第26話 ランク・アップ
「ほぉ~、じゃぁ、巨大モンスターに出会ったのは、2度目ってことか………運が悪いのか、とりあえず、生き残ってよかったな?」
小さな会議室で、地獄の鬼と、二人っきり。
いや、縮こまっている職員さんもいるのだ、二人っきりではないのだが、誰が助けてくれるというのか。
レックは、冷や汗をだらだらとかいていた。何も悪いことをしていないが、取調室に連れて行かれたような恐怖を抱いていたのだ。
小物パワーの力を借りて、何とかお返事をするレック。
「へ、へぇ、本当に運が悪かったといいましょうか………前のイノシシも一人のときで、いったいどうやって倒したのかも覚えてなくって、へへへ………」
レックが言うと、ギルドマスターは、手元のボードを見る。
前世の浪人生は、へぇ~、タブレットあるんだ――と、のんきな感想を抱いている。この世界が、ややSFだと思い出させてくれるアイテムだ。
いや、ラノベやアニメなどではお約束の、光るボードだ。ギルドマスター権限でなければ閲覧不可の情報が、たくさんスクロールされているだろう。
興味深そうに、声を上げた。
「ほぉ、『爆炎の剣』と組んだ?――あぁ、引退したと聞いて………いや、パートタイムか。ロッソの娘が、オヤジを真似て冒険者になって………もうシルバーか、早いもんだ」
地獄の鬼は、一人で思い出に浸っていた。
『爆炎の剣』と知り合いのような口ぶりに、レックは少し驚く。いや、ゼファーリアの姉さんではなく、姉さんの親父さんとの知り合いなのだ。
年齢からいって、おかしくはない。
そうなんだ――と、ぼんやりと眺めていた。
「まぁ、今回の巨大ホーン・ラビットの群れの討伐も合わせて、おまえはランク・アップすべきだろう………どうだ、魔法も使えるみたいだし、一足飛びにシルバー、いっとくか?」
悪い笑みで、ギルドマスターが微笑む。
試されているのだろうかと、レックは愛想笑いを浮かべる。それとも、気付かぬうちに、シルバーランクの実力を得ていたのだろうか。
レックは、返事をした。
「へへへ、シルバーになるのは、まだ早いと思いまして………ブロンズの上級で、お願いしやす」
下っ端パワーで、レックは口を開いた。
そうでもなければ、とても恐ろしくて、地獄の鬼と言うギルドマスターを前にしていられない。
ギルドマスターは、つまらなそうに、画面を操作した。
「はっ、若いのに欲のないことだ………まぁ、ムリな依頼を押し付けられることもない………か」
レックは、もみ手をしながら、ぺこぺこと頭をさげる。はい、その通りでございますと、お願いしますと、お願いしていた。
むしろ、そちらの事情が大きい。
ギルドマスターがつまらなそうにした理由だ。
ギルドは、無理難題を押し付けたいのだ。
レックは、無理難題は、ゴメンこうむりたいのだ。
「ふんっ………ランク・アップを断るやつも、けっこう、いるからな。ヤツめ、中級のままで引退しやがって………おかげでオレがギルマスだと?」
気付けば、グチになっていた。実力が上の相手が、ランク・アップを断った、そのために割を食った過去でも、思い出したのだろう。
一番割を食ったと思っているのは、どうやら、ギルドマスターになったことらしい。少し興味が湧いたが、レックは懸命に、沈黙を守った。
やぶへびは、ごめんだ。
「まぁ、いい………さて、おまえのランク・アップだが………」
少しは気が済んだのか、ギルドマスターの地獄の鬼は、でかいクリスタルを、机の上に置いた。
つづいてボードを操作すると、光った。
「ほれ、おまえのギルド証をかざせ」
レックは、あわてて自分のクリスタルを取り出す。
腕輪であったり、ネックレスであったり、それは個人の自由だ。皮袋の財布に入れることもあれば、レックのように、アイテム・ボックスに収納している人物もいる。
言われるまま、レックは自らのギルド証のクリスタルを、光るクリスタルにかざす。
呼応して、レックのクリスタルも輝く。
思わず目を閉じたが、その必要のないほど、短い時間、弱い光だった。
恐る恐る目を開けると、いい笑顔の鬼がいた。
「おめでとう、今からボウズは、上級ランクだ………がんばれよ?」
レックは、冷や汗をかきながら、うなずいた。
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