第11話 教祖
LF財団の教祖とはどんな人物なのだろうか。莫大な財力を背景に世界経済へ計り知れない影響を与えるとの噂を耳にする。何世紀にもわたって、裏から世界を支配しているという人さえいる。しかして、その実態は謎につつまれており、組織の規模さえ明かされていない。
その財団のトップである”教祖”なる人物から、直々に会いたいとの要望を受けるとは。俺はともかくとして、冷静な葉山さんですらビックリしていた。そして、
「しょうがないわねー。」
「タダだし、スーツケース探してもらったみたいだから、会ってやるのよ。」
と、超強気なデニーさん。
「どこにいけばいいの~。アオイ、ラクダかカバ頼んで。」
俺は、カバはさすがに無理があるのではと言いかけたが、冗談に違いないと聞き流した。
「教祖の正体を暴くのよ~。」
「いざいかん、カバと共に~。」
どうやら本気だったようだ。そしてトラブルの予感。
「アスワンからアブシンベル神殿まで約300㎞っと。」
「カバの時速は・・50㎞/hね。」
「これから日没で、砂漠の中を6時間以上カバに乗り続けるのは無理だや。」
「デニーさん、ここは財団が用意したホテルに泊まって、明日の朝バスでいきましょうよ。」
「仕方ないのね。お腹空いたし、急に眠たくなったのよ~。」
財団が用意したホテルは、ナイル川の中州にある超高級リゾートホテルであった。せっかくの高級リゾートだったのだけれど、俺たちは軽めの食事を採った後、それぞれ部屋に入るや否な熟睡してしまった。エジプトについてから今までの疲労がどっとでたようだ。翌朝8時初のバスに乗り、俺たちはアブシンベル神殿を目指した。
財団から指定された場所は、アブシンベル神殿入口であった。観光客が多く、落ち着いて話ができるような場所ではない。
アブシンベル神殿は、ラムセス2世が太陽神ラーを祭るために建てられた神殿で、入り口に4体の巨大なラセス2世像があることで知られている。
入口近くまで行くと、例の土産物売りが近づいてきて神殿内部へ入るよう促してきた。神殿内部も観光地であり、やはり観光客がごった返している。更に奥の方へ進み、鉄格子で仕切られた、観光客立ち入り禁止のエリアへ案内された。
その奥には隠し扉があり、その先へと進んでいった。どうやらここが財団の本拠地のようであった。それにしても、有名な神殿の奥とは驚きだ。
そういえば、このアブシンベル神殿はかつては違う場所にあり、アスワンハイダムを建設する際に水没するため、今の場所に移設されたと聞いたことがある。その移設工事の際に密かに作られたのだろうか。
奥へ進んでいくと開けた空間があり、その奥に部屋があった。土産物売りがドアをノックし、俺たちの到着を中にいる人物に伝えた。いよいよ教祖と対面である。
部屋に入ると、ごく地味な机と椅子や調度品が並べられていた。巨万の富を持つを言われている財団とは思えない質素さである。
そこに一人の人物がたたずんでいた。その人がいる、それだけで質素な家具なんて気にならなくなる位の存在感を感じた。どんなに装飾品で飾っても、高い調度品を陳列しても、その全てがこの人の前ではかすんでしまう。
「なんという女子力。高まりすぎなのよ~。」
そう、教祖はまるで子供と思えるくらい小柄で愛くるしい女性であった。
「遠路はるばるご苦労様なのれす。」
と、その風貌とは裏腹にどこか不自然な日本語であった。
「あなたがLF財団の教祖様なのでしょうか?」
俺は思わず声に出して聞いてしまった。
「教祖というのは、自分で名乗っているわけではないのれす。」
「財団の面々が勝手にそう呼んでいるのれす。」
「私は、リリーア・ララ・リラというのれす。」
「リラさんでいいれすよ。」
「私は新垣デニーよ、デニちゃんでいいのよ。」
何故か張り合うデニーさん。女子力対決のつもりなのだろうか。
「葉山緑です。よかったらリーフとお呼びください。」
