第25話 買い取り、国境のギルド支部


 半そでのおっさんが、うなった。


「これほど巨大なホーン・ラビットが、しかも7匹………」


 レンガの壁のような横幅の、巨大なおっさんは、マッチョだった。

 体の一部のように、ナタを常に手放さずに、肩をトン、トン――と、叩く姿は迫力満点だ。

 ここは国境の町、冒険者ギルドの買い取りセンターである。買い取、即、解体があるために、血まみれエプロンのお出迎えである。

 ギロリと、巨大な目が光る。


「おまえさんがアイテム・ボックスからこれだけの量を出したのも驚いたが、一人でって言うのもなぁ………なのに、ギルド証のクリスタルのランクは、ブロンズの中級だと?シルバーの中級だといわれても、信じるぞ?」


 ビビりながら、レックは満面の笑みを浮かべる。

 手には、クリスタルが光っている。なにやら、模様も見える、冒険者ギルドに所属している全員が保有する、身分の証である。

 ギルドカードではなく、クリスタルであった。


「さて、コイツとコイツ、あとこれも、いい値段で買い取らしてもらおう。アイテム・ボックスのおかげで、保存状態もいい………解体の手数料はもらうが、まぁ、ムリだな。これだけの領じゃ、解体職員が総出でも、どれだけかかるか………」


 おっさんは、笑った。

 レックも、笑った。

 牛サイズのホーン・ラビットを7匹も解体するなど、ムリだ。1匹だけでも、どれほどの時間がかかるか、想像したくもない。


 ならば、運んだほうがいい。

 アイテム・ボックスに収納、大急ぎで町へ向かった。あとは、冒険者ギルドに、お任せだ。

 急げば、一日もせずに町があるものだ。戻って『ポテト子爵』の都に向かうか、進んで町が見つかるのを待つか………

 ここは、国境の町だった。


「これとこれ………マグナムか、ショットガンの至近って所だな………まぁ、これくらいなら普通だ。ただ――」


 そろって、ミンチを見た。

 巨大なホーンが砕け、半分はお見せできない惨状だ。もっとも、森では、もっとすごい光景を目にすることもある。モンスターや、野生動物のお食事シーンに、食後の残骸に比べれば、可愛いものだ。

 腐敗していないのだ、十分、新鮮なのだ。


「ショットガンの乱れ撃ちか………よっぽど、焦ったんだな」


 ギリギリの戦いを教えてくれる、ミンチだった。

 レックも、最後の一匹をどのように倒したのか、ちょっと記憶が怪しい。それだけ、あわてて倒した、ギリギリの勝利だった。

 気付けば、ミンチとなっていた。


「はは………囲まれまして――」


 残弾を確認しながら戦う。

 そんな高度な戦いテクニックは、レックにはムリである。トドメの一撃で、カシン――と、弾切れのサウンドが響き渡ったのだ。


 パニックだ


 頭の中が真っ白になりながらも、レックはアイテム・ボックスからショットガンを取り出した。


 近接線なら、こいつだ――


 そんな映画のセリフが頭にあったおかげで、迷いはなかった。『こんどは、戦争だ――』という、往年SF映画のテロップが、頭に浮かぶ。


 前世が、叫んだのだ


「まぁ、生き延びたんだからな、それだけでも、十分スゲェよ。だが、悪いな、このミンチの値段は、ちょっと厳しいぜ」

「ははは、まぁ、ミンチですから………」


 他のホーン・ラビットの状態とは、あまりにかけ離れたミンチであるため、比較してしまうのだ。

 惜しいと。

 レックも、乾いた笑みを浮かべるしかない。今思えば、冷静に、一撃を至近距離で撃ち込めばよかった。心臓部に、あるいはヘッドショットも出来たはずなのだ。


 冷静なら


 とはいえ、7匹分のお肉に、きれいな状態の毛皮に、そして角や骨と、買取価格は、かなりのものになる。

 加えて、危険度の高いモンスターを討伐した場合は、追加報酬もある。危険なモンスターを倒したという、一匹あたりの成功報酬に、通常よりも危険なモンスターが現れたという情報料だ。


 今回は、通常ではありえないサイズのホーン・ラビットが、それも7匹である。報告を受けたギルド職員が、あわてて奥へ向かっていった。


 レックは、あぁ、ギルマス案件だ――と、ぼんやり思った。

 前世の浪人生は、主人公の特権、キタァ~っ!――と、叫んでいた。


 ドガン――と、扉が開いた。


「おう、そこのボウズか、馬鹿でかいホーン・ラビットを持ち込んだ冒険者ってのは」


 地獄の鬼が、現れた。


 赤茶けた肌には、いくつもの爪あとや剣や弓矢その他、生傷が耐えない。戦いに身をおいた鬼の姿だ。

 まがまがしいオーラを背負い、ジャラジャラと、地獄の亡者どもを鎖につないでいるイメージの、地獄の鬼だった。


「ほぉ、たしかに、ばかげたサイズのホーン・ラビットだな………こんなにでかいと、ブロンズでも上級か………いや、シルバーランクの依頼になるな」


 レックは、おびえた。

 ギルマス案件だ、主人公のお約束だ――そんな気分は吹き飛んで、地獄の鬼の登場に、ビビリまくっていた。

 お願い、こないで――と、固まっていた。


 願いは、かなわなかった。


「おい、ボウズ、ちょっと話、聞かせてくれや?」


 ビビリのレックに、選択肢などあるものか


 YES / yes


 脳内に、情けない選択肢が浮かび上がった。強制イベント、発生だ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る