第3話 こうじゃないんだよ、ファンタジーは


 見慣れない月が、夜空に浮かぶ。

 日本の夜空では、一つだ。いいや、世界中の、どこで見上げても一つである。オーロラがあったり、夜がない場所があったりと違いはあるだろうが………一つだ。


 二つの月が、浮かんでいた。

 それに――


「どうみて、ヘリコプターだよなぁ~………しかも、この登場シーンって、特殊部隊とかが出てくるやつで………」


 爆音が、頭上にとどろいていた。

 ヘリコプターのようなものが、レックと、目の前のイノシシを見つめている。サーチライトで周囲を照らし、すぐに巨大なイノシシのモンスターを発見したのだ。

 どうして、ここだと分かったのか、なにかSF的なサーチをしたに違いない。


 ヘリポット


 レックの真上に到着した、ファンタジー気分を台無しにする飛行物体の名前である。直接見た事はないが、そのように呼ばれている。冒険者ギルド、商業ギルドのように、技術を専門とするギルド『テクノ師団』の、自慢の一品だ。


 前世の記憶は、叫ぶ。


「これじゃ、SFだよ………」


 それだけではない、ヘリコプターから、ロープがたらされた。映画でよく見る、特殊部隊の登場シーンが、ますます重なる。


 人も、降りてきた。


 ちょっとだけ、ほっとした。

 これで、ジェットパックを背負ってきたら、本当に、SFの世界なのだから。


 ぼんやりと見つめていると、一人が近づいてきた。


「よぅ、あんたか、あの魔力爆発………いい目印だったな――」


 アリが、目の前にいた。


 顔を覆ったフルフェイスのヘルメットだったが、よく見ると、アリの頭のようなデザインである。それこそ、アリのモンスターの素材を利用したようで、ファンタジーが戻ってきた。

 マシンガンのような武器を手にしていたが、自分もリボルバーを装備しているのだ、園程度は仕方ない。銀色に光る、中世騎士と言うフルアーマーであれば、むしろツッコミを叫んだだろう。

 レックは、冷静を装った。


「とっさだったから………『テクノ師団』の人だよね、初めて見た」


 ファンタジー気分を台無しにしてくれる、ややSFの側の皆様だ。最新の技術で武装した、精鋭部隊。今回の討伐が、それだけ異常だったということだろう。これでも、冒険者として一年半、生きてきたのだ。

 よくある依頼が、異常な事態の、前触れだったようだ。そのためにレックは命を落としかけたわけだが………

 緊張しつつ、おっさんの話を聞く。


「いやぁ~、よく生きていたな………」

「へへへ、死ぬかと思いました」


 そろって、ローストされた、半分黒焦げのイノシシを見る。

 普通のイノシシの目線は、人間の腰ほどもない。そして横たわる姿は、大人の胴体ほどだ。巨大な種類は別としても、モンスターと呼ばれるのは、普通の倍のサイズはある。

 魔力を帯びて、巨大化するのだ。

 目を合わせるには、見上げるイノシシだった。


「報告よりも、巨大なモンスターが出没したんだって情報があってな~………いや、大量発生していれば危険だと、見回っていたんだが――すごい魔力だったな」

「へ、へへ~、とっさで」


 レックは、冷や汗をかき始めた。確かに、討伐したのは自分であり、命の危機に、秘められた力が暴走したのだ。

 主人公の、お約束だ。

 そう思って、もう一つのお約束を思い出す。目立つ力、人と異なる存在は、例外なく面倒の種となるのだ。

 偉い人には、わからないのだ。えらいことに巻き込まれる底辺冒険者の気持ちなど、こっちは、自由がほしいのだ。


 あと、お金も………


 レックは、目の前のイノシシをどうしようか、討伐したのは間違いなく自分だから、権利があると口を開いた。

 いや、開こうとしたのだ。


「アイテムボックスに入れないのか?ほれ、ステータスから選択できるだろ?」

「いやぁ、ステータス先生が、ちょっとご機嫌斜めで――」


 レックは、固まった。

 おっさんの、何気ないセリフに返答したのだ。当たり前のことを、なぜしないのかと言う問いかけに対する、素直な返答である。

 無意識である。


 ヤバイ――と、レックは固まった。

 なぜ、おっさんがステータスと言う言葉を知っているのか。この世界で生まれて15年、ステータスと言う言葉は、覚えがない。

 なら、転生した主人公である、自分の特権だ。そう思ったが、どうやら存在しないようだ。


 ここは異世界でも、現実なのだからと、思い知らされたばかりである。


 おっさんは、知っていた。


「なんで、ステータスって………あるの?」

「ないよ?」


 一瞬の、希望だった。

 いや、それよりもレックが質問したいのは――


 おっさんも、転生者なのか。


 レックが口を開こうとすると、またも、おっさんが先に話をはじめた。


「討伐するには、登録と申請がされてるだろ、なのに、あれほどの魔力の持ち主は聞いてなくてな~………で、可能性の一つだったわけだ………そっか、日本人の転生者か」

「………はい」


 即効、ばれていた。



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