温かいのは湯気と、その日常
御厨カイト
温かいのは湯気と、その日常
「あっ」
「おっ、君も丁度帰るところか。」
「えぇ、ディトナさんもですか?」
「あぁ、今日はいつもより早く終わったのでな。そう言う君こそ今日は早いのだな。」
「そうですね。僕のところも珍しく早く終わりました。」
「ふむ、そうか、ということは今日はお互い、早く、そして一緒に帰ることが出来るというわけか。」
「そうなりますね。」
僕がそう言うとディトナさんは少しニッコリと笑う。
「?、どうしたんですか?」
「あ、いや、今まであんまり一緒に帰るという事が無かったから少し嬉しくてな。」
「あー、言われてみたら確かにそうですね。最近お互いに忙しかったというのもあると思いますが。」
「うむ、それは確かに。まぁ、そんな訳で君と帰るのが嬉しいのだよ。」
「そう言われると僕も嬉しいですね。それじゃあ帰りましょうか。」
僕がそう言いながら片手をディトナさんの方へ差し出すと彼女は笑みをさっきよりも深くして、その手を握る。
「あ、そうだ。今日はせっかくですから晩御飯はスーパーかどこかで買って帰りませんか?というかその方が楽ですし。」
「あぁ、君がそう言うのならそうしよう。」
「分かりました。それじゃあスーパーに寄って帰りましょうか。」
そうして、僕たちはスーパーに寄って帰ることにした。
その道中、僕たちは他愛のない話で盛り上がる。
「そう言えば、ディトナさん。最近、騎士団の方はどうですか?」
ディトナさんはその重そうな鎧や剣をガチャガチャと揺らしながら答える。
「うーん、最近は良い働きが出来ていると思う。統率も取れてきたり、戦いの時も良い動きが出来るようになってきたからな。」
「おー、それは凄いですね。以前まで国のお荷物とまで言われていたのにここまで立て直すとは、流石、ディトナさんですね!」
「いやいや、これは私ばかりの力でもないよ。今までの騎士団長はそこに所属する団員たちの力を十分に引き出せていなかったのさ。だから、その所為で彼らは役立たずだと言われていた。私はそんな彼らの隠された力を十分に発揮できるようにしただけさ。」
彼女は僕の言葉に照れながらも、頑とした態度で否定する。
「なるほど……、それでもすごいじゃないですか!今までの団長さんたちが見いだせなかった実力をディトナさんは引き出すことが出来たのでしょ?それなら、とても素晴らしい事じゃないですか!」
僕は満面の笑みでそう言う。
彼女は僕のそんな褒め殺しともとれるような言葉を受けて、顔を真っ赤にさせる。
「う、うぅむ……、そ、そこまで褒められると流石に照れるな……。あ、ありがとう。」
「いえいえ、ディトナさんは十分凄いんだから、もっと自分を誇ってくださいね。」
彼女はより一層顔を赤くする。
僕はそんな彼女の珍しい表情を見れて、心の底から満足する。
「ゴ、ゴホン、そ、そろそろお目当てのスーパーが見えてきたようだぞ。」
「あっ、ホントですね。そうだ、ディトナさんは何か食べたいものはありますか?」
「食べたいもの……か。うーん……、あんまり思いつかないな。君に任せよう。」
「それでいいんですか?」
「あぁ、結局君と一緒に食べるのならどんなものでも美味しいからな。」
彼女はまるで先ほどの仕返しだと言わんばかりにニッコリしながら言う。
「……えへへ、そうですか。それじゃあ、しょうがないですね。」
そう思ってもらえていて、素直に嬉しい。
「それなら、うーん……どうしましょうかね。」
僕はスーパーの中を回りながら、晩御飯になる物を物色する。
そんな途中、今日のセール品が集まった棚に差し掛かった。
「おっ、これとかどうですか?」
「うん?どれだ?」
「これですよ。『赤いきつね』と『緑のたぬき』!丁度セールで安くなっていますし。」
「あー、これか。確か前にも食べてすごく美味しかったのを覚えている。うん、いいんじゃないか。」
「それじゃあ、これを買って帰りますかね。ディトナさんは赤と緑、どっちが良いですか?」
「確か前に食べたのは緑の方だったと思うから今度は赤にしようかな。」
「分かりました。それじゃあ、赤いきつねを2個買ってきます。」
「うむ、分かった。」
そうして、僕たちは赤いきつねを入れたビニール袋を手に提げて、家へと向かう。
ガチャ
「ふぅー、ただいまー。」
「ただいまだ。」
「それじゃあ、僕はお湯を沸かしたり、準備をしておくので、ディトナさんは先に着替えて来て下さい。」
「分かった。ありがとう。」
「……それじゃあ、準備をしていきましょうかね。」
そうして、僕はお湯が沸く間に容器を覆っているビニールをピリリと外して、蓋を開ける。
そして、粉末スープを麵の上に開けて、お湯が沸くのを待つ。
まぁ、インスタントだから簡単だね。
「いやー、待たせたな。」
そこに鎧を脱いでラフな姿になったディトナさんが現れる。
うん、やっぱり鎧を着た姿の彼女もカッコ良くて好きなのだが、こういうラフな姿も可愛くて好きだ。
「いえいえ、大丈夫ですよ。あとはお湯が沸くのを待つだけですから。」
「ふむ、そうか。それならやかんは私が見ておくから、君も着替えてきたらいい。」
「そうですね。そうしてきます。」
キッチンは彼女に任せて、僕はスーツを脱ぐ。
型崩れしないためにハンガーに掛けて、ネクタイも一緒に掛ける。
ズボンとかも脱いで、いつも着るスウェットに着替える。
「もうお湯が沸けたから入れておいたぞ。」
キッチンに戻ると彼女がそう言ってくる。
「あ、ホントですか。それじゃあ、3分測りますかね。」
「ふっ、安心しろ。もうこのタイマーで測っているぞ!」
「流石ディトナさん!凄いですね!」
「……なんだ、このノリは。」
「……分かりません、ただの勢いですね。」
僕らは顔を見合わせる。
「ぷっ、あはははっ!」
「あはははっ」
「おっと、そろそろ3分が立ちそうだ。」
「ホントですね。それじゃあ、リビングに持っていきましょうか。」
そうして、僕らはリビングのテーブルにお互いのカップ麺を置いて、座る。
その時ちょうどタイマーがピピピピと鳴り響く。
「それでは食べましょうか。」
「うむ」
「それでは、」
『いただきます』
カップ麺の蓋を開けると、モクモクと湯気が立ち込める。
そして、ふっくらとしたお揚げと黄金色の御汁が目の前に現れる。
何故かそれだけなのに自然に笑みがこぼれる。
目の前に好きな人がいるのもあるのかもしれないけど。
そうして、僕らは光で艶々とした麺をズルズルと勢いよく、口へと運ぶのだった。
温かいのは湯気と、その日常 御厨カイト @mikuriya777
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