莫野の戦い

ユウ国とバン国の衝突があったのは、シインがジ国へと遁走した三年後のことである。

従ってシインの故郷であるレツ国は既にバン国の影響下にあった。

バン国はレツ国だけでなく、東西南北四方にも侵略の手を伸ばしていた。特に西方には精力的に進出し、太河たいが沿岸の国は次々と併呑されていった。

そして遂にユウ国との勢力圏と境を共にすることとなったのだ。

バン国の首都は平といい、太河中流域に位置している。今この大邑には多くの船が水上に並べられている。

玉座に座るセイ王は参上した臣に,

「船の準備も整いつつあります。予定通り、明後日には出立できます。」

と報告を受けた。

「シホウよ、此度こたびは我も出るが、その他の編成に抜かりはないであろうな。」

「勿論でございます。右軍はシロク、左軍はシブンに任せることになります。」

「ふん、してなんじはどう攻める。」

「左右の軍はそれぞれしんとうにて統制を行い、こうにて王の中軍と合流いたします。そのまま太河を下り、よりは陸路をとりサイ国へと侵攻いたします。まずはきゅうを落とし、地歩を固めるべきかと。」

「面白くないやつじゃの。」

鼻哂びしんしながらセイ王がそう言ったのも、セイ王も全く同じ考えであったからだ。

シホウは長年令尹れいいんに任じられている股肱ここうの臣である。セイ王が即位してからはこの男が付かず離れずセイ王を補佐してきた。


令尹という役職はバン国特有の呼び名で、いわゆる宰相さいしょうと同等の位に当たる。軍事と内政両方の最高責任者であるので、無論半端な才覚の者では務まらない。バン国の国力の陰助をしてきたのがこのシホウである。

ちなみに軍の呼び名も上中下ではなく、左中右となる。中軍は大将格、右軍に強兵を配するのが通例である。


シホウが軍事拠点として挙げていた審、鄧はもともと独立国であったが、バン国に滅ぼされた土地である。共に首都のへいから太河を挟んで南方の支流近くに位置しているので、船を使えば容易に太河まで移動できる。そこから太河を下ると鎬へとたどり着く。審、鄧、平の最短合流地点がこの鎬である。さらに下ってゆけば、サイ国にもっとも近い邑、宜へとたどり着く。

