第12話「お昼休みの出来事」
次の日の朝も、変わらず時間ギリギリに登校する。
「悠太ぁ、おはよぉ」
「……はよ」
俺は元々朝弱くてテンションが低いことと、昨日あったことを瑠璃の姿を見たことで、瞬時に色々と頭によぎったので、歯切れ悪い挨拶を返した。
「テンションひっくいねぇ」
「……」
一晩寝て、朝こうして教室に多くのクラスメイトがいる普段の光景を目にする。
そうすると、俺は一体昨日の放課後、何をしていたのだろうかという気持ちになる。
この後ろから聞こえてくる、若干聞き慣れ始めた声のやつと二人で帰った上に、通話までした。
悪い夢を見ていたのでは、と位にまで思ってしまう。
そんなことを考えていると、いつもどおり始業のチャイムが鳴って、一日の授業が始まる。
二年生になって、授業が何回か始まったことで、授業行う教師がどのような順番で指名したり、厳しいのか、比較的に優しくて緩めなスタイルなのか少しずつ分かってくる科目も出てきた。
怒られたり、目をつけられたりしない程度に気を抜いたりすることをしながら、一時間ずつ授業を受けていく。
何だかんだ、すんなりとお昼までの四時間の授業が終わって、昼休憩になった。
「悠太〜! 助けてくれ〜!」
「英語の予習か?」
「話が早くて助かる! 五時間目、英語だろ? 次の授業中までに、出来てないところ見たい!」
お昼御飯を食べるために、カバンから弁当箱を出そうとしていると、陸人がノートを持って泣きついて来た。
「全然出来てないのか?」
「そーでもない。一年の頃から頼りっぱなしだったから、このままじゃダメだってことで、寝落ちするところまで頑張った」
陸人のノートをパラパラと巡ると、八割ほど予習を自らの力でやっていることが分かった。
一年の頃は、土日が使える月曜日の予習で五割、それ以外の時は全く出来ていないのがデフォだったので、かなり頑張っている。
「かなりやってるじゃん」
「だろ? まぁでも完成してないけどな……。間違ってるところ、沢山あるだろうし」
「でも、部活から帰ってきてから頑張って、ほぼ予習出来てるとは。何があったし」
二年生になって心機一転、頑張ろうとなったのだろうか。
昨日の昼休みの話を思い返すと、そんな風にはまるで見えなかったのだが。
「実はな……。晴香に、そのことについても色々とお説教を貰いまして」
「勉強ちゃんとしろって?」
「いや、お前にあんまり迷惑を掛けるなって言われちゃって。二年生になったし、確かに根性入れて頑張ろうかなって思って」
「そう思って実践出来るだけで、すげぇよ」
いくら彼女から言われたからといっても、すぐにこうして頑張るということは、難しいと思う。
そして何より、彼女から言われて素直に良い方向に頑張ろうとする。
本当に絵に描いたような、理想的なカップル。
「今後、少しずつ頑張ってある程度自分で出来るように頑張るから、見せてくれない?」
「いいよ」
自分のノートを机から取り出して、陸人に渡した。
「サンキュー」
「先に予習完成させる? それとも先にお昼御飯を食べてからにするか?」
「あ、今日昼飯持ってきてなくてさ。購買で買ってもいい?」
「……早く行かねぇと、何もなくなるぞ」
悠長に話をしているが、購買のパンなどは急がないと速攻で売れてなくなる。
「それもそうだな! 行こうぜ!」
「え、俺も行くの?」
「来てくれ」
「へいへい」
特に自分は買ったりはしないが、陸人についてこいと言われたので付いていくことにした。
うちの高校では、校舎の外れにある学生食堂の近くに購買部も存在する。
パンやおにぎりなどを売っており、買ってそのまま教室などに持って帰って食べることが出来る。
持ち運びも出来るし、食べやすいので男女問わず人気で、すぐにどれも売り切れる。
すでに俺たちが到着したときには、物凄い人だかりになっていた。
陸人がその人混みに突撃して数分後、手提げ袋を持ってふらつきながら帰ってきた。
「はぁはぁ……。お待たせ」
