13 少し怖いンゴねえ~

 朱雀さん、青龍さん、玄武さん。3人を前に、僕は更なる熱弁をふるっていたンゴ。


「更に戦後せンゴンゴ! 大東亜戦争終結後ンゴ! コミンゴテルンゴに踊らされた日米両国が疲弊した機に乗じて、共産ゴ主義者が両国への浸透を図ったンゴ! アメリカでは赤狩りが行われて壊滅したンゴけど、問題は日本ゴ! 軍事力、国力、発言力、政治力……日本が弱体化した隙に赤が日本に侵入、勢力を拡大していったンゴ! 戦後の日本を統治したGHQ内部も赤のスパイだらけだったンゴ。日本国憲法を作ったのも。日本で逮捕されていた赤を解放したのも。赤を捕まえる役目だった特高警察を解体したのも。みんなコミンゴテルンゴの仕業ンゴ! 学生運動や天皇暗殺未遂事件ゴなども起こしたンゴねえ」

「その時ヤタガ……」

 僕は青龍さんの合いの手を無視して続ける。もう誰にも止められないンゴォ!


「コミンゴテルンゴの策謀の実態は、90年代までは秘密だったンゴ。米英の首脳陣はその事実を把握してたンゴけど、一般公開されなかったンゴ! そのせいでユダヤ系スパイが欧米の民間人を装って大声を上げ、世論扇動したンゴ。日本では朝鮮系スパインゴね。これらの実態は2000年代になってヴェノナ文書が公開され、一般に広く知られるようになったンゴ!」

「それもヤタ……」

「そして大事なポイントンゴ! コミンゴテルンゴの、というよりロシアの狙いンゴ、東の不凍港ンゴ! 日本に奪われた旅順ゴの代わりンゴ! 戦後のどさくさに紛れて日本領土へ侵攻を開始したンゴ! 北方領土を占領し、東の不凍港を手に入れたンゴ! 終戦直ン後、日本が武装解除した隙ンゴにね。樋口季一郎ひぐちきいちろうンゴが終戦と武装解除命令を無視してでも、占守島で徹底抗戦しなければ、北海道の北半分ゴか、札幌函館まで落とされたかも知れないンゴよ」

 一気にここまで話すと、僕は一息吐いた。興奮が冷めて、途中で青龍さんが何か言おうとしていたかな? と思い出す。少し話過ぎたンゴ?


「いやあ~素晴らしい! 順調に記憶も戻って来ているね」

 軽く拍手をしながら、青龍さんがにこやかに言った。朱雀さんも、

「大変興味深い御話で有意義な時間でしたわ。また御聞かせ下さいませ」

 と微笑みかけてくれる。玄武さんは……いつの間にかいなくなっていたンゴ。

「そうンゴ?」

 話過ぎたせいで嗄れ声になった僕は、短くそう答えたンゴ。

「本日の御話はこれまでにしましょう。眠りながら記憶の定着をしますわ。さあこちらへ」

 隣に座って、膝をポン、ポン、と叩く朱雀さん。吸い寄せられるように、僕はそこへ横になった。いつものように朱雀さんの腰に抱き付き、お尻の辺りを撫で撫でする。暖かくて、柔らかくて、安心するンゴ。


「アーアーアー、アアアー、アーアー……」

 いつもの朱雀さんの歌声。すぐ瞼が重くなったンゴ……


「アーアアアー、アアアーアアー……」

 閉じ行く瞳の向こう側に青龍さんがボンヤリ映る。険しい表情で僕を睨んでいるような気がするンゴ……


「アアアーアアアー、アーアーアアアアアー……」

 青龍さんの視線が怖いンゴ…… でも朱雀さんがいるから安心ゴ…… スヤァ……



「チッ。ベタベタしやがって……」



 それから何度も青龍さんの部屋を訪れ、話をしてはその場で眠る、という日々を繰り返した。寝ている間に何かしているらしい。僕は寝ているだけなので、何をしているのか全く分からない。ただいつも眠る直前の、青龍さんの刺すような視線が痛かったンゴ。

「今日も青龍さンゴのところンゴ?」

「はい。本日も御話をして、記憶の定着を行います。青龍が言うには、そろそろだと」

「そろそろンゴ?」

「はい。そろそろと申しておりました」

「何がそろそろンゴ?」

「私も青龍の施術については詳しくありません。聞いているのは、記憶に関する術法を執り行うという話だけですわ」

「ンゴ~、少し怖いンゴねえ~」

「予定より遅れていると、青龍は申しております」

 朱雀さんは物すごく優しいンゴけど、青龍さんは少し怖いンゴねえ……

「行かないとダメンゴ?」

「耕作様。どうか、どうか御願い致します」

「ン~ゴ~。じゃあ、青龍さンゴのところで、その術法ンゴ? が終わったら……ンゴ~、何かご褒美が欲しいンゴ! それなら頑張れるンゴ!」

「御褒美……ですか?」

「ンゴンゴ」

 首を縦に振るンゴ。

「どのような物を御所望でしょうか? 前に仰った御米や御刺身でしょうか?」

「それも良いンゴけど……」

 おっといけないンゴ。視線が朱雀さんの下半身に向かってしまうンゴ……

「私……などで宜しいのですか?」

 おっと、僕のいやらしい視線に気付かれてしまったンゴ!

「そのようなもので宜しければ、御褒美になどなりませぬが、如何様にも……」

「ンゴッ!?」

 え、マジっすかあぁンゴ!

「だったら頑張るンゴ! さあ行くンゴ!」

 僕の、まだ完全ではない歩くペースに合わせて、ゆっくり廊下を歩いていた、その朱雀さんを逆に引っ張るように。僕は猛然と青龍さんの待つ部屋へと向かったンゴ。

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