「よし、今一度巫人ふじんに卜を行わせ、吉凶を確かめる。そして出陣じゃ。」

セイ王がそう宣言すると、にわかに城内が慌ただしくなった。各人が戦の為の支度へと動き出した。

先にも述べたとおり、バン国の政治体制などは前時代的である。

何かにつけ卜占で向後を見定めるのだ。これも前王朝の習俗を色濃く残していると言える。

そのやり方も踏襲している。牛などの肩甲骨や亀甲に細孔を穿うがち、そこに熱した金棒を差し込むと亀裂が生じる。この亀裂の形などから吉凶を見出すのである。

今回もセイ王はこの占いを行った。結果は吉、である。

王は「これは先善し。」と満足げに頷き、戦支度を急がせた。勿論この卜に巫人らの忖度そんたくが加えられていることは言うまでもない。

バン軍はこの日より二日後に予定通り行軍を開始した。

この活動をサイ国がいち早く察知し、ユウ国のカン公へと通達したという訳である。


季節は春の終わりを迎えている。太河沿いの土地は熱帯に近い風土であるので、一足早い夏の暑さを既に孕んでいる。

瑞々みずみずしい緑風の中をバン国の船団は西へと下っていく。心地よい風を受けてセイ王の意気も高揚していた。

「此度は何処までけるかの。」

セイ王は笑みを浮かべながら、傍らにいるシホウへ問いかけた。

「そうですな…」

これを受けるシホウは目を細め行く先を見つめた。どこまでも続く河の流れは地平の彼方まで伸びている。


この戦で負けるなどと微塵も思っていないセイ王である。

彼は近隣の国々と戦いを重ねることで、自らの用兵に疎漏はないと自負している。同時に他国の兵の脆弱ぜいじゃくさを感じている。

先のレツ国との戦いを思い返していただきたいが、そもそも両国の間の戦いへの考え方が異なるが故に、バン国の優位さが浮き出るのである。礼を重要視するジ王朝の国々は、戦いには国の威厳や格式高さを相手に主張することに重点を置いている。そのために兵の全てを戦闘に投入することはしないのである。主に兵車に乗った将同士が一騎打ちを行い勝敗を決めるのだ。ここで敵に背を向けず、己の武勇で相手を打ち倒したものが栄誉を、ひいては戦いの勝利を得ることが出来るのである。

過去には無様な戦いをしたと、自ら首を差し出す将もいた。そういう武人の誇りを懸けて挑むのが彼らの戦いなのである。

対してバン国の戦い方はこれに比べ旧態然であり、かつ暴戻ぼうれいである。

呪術師を先に立たせるのは相手の祖霊などを打ち祓う為であり、そういう存在を固く信じているからである。勿論、ジ王朝においてもそうした信仰は未だ残されているのだが、濃度の高さはバン国の方が上である。

その後の戦闘は白兵戦が主体で、礼が無いのは勿論のこと、もはや乱戦の体である。軍を纏める為の規律は存在するが、それでもジ王朝のそれとは比ぶべくもない。つまりは相手を叩きのめすことが最優先されるのだ。

この軍にセイ王とシホウの手が加えられたことで、更に大きく成長することとなった。

もともと好戦的なバン兵であったので、そこにセイ王の統率力が入ることでより強力な軍へと変貌した。ここに至り、バン国と周辺国の力関係は完全に覆ったと言っていい。

先に述べたようにジ王朝の軍は白兵戦に主眼を置いていないがために、歩兵の装備や練兵は徹底されてはいない。これでは軍全体で攻めかかるバン軍に苦戦をするのは当然のことであった。


「此度の戦では、こんを得ることが出来れば十分かと思われますが。」

少し間をおいて、シホウは返答した。

それを聞いたセイ王は、我が意を得たり、と破顔した。

「ははは、やはり汝は我と同じ目を持っておるわ。」

二人が見据えているのは眼前のサイ国ではなく、その背後にいるユウ国である。

セイ王はサイ国への侵攻は必ずユウ国を引きずり出すものと読んでいる。仮に出てこなければ一気にユウ国まで踏み込むことが出来る。何故か。

シホウの示した鯀という邑は、サイ国にある

洪湖こうこに最も近い都市である。ここを占領出来れば、洪湖からの水路を使い、ユウ国の首都、臨斉りんせいへと肉迫できるからである。

その様なことも理解できないのであれば、ユウ国には才知の欠けた凡愚しかいないということになる。攻め落とすことは容易いであろう。

しかし、ユウ国の情勢はバン国までしっかりと届いている。

カン公とトウシュクの存在である。セイ王は彼らを意識しながらも、同時に激しい反骨心も持っている。

(世の評判なぞ、誇大なものであることを世に曝してしてやろう。)

いわばサイ国への侵攻は、ユウ国への挑発のようなものである。戦の礼の中に、王公が出陣してきた時には、迎える軍も王公が出るというものがある。その事も熟知した上でセイ王は自らも出陣してきている。カン公を釣りだしてしたたかに打ち懲らす。これがセイ王のもう一つの目的であった。


バン軍は無事宜へと到着した。ここからは敵国内となるので、陸路を取る。

直近の邑は南西にあるろうである。ここは厳密にはサイ国の邑ではなく、ジョという国の邑である。目的の為には構わずその地を侵すバン軍である。およそ二百五十里の行程だが、軍は六日で踏破をして更にそのまま琅を落としてしまった。セイ王の自信も決して虚勢ではない。

