烈国記
@dokuryu
序
世界はまだ幽暗としていた。
大地と空の境目も判然としない、深淵のような夜である。よく目を凝らして見れば、決して多くはないが光が明滅しているのがわかる。人々が炬火を灯しているのであろう。
この言葉は暁というだけでなく、人の世の夜明けをも意味している。
この世界の人々は、長く幽玄なる上古の時代を抜け出した。神が主の時代から、人が主の時代へと移り変わろうとしている。
そういった時代のうねりは無数の人の運命をも
そろそろこの大地に目を移してみよう。
朝日に照らされてこの世界の様子も明瞭となった。
彼の名はキシュウ、字はシインと言う。
これよりは、この時代の渦中の只中を往く彼の生を追うことにしよう。
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