8 な、なん……ンゴ……

「さっさとヤッちまえ!! オレはゴチャゴチャしたのは嫌いなんだ! 魂の記憶を呼び覚まし、教えるべきを教えて、オレらの役目は終わりだ!!」

 腕組みをしながら聞いていた大男。僕を担いでここまで連れて来た、白虎と呼ばれた男が大声を上げる。耳がキンキンするンゴ……

「彼は人形ではないのです! 心があります。それを呼び覚ますために、まず器を……」

「知らねえよ!! あれを見りゃ一発じゃねえのか!? さっさとヤれ! 背水の陣だ! 分かるか!? 後がねえ! 時間がねえ! そいつにも分らせろ!!」

 僕の方を指さし、すごい剣幕で怒鳴りつける。怖いンゴ……

「そんな、無理矢理はいけません」

「落ち着け白虎。無理強いしても協力してくれるとは限らないだろう。我々は協力を仰ぐ立場なんだ」

「チッ! しちめんどくせえ! なら勝手にしろ!! 部屋に連れ戻す時にまた呼べや!」

 ドスドス、大きな足音を立てながら部屋を出て行く大男。床が抜けそうンゴ……

「申し訳ありませんでした」

「彼、白虎には後で言い聞かせておくよ」

 朱雀さんと青龍さん、2人は深々と頭を下げる。僕は顔の前で両手を振って、

「ンゴッ! ちょっとビックリしただけンゴ。だ、大丈夫ンゴよ」

 そんな2人の謝罪を受け入れたンゴ。


「ここまで来て頂いたのは他でもありません。今現在の状況について、少し御話をさせて頂きたく。青龍も協力して欲しいのです」

「それは構わないよ。手前の専門じゃないけどね」

「まずは世界についてです……」

 そう前置きして、朱雀さんは、青龍さんに助け船を出して貰いながら、世界の現状についてぽつぽつ話を始めたンゴ。


 今は皇紀4180年。西暦で言うと3520年。場所は沖縄、旧・首里城跡地に作られた宮内。つまり天皇の住まう地ンゴ。

「天皇が沖縄にいるンゴ?」

 そんな僕の疑問に、青龍さんが笑って教えてくれたンゴ。

「寒いからさ」

「寒いンゴ? 沖縄じゃないンゴ?」

「そう……だったね。1500年前の沖縄は、暑い地方だったね」

「何を言ってるンゴ?」

 僕の疑問に、朱雀さんがすかさずフォローに入るンゴ。

「氷河期が近付いているのです。地球上で、今、人間が住める場所は多くありません」

「ンゴ!?」

「今の沖縄の平均的な気温は、10度か、それより低いくらいでしょうか。ここから北、日本の首都があった関東地方の平均気温は、正確なところは分かりませんが、5度より高くはないでしょう」

「平均って、年間ゴで?」

「そうです。夏冬合わせてです。大昔の日本最北端、北海道くらいでしょうか。一年の大半は雪に覆われています」

「しゅごいンゴォ~」

「そして今、本州に日本人は、恐らく一人も生き残っておりません」

 な、なンゴォ~!?


 疫病の蔓延。世界経済の崩壊。第三次世界大戦。核の応酬……核兵器自体は、人類を絶滅させるほどのものではなかった。何千万人もの人が死んだ。それで終わる筈だった。だけど2人の話によれば、本当の地獄はその後始まったンゴ。

 社会的なインフラが全て破壊された。道路、港、空港。電気を作る発電所。家庭用水を供給するダム。ガスも石油も通信網も、それまで当たり前に存在したもの全てが使えなくなった。原始人のような生活。街から消えた明り。テレビもラジオも無い。社会的弱者は全て切り捨てられた。誰も助けてくれない。生きるためには自分で何とかするしかなかった。食料と水を自前で調達出来ない人々は、数ヶ月の間にほぼ死に絶えた。川や湖、海や畑、自前で何とか出来る人だけが僅かに生き残った。まだ微かに生きていた社会インフラの下で、賢く生き延びる人もいた。それは地球全体の、1割にも満たない数だったンゴ。

「詳しいンゴね……テレビもラジオも、通信網が何もないのに、どこでそんな情報を得たンゴ?」

「私たちは、皇室直属の秘密諜報活動組織、ヤタガラスですから」

「ンゴ!?」

「知らなくても当然です。当時も今も、ヤタガラスの存在は、ごく少数の限られた人しか知りません。私たちは核戦争が始まる前に、その情報を入手し、皇室の存続を最優先させました。首都を紀伊半島へ、そして四国へと遷都したのです」

 当時? 当時って、何の当時ンゴ? そんな疑問は次の疑問に打ち消され、聞きそびれてしまったンゴ。


「紀伊半島と四国は無事なンゴ?」

「諜報というのは、情報を探るだけではありません。裏で各国との交渉や工作活動を行い、言動を特定方向へ誘導します。その中で、極めて安全性の高い場所へ移動したに過ぎません」

「なるほどンゴ……それで沖縄へ避難ゴしたンゴ?」

「その通りです。数百年かけて、最終的にはこの地へと……」

 どうも二人の口ぶりから、これらは誰でも知っている基礎知識、基本的な日本と皇室の歴史のようである。僕は、そんな事も忘れてしまっていたンゴね。

「それは子供、小中学生も知ってる話なンゴよね?」

 二人は顔を見合わせると、こう言い放った。

「学校なんて、今の時代には一つもないよ」

 な、なん……ンゴ……

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