ここからサイ国領へと入っていく。



ここで余談となるが、この時代の領地の捉え方について少し言及しておきたい。

ジ王朝より与えられる国は、その領土というよりは邑そのものと見てよい。まだ発展途上であるこの時代は人口も決して多いとは言えず、邑の数も少なく、人々はその邑内外のみで集落を作っているのだ。それ故国境は曖昧で、人々の目線は領土という面ではなく、各邑の点でもって国を捉えている。国を面で捉え、戦略を構築していくのはしばらく後のことになる。



さて、そのサイ国領でセイ王が次に目指すのは久である。ここを抑えれば、サイ国の首都であるぼうと洪湖にある鯀の両方に睨みをきかせる事が出来る。

先ずは久、と準備を進めるセイ王の元に斥候せっこうが状況を伝えに来た。

聞くと既に久には兵が集められていると言う。

「更にはユウ軍も合流している様子でございます。」

報告を聞いたセイ王は不敵に笑った。これも予想の内である。

「なかなか軽快な動きではないか。さすれば、相対するは…この辺りかの。」

そう言うと机に広げられた簡素な地図上の、久と琅の中間を指し示した。

ここは莫野ばくやと呼ばれる広大な平原である。サイ国のある土地は比較的平野地の多いところで、そこに洪湖を始めとする大小多くの湖が点在する。その間を縫う様に、これもまた大小様々な河川が流れている。

久という邑も湖の畔にある。この湖から琅の方向に一筋の河が流れている。滋水じすいという河だが、この河の東西に平野があり、東部の平野が莫野と呼ばれている。

当時の戦闘の主力である兵車は平坦な土地でなければ本領を発揮出来ない。それを踏まえると、最適な地はこの莫野に絞られる。

「相手も必ずここに出てこよう。出るに善い日を選び、彼の地で勝負をつける。皆にそう伝えておけ。」

ここでもまた卜いを行い、出陣の日を定める。更に敵地でもあるので、巫人の者たちは祓邪ふつじゃも行った。何事も先ずは祖霊への働きかけから始まるのだ。

(此度の戦は必ず天下に知れ渡ることになろう。ここでユウ国を黙らせることが出来れば、日和見の諸国も我が下へと来るであろうよ。そうなればジ国などは我の思うように動かせるわ。)

先だってジ国へ入朝したことなど忘れたかのような振舞いである。もとより利を優先する為にわざわざ膝を屈したようなものなので、王朝に対する敬慕の念は無いに等しい。

来たる決戦に向けて闘志をたぎらせるセイ王であった。


さて、迎えるユウ国の動向はどのようであったか。

サイ国より第一報を受けたのはバン軍が丁度平を出発した頃であった。

バン国と隣接しているサイ国は日頃から動静を注視していた。いつ攻めてくるかわからない国なので、商人などを介して武器の買い入れや軍船の出入りなどを逐一情報収集していたのだ。

そんな努力が功を奏した。バン国の宜に戦の準備の気配を悟り、すぐさまユウ国へ援軍を要請したのだ。数日も経たないうちにユウ国のカン公の元へ報せが届けられ、トウシュクの呼びかけの下、多くの同盟国へもバン国の出陣が伝えられた。バン国に近い同盟国は参陣も呼びかけられた。辛酸を嘗め続けている近隣国らは今こそ反撃の機会、と持てる兵を総動員してサイ国の首都萠へと疾駆した。


サイ国からの報を聞いたトウシュクはその足でカン公のもとへと趨走すうそうした。

トウシュクは国が拡大するにつれ、いずれ必ずバン国と戦う日が来ることを予想していた。

彼の耳にもバン軍の精強さは届いている。如何いかに国力を増やしても決して油断は出来ない。バン国の支配地域は分っている土地だけでもユウ国をしのぐ。兵力差がつくのは目に見えているからだ。その為にトウシュクは長い時間をかけてバン国の情報を収集し、対策を考えていた。