「ひとまずは買えた?」
「買えたけど、中身を選ぶほどは残ってなかったわ……。久々に行くから油断した」
中身は菓子パンやら、昆布おにぎりなど、ひとまず買えるものを買いました感が伝わってくる。
「よし、じゃあ戻るか。早く戻らないと、予習の完成まで間に合わんし」
「そうだな! ……ん?」
「どうかしたか? ……!」
教室に戻ろうとした時に、陸人が何かを見つけて立ち止まった。
その陸人の視線を追うとそこには、瑠璃の姿と見慣れない男の姿があった。
校舎の壁にお互いにもたれかかって、何やら話をしているようだ。
瑠璃と一緒にいる人が誰なのかは分からなかったが、目の前に映る光景が昨日の言葉と同じように、何か心に突き刺さるような感覚がした。
「あれ誰だっけ……。バスケ部のやつだったかなー? あんまり接点が無いから、名前が出てこねぇわ」
「……」
「悠太?」
「ん? ああ、ごめん。行こうか」
陸人に声をかけられて、ボサッとしていた俺は気を取り直して教室に戻るべく、瑠璃たちの姿を視界から外した。
「……あんまり気にしない方がいいぞ」
「うん、大丈夫だって」
「弘瀬さんのことで、悠太に何か良くないことがありそうで不安って、晴香が気にしてたぞ」
「有田さんが?」
「何だかんだ、俺と晴香の事を一番気にしてくれていてことを感謝してるんだよ。予習もその流れからの話だったしな」
まさか、有田さんに気を遣わせているとは、全く想定していなかった。
それだけ瑠璃との接点が気になったのか、それとも俺の様子がおかしいと思ったのか。
何だか、付き合っている二人の会話の中に俺が入ってきて、しかも心配されているというのが、情けなくて仕方ない。
「なんか……すまねぇな。こんなに拗れた感じじゃなきゃ、気を遣わせることもないのに」
「いやいや、俺の方がお前に色々助けられてるぞ!
晴香もお前の事はたかーく評価しているしな!」
「その評価、落とさないように頑張るわ」
陸人だけでなく、有田さんにも信頼されることはとてもありがたいことだ。
「晴香に悠太ってすごく気を遣ってるけど、あいつはお前が不器用なこと知ってるから、もうちょい素になっても大丈夫だぞ?」
「マジで?」
「あいつがお前に女の子、紹介するってよく言ってるだろ?」
「そうだな。すごくありがたいけど、なんか関係性が拗れて有田さんの信頼失うの怖くて、何にも進展なく終わるけどな」
「それ、あいつ大分前から知ってるからな?」
「……え?」
初耳だった。
俺としては、有田さんに何も悪い方に思われずに、うまく適当に話を収めることが出来たと、勝手に思っていた。
だが、俺が事勿れで寄りの考え方で必死に動いていた事は、とうの昔からバレていたらしい。
「今度こそ何か起きるだろ!って考えながら、興味あるって友達をお前に紹介してるらしいからな」
「マジか……」
「ま、恋愛を含めた人間関係なんて、合う合わないあるし、失敗もあるよ。お前が変なことをしないことぐらいは、あいつも分かってるぞ」
実際に付き合ってて、安定した理想的カップルを形成する男からのありがたい言葉。
「返す言葉もねぇわ……」
「悠太って、人と話したりするの難なくやるけど、こうして喋ると陰キャ感あるなー」
笑いながら陸人に、そんなことを言われた。
昨日の瑠璃に続いて、二日連続で陰の気を指摘されてしまった。
……いや、妹を含めたら三日前からか。
「最近、よく言われる」
「ま、それが悪いとは言わんが、男には大胆さとかも必要やぞ?」
「どうすりゃあ、改善できるかね?」
「んー。まずは晴香とタメで話して、俺と話すぐらいライトな感覚になるところからだな!」
「いきなりハードルたけー……」
「あいつもそのほうが喜ぶから、まぁ頑張ってみようや」
そんなことを言う陸人に、背中をバシバシ叩かれながら、教室に戻ってきた。
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