺さんにいらついた恵奈が老人を突き飛ばし罵声を浴びせる。


「約束約束って五月蠅いなぁ! どうせ回収するならそれくらいやってくれてもいいじゃん!」


「…そうか残念じゃ」


 そう呟き老人はトボトボと海へと歩いて行った。


「気分わるっ! 早く宿へ戻ろう?」

「恵奈…お前やりすぎだぞ俺達が悪いのに何やってるの?」

「え~だってさ~」

「まあまあ二人共明日謝りに行けばいいだろ?」


 三人は宿へ戻るのだったが、その明日というものは2度と来ない事を三人は未だ知らない。

       

           宿に戻った三人の夕食の時間


「お~海の幸と山の幸が一杯だ~♪」

「旨そうだな!」

「早く食おうぜ!」


 三人は思い思いに食事を楽しむ、楽しい時間の筈だった。

 異変があったのは隆志が急に眠ってしまったところからだった。

 次に公一が急に眠り込む。

 そして恵奈にも異変が


「あぇ? 眠い…どう…して」


 三人が眠り込むとそれを待っていたかのように沢山の人間が集まる。

 そして三人を担ぐと三人を何処かへと運び始めた。

 三人が眠らされてから数時間三人はようやく目を覚ます。

 三人は目を覚まして異変に気付く…砂に埋められていたからだ。


「ちょっとこれどういう事よ!」

「なんなんだよ!」

「何の冗談だよこれは!」

「君たちは約束を破る悪い子、駄々をこねる悪い子、人を傷つける悪い子じゃ」


 喚く三人の前にあの海の家の老人が出てきた。

 ただ、違う点があるとするなら海の家で見た優しそうな顔ではなく、気味の悪い笑みを浮かべて・・・その笑みは悪意しか感じられず、ニヤニヤしたその顔を見て三人は何も言えなくなる。



 そして三人が黙ると同時くらいの事である…


 悪さする子はおらんかな~♪

 駄々をこねる子おらんかな~♪

 悪さする子とスイカ割り~♪

 沢山沢山スイカ割り~♪

 割れたスイカは畑へポイッ♪

 汚れたスイカも畑へポイッ♪


 不気味な歌が周りから聞こえてきた。

 そして歌声が止まると、あの老人が、左手に木の棒、右手にバール、を手にしていた。


「さてさてこれから楽しいスイカ割りが始まるぞぃ なに・・・村人全員でスイカ割りをするだけじゃ全員スイカ割りをしてスイカが残ったらそのスイカはこの村から出られるから安心せい」


 スイカ割りは凄惨さを極めた。

 子供はバールで大人は木の棒で三人を狙って叩く!

 掠っただけでも激痛が走り、三人は激痛の余り悲鳴を上げる。

 そんな恐ろしい惨劇はまだ続く、ようやく村人の半分まで回っただけだ。

 そして村人の残り4人までになった時には、生き残ったのは恵奈一人だけだった…


 殺されてしまった二人はというと…公一の頭は真ん中から叩き割られ即死したので、その後は叩かれる事はなかった…隆志は原型を留めてないいない程、中身が飛び散っていた…隆志の場合は中々死ななかった為に延々と叩かれるという状態だったのだ。


 そして生き残った恵奈はというと両目が抉れて、鼻は折れ、両方の耳は千切れかかっていた。

 それでもかろうじて生きていた。

 あと4人やり過ごせば村から出れるが、残り1人の時にそれは潰える。


 グシャッ!!!


 三人が死ぬと再びあの歌が…


 悪さする子はおらんかな~♪

 駄々をこねる子おらんかな~♪

 悪さする子とスイカ割り~♪ 

 沢山沢山スイカ割り~♪

 割れたスイカは畑へポイッ♪

 汚れたスイカも畑へポイッ♪


「おい博之!その汚いスイカを畑に埋めておけ」


 私は無言で頷く…


 私はこの村が嫌いだ、この狂った村が嫌いだ、夏が嫌いだ、スイカ割りが嫌いだ。

 お願いだこの村に来ないでくれ、この村で悪さをしないでくれ、この村で我儘を言わないでくれ。

 私はこればかりを切に切に願う


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

スイカ割りの歌 北比良南 @omimura

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