軍勢を久へ集めるのも、セイ王の狙いを既に看破していたためだ。

「バン国がもしサイ国を侵すのであれば、それは必ず我が国を見据えての事です。セイ王は野心溢れる人物でありますので、これからもどんどん他国を襲い続けるでしょう。その中には我が国も入っています。我が国に攻め入ると考えるならば、必ず北部の水路に着目するでしょう。臨斉の近くを流れる斉水はサイ国の洪湖に通じております。この洪湖を手中に収めれば、一気に臨斉へ軍を送ることも可能になります。その手を持つことが出来れば、さらに様々な策を組み立てることが出来るでしょう。我が国としては後手に回り続けることになります。サイ国を落とすことはすなわちユウ国も落とせる、そうセイ王は考えることでしょう。」

サイ国からの報を受けた時、トウシュクはそうカン公へ告げて重大事であることを喚起した。

「サイ国を落とされてはならぬということか。」

「その通りでございます。さらに言うならば、サイ国の久という邑を守らねばこれもまたバン国に有利な状況となってしまいます。なぜなら、久は萠と鯀それぞれにみちをつないでおりますので、この邑を落とされた場合、萠と鯀とどちらも防衛をせねばならなくなります。我が軍だけではおそらくバン軍の兵数には敵わず、同盟国の兵を合わせましてようやく互角であるかと思われます。その上で兵を割いて両邑を守るは困難。その為にも久を奪われてはならないのです。」

「そうか、ならばすぐに発たねばなるまい。そなたがそこまで言うのだ。準備は出来ているのであろうな。」

カン公はにやりと笑った。トウシュクは常々、カン公にだくの一言を出させればすぐに取り掛かれるように予め膳立てを終えている。カン公からすれば首を縦に振るだけで、諸事うまくいく。

今回も例外ではないと絶大な信頼を置いているのだ。

壇上からそう問われたトウシュクも当然のように答える。

「今日にでも出立出来ますれば。」

すぐさま玉座を払ったカン公は代々の祖が祀られた社稷しゃしょくへ戦勝祈願をすると、その足でサイ国へと出発した。

萠にてサイ軍や他国軍と合流したカン公は、集まった諸将に今回の戦略を謀議すると、そこから先は連合軍として久へと移動した。琅が陥落したという報を聞いたのは久に到着した時であった。

報告を聞いたトウシュクは安堵した。

まずはこれで対等に渡り合える。なるべく急行したつもりであったが、それでもバン軍の侵攻のはやさには内心舌を巻いた。

(やはり油断できぬ相手…)

ここよりは僅かな抜かりもない様、より入念に指示を与えた。決戦は明朝になろう。



緊張感の漂う莫野は静けさを保ったまま朝を迎えた。

夜明けを待って邑を出た両軍は双方の予定通り莫野で接触、それぞれ陣を敷いた。

バン軍は西に右軍であるシロク、東に左軍のシブンを配し、セイ王自らが率いる中軍はその中央に構えた。全軍が一直線に並ぶ陣形である。

対するユウ軍率いる連合軍は、中軍にカン公、トウシュク、サイ公など主だった軍で纏め、上軍は連合軍主体、下軍はユウ軍主体の構成とした。主力であるバン右軍に崩されにくいよう、戦闘に長けたユウ軍でこれを受ける作戦である。

バン国が今回率いる軍勢は、およそ三万七千、対する連合国はユウ軍二万五千、サイ軍四千、その他の軍で四千の総勢三万三千である。


例の如く、巫女達を先頭に並べたバン軍は祈祷を開始した。彼女達は奇声を上げながら少しずづ前進していく。

巫女の後方をゆっくりと追うバン軍であったが、両軍の殺気が交差する距離まで来ようかというところで、バン右軍がまず先陣を切って出た。進軍の合図は太鼓を打って行う。その打つ調子によって速さや左右、進退を軍全体に知らせるのだ。

