第31話 将来を決めた


晶子はある夜、母親にこれからのことを話そうと決意した。

そして学校の進路相談室でもらった資料を母に見せる。

前の女子高を辞めて今の高校を見つけたあの時のように。

「お母さん、話があるんだけど」

晶子は真剣な表情で母親に話した。

「私、これからの将来の目標とか自分なりに考えたんだ」

晶子はこれまでの自分の経験から得た人生の中でのやりたいことを見つけたのだ、

「世の中私のように死にたいと思う子や美容や自分の存在意義や価値観を気にして摂食障害になる子もいるし、家や学校のことで悩んで自分で命を絶ってしまう人も少なくないと思うの」

母は晶子が急に将来話をしだしたことに驚いた表情をしていた。

しかし母は話を遮ることのなく最後まで聞いた。

「私はそんな人達を一人でも多く救いたい。死ぬ前に助けてあげたい。世の中はそれだけじゃないんだってもっといろんな人に知って欲しい」

晶子は決意をここに表した。

「だから私、心理学を勉強してカウンセラーとか人の悩みを聞く立場になりたい。私、高校を卒業したら大学に行って心理学を勉強したい」

通信制高校からは大学に進学するものは多くはないがいないこともない。

多くの卒業生は卒業したら就職、あるいは女子であれば結婚して家庭に入り専業主婦になるなど様々だが中には専門学校や大学もしくは短大などを目指して進学するものもいる。 

 卒業後の進路は結局それぞれが自分で決めなくてはならないので、そこは一人一人が違う

「それにはすごく大変な道だと思うけど覚悟はできてるの?」

母は晶子にその覚悟を聞いた。

大学に行くことになると晶子自身が大学受験の勉強をせねばならない。

さらに家族も大学の莫大な学費を負担せねばならないのだ

「うん。大学に行くために勉強頑張る。それとちょっとでも学費のたしになるようにバイトも続ける」

 晶子のまなざしは本気だった。

幸いにも晶子の家は経済的に一人っ子である晶子を大学に行かせられるくらいくらいには裕福だ。

「それがあなたのやりたいことなのね」

再び母は晶子に決意を聞いた

「うん」

「そう」

 その言葉を聞くと、母は晶子に言った。

「本当はあなたが前の学校で苦しんでいた時に、何もしてあげられなかったことが後悔だったわ。ダイエットをしなきゃいけないって一人で悩んで、摂食障害になるほど追い込まれて、学校まで辞めることになるほどにあなたが苦しんでたのに。お母さんも親としてダメだったと思う」

母親は晶子へ申し訳ないと思っていたことを告白した。

球技大会や学校で友達ができず苦悩している時になぜ悩みを聞いてやれなかったのだろうか。

晶子が苦しんでいることに気づいてやれなかったことにも摂食障害や学校をやめることになるまで親としての資格をなくしたような気がしていたのだ。

「だけどお母さん、あなたが通信制高校に行くとかちゃんと自分の道を見つけたことがすごく嬉しかった。だから今度こそ、あなたの道を応援させて。それが子にできる親の務めだから」

「お母さんありがとう」

両親は将来の夢があるなら応援する、と言ってくれた。

なんて自分は恵まれているのだろうか、と晶子は思った

こんなにも晶子の周りには自分を見てくれるものがいる。

それなのにただ自分がそれに気が付かずワガママなことをしていただけだったのだ。



ようやくやりたいことを見つけたのだ。

将来の目標ができた。それは大きな生きる希望になった。

晶子は大学受験に向けて勉強する為に予備校に通い始めた。

日曜日の登校日はちゃんと登校して空いた時間でバイトもきちんと出る。

大学の学費は親が出してくれるとしてもせめて少しでも入学金の足しになればとバイトはやめなかった。

学校に予備校と受験勉強にアルバイトとなり忙しい日々が始まった。

しかし晶子にとっては初めて自分らしく生きている日々を実感できて今こそが生きていると感じられる日々だった。


 まるで過去に体重を気にしていたことすらももう遠い昔のことのようだった。


これ以降晶子の過食は次第におさまっていった。


 体重を測るのをやめたことと食事をまともに摂るようになったおかげで体重という数字の支配から逃れられ、気持ちが楽になった晶子は長く苦しんだ体重やダイエットといったしらがみから解放されたことにより、次第に過食や嘔吐もしなくなっていった。






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