生きてくこと

バブみ道日丿宮組

お題:思い出の場所 制限時間:15分

生きてくこと

 彼女との出会いの場所は、屋上だった。

 彼女はいわゆる不良で、タバコを吸ってた。

 僕はといえば、いじめられないように隠れてご飯を食べてにきてる始末。

 最初はお互い干渉しないようなある程度ラインを引いてたが、それも何日も続ければ崩壊する。

 そうして彼女に恋するまでにあまり時間はいらなかった。向こうもだんだんと砕けてった。お互い足りない愛を求めてのだ。

 垢抜けというのか、付き合い始めたら彼女はタバコをやめて、髪の毛も黒に戻した。

 まじめに同じ大学に入りたいとその頃は言ってた。

 彼女はかなり勉強ができた。

 授業をまったく聞いてないというのに、すらすらといろんな問題をといた。

 彼女は天才だった。

 自分と合わない環境が気に食わなくて、適当にやってたとのことだ。

 推薦をもらうことはできなかったが、一緒の大学に入学できることになった。もっと彼女に見合った大学に入ることもできたのに、彼女は僕といられることを望んだ。

 そこからは一緒の生活がはじまった。

 同棲は親に心配されたけど、彼女の親は感謝してた。

 天才であったのだけど、家事は苦手だった。

 よく砂糖と塩を間違えるし、洗濯物を泡だらけにして困り果てていたりと、可愛いような欠点が同棲することによってわかった。

「あの学校なくなるんだね」

 テレビニュースで、少子化の話が流れてると、彼女は思い出すようにいった。

「そうだね。新入生が2人しかいなかったらしいよ」

「ふーん。残念だなぁ。あたしとあなたが出会えた場所だから、ずっとあってほしかった」

「永遠なんてものはないんだよ。いや、愛が廃れるとかそういうのじゃないからね」

 にっこりと笑われる。

「若い頃はあったのがなくなるってやつだよね。あたしが吸ってたタバコなんて今じゃ倍以上の値段だよ」

「よく知ってるね」

「たまに吸いたくなるもん」

「だめだからね」

 視線を彼女のお腹に向ける。

 そこにはまんまるとした膨らみがある。

 僕らの子どもがいるのだ。

「わかってるって。もう5年は吸ってないから」

「知ってるよ」

 買い物中、物欲しそうにタバコを見つめてることも知ってる。

 中毒者だったら、おそらく手にとってしまうのだろうが彼女は違った。

 もともとタバコを吸ってるのもファッションのようなもので、他人との距離をとるために吸ってたとのことだ。

 距離をとらないでよくなった彼女にはタバコはもう必要ない。

 それ以上のものを僕は与えられてるのだから。

「なにニヤついてるの? 気持ち悪いよ」

 やれやれといった顔を彼女は浮かべる。

「思い出っていいものなんだってね」

「そうかもしれない」

 にっこりと笑うと、僕たちは前へあるき出した。

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生きてくこと バブみ道日丿宮組 @hinomiyariri

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