本当に心臓が止まるほど美しい年上幼馴染との付き合い方
赤茄子橄
第1話 緊急事態
きゃーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!
1日の授業と最後のホームルームが一通り終わり、生徒がまばらに帰宅しだした頃、校舎に女子生徒幾人もの叫び声が響く。
黄色い声ではない。
恐怖に支配されたような、幽霊を見てしまったかのような絶叫。
それが校舎中、ひいては学校中に響いているときた。
それだけでただ事ではないのがわかる。
声の聞こえ方からして、発生源と俺がいる場所には少し距離があるようだ。
俺が今いる校舎は3階建て。
声は上の階から聞こえる。
それで、俺がいるのは2階。
したがって、三段論法により、声の主は3階、つまり3年生の教室にいる!
って、そんなことを考えてる場合じゃない!
この状況が久々だったから、ちょっとテンパってどうでも良いことに思考のリソースを割いてしまったよ。
急がないと間に合わなくなるっ!
声が聞こえてから刹那の思考の末、急いで3階に向かった。
声の主がどこにいるかを三段論法で考えてみたりしたけど、実際にはそんなことをしなくても、学校の中でこれだけの叫び声が聞こえた時点で、発生源も理由もおおよそ見当がつく。
この
そうそう事件なんて起こることはない。
だからこんな恐怖に満ちた声が聞こえてくる出来事なんて限られている。
それが
3階に上がるとすぐわかるくらい、1つの教室の前に人だかりができていた。
俺の予想の通り、事件はやはりこの教室で起きているようだ。
「すみません!通してください!」
入り口に群がる放心状態の先輩方を押しのけて部屋の中に入る。
そこにはヘタリと力なくアヒル座りで呆然としている1人のよく見知った女性がいた。
「やっぱり
「か、
ほぼ生まれた頃からずっと一緒にいる俺の1つ年上の幼馴染、
腰まで伸びたサラサラとした綺麗な黒髪には、本当に頭上に輪ができているのではないかと幻視するほどの見事な天使の輪がツヤツヤと輝いている。
切れ長で、一見冷たそうに見える目元も、目の前で起こっている事態にショックを受けて、うっすらと涙をたたえている。
152cmとかなり小柄なわりに、胸元にはたわわな果実が実っている。
アヒル座りになりスカートの裾からチラッとのぞく太ももは、太すぎずかといって女性らしさを失わない適度な肉付きで、こちらもまた艶めいている。
そのルックスは、清楚さと妖艶さ、成熟した大人っぽさと未成熟な子どもっぽさなど、相対する概念を両立している。
女性の見た目の素晴らしさを形容するあらゆる語彙がマッチする存在。
こんな状況でもなければ、誰もが見蕩れていたであろう美しさをその身に宿している。
神に愛されたとしか思えないその容姿は文字通り、
そのことは、癒乃ねぇの目の前で仰向けに倒れている、名前も知らない彼が体現している。
白目をむいて泡を吹いており、顔は土気色を帯びだしている。
普段の彼の皮膚の色を知らないのでなんとも言い難いけど、おそらく身体の方もまずい状態だろう。
肩を叩きながら声をかけて、呼吸を確認してみるも、やはり心臓は動いていない模様。
最初に女生徒たちの悲鳴が届いてから現在までおそよ3分ほどが経過している。
もしこれ以上放置すれば絶対に助からないだろう。
だけど今なら......。
「まだ間に合うかもしれません!」
「
うっ......。
ふぅ、危ない。危うく持っていかれるところだった。
直視したわけではないけど、視界の端に映る癒乃ねぇの目には涙が浮かんでいる。
そのうるうるとした表情にその懇願するような声。
俺が癒乃ねぇに向ける
正面から見つめなくても、悲しみに暮れる表情や仕草にこれほどの破壊力があるというのだから、恐ろしいものである。
......っと、いつまでも呆けているわけにはいかないな。
先程も癒乃ねぇから呼ばれている「
教室にいる先輩方はまだ驚くばかりで誰も動けない様子。
対して俺はこういう場面にわずかながら対応してきた経験がある。
大事な癒乃ねぇの心をこれ以上傷つけないためにも、ここは経験のある俺が、なんとしても間に合わせないと!
俺は瞬時に適切に状況を確認すべく、
癒乃ねぇは茫然自失で動けなさそうだ。
彼女はきっと今回も何も悪くないんだと思う。
だけど、この状況は紛れもなく彼女のせいで引き起こされたものだろう。
ショックを受ける気持ちもわかる。
覚束ない身体と頭で対応してもらって、これからの処置にミスでも起こったら困るし、そっとしておこう。
他の生徒の状況を確認して、声をかけていく。
「そこの茶髪の男の先輩、廊下の端にあるAEDを取ってきてください!
そこのショートボブの女の先輩、救急車、119番に電話してください!
あなたは保健室の先生を呼んできてください!
あなたは1階の職員室にいる担任の先生を呼んできてください!
教室の入口を塞いでいるみなさんは、この方を殺したくないなら、せめて両脇に寄って通り道を開けておいてください!」
こうして急いで心肺蘇生の準備に取り掛かった。
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