無限成長のカード使い~無限にスキルをゲットしてダンジョン攻略で成り上がる~

台東クロウ

第1章 無限成長の始まり

第1話 ハズレユニークカード

 仄暗いダンジョンの片隅で、ゴブリンの叫び声が響き渡った。

 僕の短剣の一撃がゴブリンの胸に突き刺さったのだ。


「グギャアアアアッ」


 ゴブリンは断末魔の悲鳴を上げると、光の粒子となって拡散する。

 ダンジョンのモンスターは死骸を残さない。倒すことで得られるのはカードと魔石だけだ。

 どうやら今回はそのどちらもドロップしなかったようだった。


「……はあ」


 僕こと上杉ハガネはため息をついた。

 ランクEダンジョンにひとりで潜って早一時間、倒したゴブリンは五体、ドロップはほぼ無し。

 無数の打撲と裂傷を負いながらの収穫無しは、なかなか心に来るものがあった。

 全身の痛みに顔をしかめながら、僕は恨めしげに自分のステータスウィンドウを眺めた。


 自分のデッキがもっと強ければ、こんなランクEダンジョンで苦労しなかったに違いない。


 【名前】上杉ハガネ

 【ランク】E

 【攻撃力】30

 【防御力】20

 【速度】20

 【感覚】20

 【魔力】5

 【幸運】0

 【デッキ】1/1


 神はダンジョンという試練を、そしてカードという祝福を人類に与えた。


 カード。

 デッキにセットするだけで人間の能力を飛躍的に上昇させる不可思議な力。

 その効果は千差万別で、単純にステータスを強化するステータスカード、超常の異能を発現するスキルカード、モンスターを狩るための武器を呼び出す装備カードなど、多岐にわたっている。


 問題はカードをデッキにセットできる枚数には個人差があり、僕のデッキ枚数上限はたった一枚ということだった。

 たった一枚! ランクEハンターの平均値が十枚程度であることを考えると、これはめちゃくちゃに低い数値である。

 しかもその貴重な一枚のスロットは、決してデッキから外すことのできないハズレユニークカードで埋まっているときてる。


 ――せめて回復系スキルカードをデッキに入れられればなあ。


 自分の傷だらけの体を情けなく見下ろす。

 また静子に頼んで治してもらわないといけない。


 まあしかし、それでも今回の探索での負傷は、普段と比べて数段マシなほうだった。

 運良く探索の序盤にテンポラリーカードを拾ったことで、モンスターを倒すのが容易になったのだ。


 【名前】短剣

 【ランク】E

 【カテゴリ】装備・テンポラリー

 【効果】

 短剣を具現化する。短剣を装備すると攻撃力がアップする。

 ※テンポラリーカードはデッキ枚数上限の影響を受けない。

 ※テンポラリーカードはダンジョン脱出時に消失する。


 一時的なテンポラリーの名前通り、拾ったダンジョン内でのみ効果を発揮するカードだ。

 ダンジョン脱出時には消失してしまう代わりに、デッキ枚数上限の影響を受けず、ハンターに微量の力を与える。

 僕のようなデッキ枚数上限の低いランクEハンターにとっては、これがドロップするかどうかでダンジョンでの収穫が大きく変わるのだ。


 ――うーん、今日はそろそろ帰るか?


 悩みどころだった。

 怪我の具合を考えると本来であればそろそろ引くところだ。

 十五歳の時からダンジョンに潜り続けて今年で十年になる。

 十年の経験から来る勘が、引き際であることを告げていた。


 しかし、使い勝手の良い装備テンポラリーカードはなかなかドロップするものじゃない。

 この機会にもう少しダンジョンを探索して金を稼いでおきたかった。

 両親は既に亡くなっており、十歳下の病気の妹を養っている身だ。なかなか苦しい生活を送っている。


 ――もう少しいける。いけるはずだ。


 僕は勘が告げる警告を無視して、次層にまで踏み込むことにした。


 結論から言うとこの判断は大失敗だった。

 疲労から普段よりも警戒を怠ってしまい、ゴブリン六匹に囲まれて全身を殴打され、左腕をへし折られて泣く泣く逃走したのだった。めちゃくちゃに痛い。



   ◇◇◇



 今回潜ったダンジョンから幼馴染が住むマンションまでの距離が近かったのは幸運だった。

 激痛に脂汗を流しながらオートロックを開けてもらい、僕の稼ぎでは一生入れないだろう高級マンションの一室にお邪魔する。


「静子ちゃーん! 腕が折れちゃったからヒールカード使ってくれよう。めちゃくちゃ痛いんだよう! あとお腹空いたから何か食わせてくれ頼むよう!」

「うわあ、一人暮らしの女の家に転がり込んできてヒールとご飯をたかる男……。幼馴染とはいえ縁を切るべきかも」


 僕の情けない懇願に対して、古林こばやし静子しずこは呆れた声で応えた。

 静子は二つ年下の幼馴染だ。スレンダーな体型に茶髪ショートヘアの小顔美人である。

 その美しい造形を見ているだけでドキドキしてしまうし、男として少し格好良いところを見せたくなってしまう。だがそれはそれとしてヒールはたかる。貧乏は面の皮を厚くするのだ。


