ダメ父

tonop

第1話

 なにかしらの“欠片”を得られないか……。

 自然と耳は、後部からの会話を拾っていた。

 と、遠くで響いたクラクション。

 いけない。

 鼻梁をこすり、意図せず穿たれていた集中力の隙間を埋めた。

 日曜日があてられた立春の今日。国道246号線の上りは、いたってスムーズな流れをつくっている。

 直、目的地。

 左にウィンカーを出した。

 刹那、

「免許とったら、あたしの誕生日はあたしが運転してくる」

 飛び込んできた揚々な声に意識を奪われた。

「それは怖いな~」

「だったら、パパはひとりでついてきて」

 ちょっとムッとした音がパパの笑いを誘った。


「ありがとうございました。お気をつけて」

 営業スマイルで降ろした本日最後の客。娘の腕には、リボンつきのカラフルな袋がしっかりと抱かれていた。

 遠ざかっていくその二つの後背を歩道に見ながら、脳が囁いた。

「免許をとったとき、彼女は、そして父親は、さっきの会話を思いだすだろうか……」

 助手席に置かれた乗務記録をとる。クリップボードに挟まれたそれの上に重なるのは、有名絵画の絵ハガキ。

 それは、娘へのバースデーカード。

 返事の返ってくるはずもない、便り。

 気づくとボールペンを持つ手がとまっていた。

 いけない。

 と、その手が鼻筋にいく。

 子どものころ、妙なでっぱりが気になり、へこませようとさすっていたのがそのまま癖になった。やめようと注意していても、未だ無意識に出てしまう。

〈4:11pm〉

 インパネの時計を確認し記入を終えると、フロントウィンドーの表示灯を「回送」にする。

 信号で堰きとめられ、流れを途絶えさせた車線に車をすべり込ませるのは、過去に戻りかけていた頭でもたやすかった 。

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