第66話 呪毒血
翌日もベッドに潜り込んできていた姫香と
このまま次の制限ダンジョンも星辰天にお願いしたいところだが、
「次のダンジョンはアタシは手を出さないからね」
「ええっ、なんで?」
「アンタ、アタシが認定試験クランとして同行しているの忘れたの? 全部アタシが倒したらアンタの実力が見れないじゃない」
とのことだった。完全に忘れていたが、そういえばそうだったな。
そうそう、目的だったテンポラリーカードも無事に永続化できた。
【名前】呪毒血
【ランク】A
【カテゴリ】アクティブスキル・永続・毒
【効果】
自身の血液に毒効果を与える。
ランクAスキルなのだが、かなり使いづらい。自分の血に毒を混ぜた上で、その血液をモンスターに摂取させることでようやく毒ダメージを与えることができるスキルだ。制限ダンジョン内には硬い毛皮を纏った獣系モンスターが徘徊していたことから、わざと噛みつかれて毒を与えて倒すのが正しい攻略手順だったのかもしれない。実際には星辰天の召喚モンスターがたやすく掃討してしまったので憶測だけれども。
いやーそれにしても使いづらすぎないだろうか。本日二つ目のダンジョンに向けて山の中を歩きながら、『呪毒血』の使い方について僕は考えていた。悩んでいる僕にアンがアイディアを出してくれる。
「食事に混ぜるとかはどうかな?」
「サスペンスでよく見るやつだ。一応言っておくけど人間には使わないからね?」
人の少ない孤島みたいなインスマスで毒殺事件が起きたら真っ先に僕が疑われるのだろうか。嫌すぎる。
それにしてもモンスターって何を食べて生きているのだろうか。ちゃんと生態を調べてみたら案外アンが言うような運用方法が使えるのかもしれない。それに直接血を飲ますのではなく、食べ物を挟むというのは良いアイディアだ。もっと他の何かも媒介できないだろうか……と考えて、良い考えを思いついた。
「姫香ちゃん、ちょっと二天王刃出して」
「えっ? はい、どうぞ」
姫香が出した二天王刃をザクッと僕の手のひらに突き刺した。飛び散る鮮血、ベッタリと血に濡れる二天王刃。この二天王刃でモンスターを攻撃すれば、僕の『呪毒血』がモンスターにダメージを与えるはずだ。
「どう? 名付けて、毒血・二天王刃」
「わー! 何やってるのハガネくんっ!」
姫香と星辰天はもはや諦めたような表情をしているのに対して、慌てふためくアンの反応が新鮮で面白い。そういえば僕の回復能力については教えてなかったかもしれない。丁度よい機会なので血がドクドクと流れる手のひらをアンに見せる。
「大丈夫だよ、すぐに治るから。ほら、すぐに……すぐに……治らない?」
いつもならすぐに回復するはずの傷が一向に治らない。治らないと思うとなんだか急に痛い気がしてくる。すごく痛い。
「痛い……どうしよう……」
「ちょっと何やってるんですかハガネさん!」
手で患部を押さえてみるが血が止まる気配がない。とても痛い!
僕の焦りが三人にも伝播して全員であたふたするが、さらに数秒待つとようやく回復能力が機能して傷が治った。なんだったんだ。
「魔力操作が不調なのかな? 今日はあんまり回復できない日とか?」
「そんな訳無いでしょう。ハガネ、手のひら貸して」
星辰天が僕の手のひらを爪で引っ掻く。軽く血が滲むが、すぐに再生して傷が見えなくなった。どうやら『HP常時回復』は正常に機能しているらしい。となると、原因はもう片方か。僕と星辰天の視線が姫香に注がれる。
「えっ、私ですか?」
正確には姫香ではなく、二天王刃だ。
【名前】二天王刃
【ランク】-
【カテゴリ】装備・ユニーク
【効果】
双剣・二天王刃を具現化する。
二天王刃のランクは使用者のデッキ構成によって変動する。
使用者のアクティブスキルの効果は二天王刃を強化する効果に変換される。
同じことを考えた星辰天が二天王刃を見つめた。
「ランク変動型のユニーク装備カード。姫香が強くなるのに合わせて、隠し効果が発動しているとしても不思議ではないわよね? 例えば、相手の回復効果を無効化するデバフとか」
「私の二天王刃ならハガネさんを倒せるということですか? そんな……どうしましょう……。ハガネさん、今日から一緒に寝てもらって良いですか?」
「僕に対しての特攻武器だと分かった瞬間に脅すんじゃあないよ」
二天王刃を突きつけて脅してくるのが妙に様になっている姫香から逃げる。あともう二日ぐらい一緒に寝てるだろ。
そんなことをしているうちに制限ダンジョンのすぐ近くまで来て、おかしな気配に気付いた。
「一応聞いておくけど、まだここってダンジョンの外だよね?」
「ここがどこだか忘れたの、ハガネ。モンスター生息域よ」
そう、これは明らかにモンスターの気配だった。緑生い茂る山林の中、木々に隠れるようにしてモンスターが潜んでいる。いくらモンスター生息域とはいえ、こんな街から近い場所にモンスターがいるなんてあり得るだろうか?
考えている暇は無い。僕たちが構えた瞬間、物陰からモンスターたちが襲ってきた。
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