「あとごめん、金欠なので……」

「いいよ、いつも通り出世払いでしょ。いやあ、何度もヒールをかけることで将来どんな恩返しが待ってるか楽しみだなあ。これは一生養ってもらうことになるかもなあ」


 静子は楽しそうに笑いながら、指先に浮かべたヒールカードに魔力を込め始める。


「アクティベート、”ヒール”。対象、上杉ハガネ」


 【名前】ヒール

 【ランク】C

 【カテゴリ】アクティブスキル・HP回復

 【効果】

 対象のHPを回復する。


 またたく間に左腕の骨折が治り、全身の打撲傷と切り傷も回復していく。

 一口にヒールと言っても使用者のステータスによって効果はピンキリで、ここまで瞬時に回復するのは高ランクハンターでないと難しい。ランクAハンター様様だ。


 そう、彼女は若干二十三歳にして既にランクAハンターなのだ。

 本格的にダンジョンに潜り始めたのが一年前であることを考えると感服するしかない。

 彼女の天才性を裏付けているのは、デッキ枚数上限の多さもさることながら、所持するユニークカード「無尽蔵の想い」の性能の高さだ。


 【名前】無尽蔵の想い

 【ランク】A

 【カテゴリ】パッシブスキル・ユニーク

 【効果】

 アクティブスキルの消費MPを99%軽減する。


 ユニークカードは個人が生まれついて持つ初期カードで、決してデッキから外すことは出来ない。

 ダンジョンを探索してモンスターを狩るハンターにとっては、デッキ枚数上限と同等以上に重要な才能だ。

 静子のユニークカードはアクティブスキルの消費MPのほとんどを軽減する効果で、はっきり言ってしまえばチートスキルというやつだった。


 そして僕はそのチートスキルの保持者を顎で使って頻繁に回復を頼んでいた。

 うーん、一生養うぐらいの借金という例えもあながち冗談ではないかもしれない。媚を売って減額を目論むことにした。


「ありがとう、静子ちゃん。こんなに優しい子そういないよ。愛してる」

「調子いいんだから、もう。そういえば、今日のダンジョンでは良さそうなテンポラリーカードは見つかったの?」


 僕の愛の言葉は軽く流され、ダンジョンでの収穫の話に移った。


「……ランクEの短剣が一つ」

「そっか。残念だったねえ」


 本当に残念そうな表情をする。

 静子は、僕のユニークカードがテンポラリーカードに関連する効果であることを知っていた。

 僕自身は早々にハズレカードとして見切りをつけた僕のユニークカード「一瞬の保存」の可能性に、どうやら彼女はまだ期待しているらしい。


 【名前】一瞬の保存

 【ランク】S

 【カテゴリ】アクティブスキル・ユニーク・消費

 【残り使用回数】1

 【効果】

 対象のテンポラリーカードの消失を無効化する。

 ※消費カードは残り使用回数が0になると消失する。


 テンポラリーカードは本来であればダンジョンから一歩でも外に出た時点で消失する。

 僕のユニークカード「一瞬の保存」はそのテンポラリーカードの消失を防ぐ効果を持っていた。


 ただし、使用回数は1。使えるのはたった一度だけだ。


 テンポラリーカードは今日拾った短剣のように微量な効果しか持たない。ユニークカード一枚と引き換えにしても手に入れたいテンポラリーカードがドロップするとは到底思えなかった。


 僕は肩を落とした。デッキ上限枚数1のスロットを埋めているハズレユニークカード。ハンターとしての未来は限りなく暗い。

 僕の気落ちした様子を見ると、静子は慌てたように食事に誘ってくれた。


「今日は残念だったけど、いつかはハガネくんのユニークカードと相性の良いテンポラリーカードが見つかるかもしれないからね。さ、ご飯作ってあげるから元気だそ? おかわりもいっぱい作るからね」


 慰めてくれているらしい。天使か?

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