右軍の将シロクは前方のユウ軍にそれほど鋭気を感じなかったため、早々に攻めかかることを指示した。

「南方の貴族など知れたものよ、一気に踏み潰せい。」

大声で叱咤しつつ徐々に太鼓の音を速めた。右軍は全速力に近い速さで突入していく。

これを中央で見張っていたトウシュクは、その迎撃の合図の機会をじっくりうかがっていた。それを横で見ていたカン公は、

「まだ合図は出さぬのか。」

と焦れたように急かした。

「絶好の機を逃さぬよう…、今です。」

トウシュクが素早く手を挙げると、脇に控えていた旗手がすかさず吹き流しを高く掲げた。

それを落ち着いて待機していた下軍の将が確認するや太鼓を打ち鳴らし、全下軍前進を命令した。先に動いていたバン軍が連合軍にやや近い位置で激突した。

押し込まれた様な体勢に見えたカン公だが、その後の敵の動きが鈍くなっているのを感じた。

「うまく受けたものだな。」

「いえ、それでもこの勢いです。やはりバン軍は侮れません。さあ、残る軍も行動を開始しました。公はしかと振り落とされぬ様。」

ここからは全軍が接近、戦闘に入ることとなる。連合軍も前進を指示した。

右翼の攻防を遠方から眺めていたセイ王は冷静に状況を分析していた。

(初手の勢いを削がれた…呼吸の間を突かれたか。)

先に全速で駆けていたバン軍は、平素の戦闘であればその勢いが頂点の頃に敵とぶつかり、その突進力を撃ち込むことが出来た。

しかし、トウシュクはその時機を遅らせることで、バン軍の速力が落ち始めたところに自軍の戈矛を突き立てることに成功したのだ。

どの位置で接頭させるか、下軍への通達の時間差も考えながらそれを読まなければならない。トウシュクは高度な戦術を密かに駆使していたのだ。

「中央で指揮を出していたカン公、いやトウシュクとかいう臣の仕業か…。ふん、小細工を弄するものよ。そのような小手先だけではどうにもならんぞ。」

セイ王は中軍突撃の合図を出した。堂々と正面から突き崩す。結局この単純かつ強力な攻撃に耐えられた軍などいない。

セイ王直属の部隊は勇猛果敢なバン兵の中でも更に選りすぐられた戦士中の戦士である。突撃の太鼓が鳴らされるや、偉丈夫いじょうふでもすくむ様な咆哮を上げながら眼前のユウ兵へと噛みついた。

重厚な一撃を喰らった前線のユウ兵は成す術もなく崩されていく。それでもユウ兵はカン公へは近づけまいと密集して対抗した。怒号と剣戟の交差。どれだけ汗血が流れようとも逡巡しゅんじゅんする者は一人もいない。

最前列のバン兵は手にげきを持ち相手に突き掛かる。戟という武器はぼうが一つになったもので、戈は柄から垂直に、矛は先端にそれぞれ刃が取り付けられている。その戟を相手の後頭部へと滑り込ませ引き倒す。体勢を崩したユウ兵の髪を掴むと今度は剣を抜き放ちそのまま首を切断した。その間後列の兵は互いに長柄の武器で攻防の応酬を繰り返す。

こうした戦闘に慣れているバン兵は徐々に軍を押し込んでいく。

気づけば連合軍は上軍を軸に左旋回をするような形になっていた。やはりバン右軍を中心に後退を余儀なくされていた様だ。

「やはりユウも取るに足らぬ様だわ。シホウよ。」

セイ王は激しく太鼓を打ちながら、傍らの兵車に立つシホウに余裕の笑みを見せた。

「このまま一気に踏みつぶしてやろうぞ。」

「そうしましょう。」

どこかに一抹の不安を抱えているシホウであったが、ここまでの戦況に至ったのであれば、何があっても勢いでもって粉砕してやればよいと腹を据えた。さっさと勝敗を決してしまえば良いのだ。

セイ王に続いてシホウも突撃の太鼓を打ち鳴らした。

攻めの勢いを駆ったバン兵はさらに激しく突撃を開始した。

しかしそんな多くの血と戈矛が交わされる奥から、トウシュクの冷静な視線が的確にセイ王を刺し貫いていた。

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