葉山さん、どこかデニーさんに似てきたのは気のせいだろうか。
聞きたいことは山ほどあり、どこから聞けばいいものかと思っていた矢先、教祖から話を切り出してきた。
「こちらから招待しておいて、詳しい事情も話さないのは失礼なのれす。」
「この財団のこと、亡くなった王子のこと、その宝石のことをお話ししますれす。」
そう言うと教祖は淡々と話し始めた。
LF財団は今では”財団”としての
その罪を償うべく、今では人道支援をモットーとしており、困窮している人を助けたり、事業に出資して未来を拓いたり、世界規模で活動を行っているとのことであった。表舞台にあまり出ないのは、過去を暴かれて誹謗中傷を受け、なすべき活動ができないことを恐れてであった。
スーツケースの中で亡くなっていた少年は、ここアスワンに隣接していた小さな国の王子であった。内乱で王族の命が狙われていたことから、国王の願いで財団が日本に密入国させていた。家宝である宝石と共に。ある時、宝石を狙った盗賊が国王を人質に取り、国王の命と引き換えに宝石を差し出すようせまった。それを知った王子が、家族の危機を見過ごせず、国に戻れるよう財団に依頼してきた。小さな独立国で、国際的には孤立した国であるため、パスポートすらない。
一刻を争う時に、王子が思いついた方法が、自身がスーツケースに入り貨物室に忍び込むという方法であった。これはかつて、どこかの自動車会社社長が人目を欺くために行った、荒唐無稽な方法をみて思いついたらしい。スーツケースにはそれとわかるよう、ド派手なバンドをまき、内側から簡単にバンドが切れるよう細工を施した。成田空港では、空港で働く財団員が協力し、ことは順調に運んだかに思われた。
しかし、この情報は盗賊に知られることとなり、カイロ空港の荷下ろし場で、スーツケースは持ち去られることとなった。財団の末端に内通者がいたのである。
ここで二つの予想外の出来事が起こった。一つは盗賊がスーツケースを取り間違えたこと。そしてもう一つが、スーツケースの中で王子が亡くなったこと。
これは貨物室の気圧が予想以上に低く、気温が下がったことが原因と考えられた。予定では貨物室内に入ったらスーツケースからでて、防寒対策をする手筈であった。しかし何故か王子はスーツケースから脱出できなかった。あとでわかったことだが、乗客の一人が乗り遅れそうになったことで、離陸直前まで貨物室に作業員がいた。これが原因でチャンスを失ったと思われた。
こうして、王子の死体が入ったスーツケースを俺が取り上げた。まさかあのド派手なバンドが目印とは。
ここまで聞いていたデニーさんが、
「あのバンドは限定品で数が少ないっていってたのよ~。」
「それにしても腑に落ちないのよ。」
「財団の力があったら、日本からこっそり出国させるなんて簡単のはずよ。」
「なんでわざわざ荒唐無稽、いや無謀ともいえる方法をとったのかしら。」
「ふむふむ、貨物室は十分な気圧をかけないため、高度が高くなるとマイナス6℃位まで下がるなっと。」
「確かにこの気温に10時間以上いたら低体温症になっても不思議はないねっと。」
「実は、王子をそそのかした裏切り者がいたのれす。」
「国王が拘束されたって情報を知らせたのも、この裏切り者の仕業なのれす。」
「宝石を肌身離さず身に着けている王子ごと奪うつもりでいたのれすね。」
「それで背に腹は代えられない王子が、苦肉の策で思いついたのがスーツケース。」
「これもおそらく入れ知恵があったのれす。」
ここで、デニーさんが教祖の話に割って入るようにして、
「スーツケースから外に出ようとした形跡はなかったわ。」
「スーツケースに入れられたときは、すでに睡眠薬を飲まされていたに違いないのよ。」
「そして、これで全てつながったのよ~。」
「その裏切り者は・・・」
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