刺激の虜

シヨゥ

第1話

「さすらう理由?」

 酒場で意気投合した冒険者に質問をしてみた。

「そんものはないよ」

「いやあるはずでしよ。一所に落ち着いたほうが体は楽なはず。なのにさすらう。そんなの理由がなきゃできないって」

 冒険者は腕を組み考え出てきた答えは、

「人嫌い?」

 えらくネガティブなものだった。

「いやいや。人嫌いだったらこうして話していないでしょ」

「それもそうか。だとしたら……刺激に飢えているから?」

「そうそうそんな感じのが欲しいんだ。っで刺激に飢えているっていうのは?」

「言葉にしようとすると難しいな。なんというか、その……決まった日常ってつまらないと思うんだよね」

 冒険者は勢いをつけるためか酒を呷る。

「刺激に満ちた毎日が欲しいというか。刺激っていろいろと楽しいし、学びになるじゃない?」

「たしかに」

「その刺激って決められた毎日にはないって思うんだよ。だから常に新しい環境に身を置く。新しい環境に居るってさ、刺激に包まれている感じなんだよ。何を見ても、何を嗅いでも、何を触っても、全てが刺激的なんだ。だからさすらう……んじゃないかな?」

「なるほど。なんかわかる気がする」

「そうかい? なら良かった」

「それじゃあ刺激的な体験を教えてよ」

「君は知りたがりだな」

「そうもなるよ。だって、日常に刺激がないんだもん」

「でもな。ちょっと喋り疲れたし」

「その代わりと言ってはなんだけど、ここの払いは僕に任せてよ」

「よし分かった。それじゃあまずは酒とつまみだな。今日は長くなるぞ」

 冒険者の言う通り夜遅くまで話は続いた。途中から周りの客も話に加わり、それはそれは刺激的な一夜になった。そのおかげで素寒貧である。

 夜が明ければ経済的にギリギリな日常が幕を開ける。きっとそれは刺激的だろう。

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刺激の虜 シヨゥ @Shiyoxu

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