第34話 何日か後

ガチャ・・・

「ただいま」

それは久しぶりなことであった。

自宅に戻ること

そして

それと同時に「ただいま」をいうこと

かなりの時間が経過したそれだけは確かだ。

あのあとの記憶はなんというか曖昧なことがたくさんであるが

言えるのは

『あのあと』とはかなり前のことということ

俺は気が付いた時には病院のベットで寝ていた。

それに起きてからいろいろな人とあった。

盛大に喚き

怒鳴り

散らかし

ぶっ壊した

その結果

警察がさまざまな件で俺を取り調べることになった。

器物破損とか

不法侵入とか・・・

でも俺は精神薄弱の状態と診断されて

不起訴になった。

でも

入院はした

精神病院に。

テストしたり

脳波を測ったり

カウンセリングを受けたりと

なんかいろいろやった。

それに両親

本当に苦労をかけてしまった。

でも二人とも

泣きながら面会に来た母の姿は

なんかほんとうに申し訳なかった。

父は・・・うん・・・どうしたらいいかわからないようなそんな佇まいだった

「とりあえずは休んで」と優しく接してくれた

それが余計になんか・・・

痛かった。

そして“あの”部屋だが・・・

上司が見舞いにやってきた

そして

今回のことについて話した

「今回の件だが・・・申し訳ないが・・・・」

俺はとりあえず仕事はやめた

というか

こんなことになったのだ

やめたという言葉はただしくはない。

だが言っていたのは

「君が疲れていたのは私も社長も目に見えていた・・・なのに心のケアをせずに無理強いをしてしまった。申し訳ない」

と頭を下げて謝られたそのこと・・・

それにたいして

「俺の方こそ・・・こんな事件を起こしてしまって・・・すいません」

とベットから頭を下げたこと

仕事に関してはそんな感じで

情報はそこから受けることはなかった。

もしかしたら、大家さんが手放したかもしれないし

そのままうちの会社の誰かが引き継いで片付けて

ほかの人が住んだかもしれない。

その後のことは・・・・

考えないでおく。

気になることはたくさんあるけど・・・

隣に居たおばさんとか・・・

風の噂では

意識不明の重体という話を聞いたが・・・

本当なのかどうか・・・

それにその後の安否もあるだろうけど・・・

でも無理に調べたいとも思っていなかった。

“あの”部屋で起きた一連のことを俺はほかの人には話していない。

取り調べやお医者さんの問診

カウンセラーや両親・・・

見舞いに来てくれた上司・・・

誰にも何も言わなかった。

まず思った。

信じてもらえないと。

やっぱりおかしくなったと。

だからこんなこと起こしたと。

でもそれが正常な人の考えだと思う。

無理に信じてくださいとか

絶対に“あの”部屋がおかしいとかは

言ってもしかたない。

なんなら俺自身どこか夢だったのではと思っている。

自分でも不確かなものに信じてというのは・・・

無謀である。

だがそんな考えとは逆の考えもなかったわけではない。

もう病院に入院しているし

精神薄弱という言われ方もしているし

実際にわけのわからないであろうことをやって

騒ぎになって

警察のお世話になって

お医者さんのお世話にもなっている。

とことんやってしまえばいいのでは?

とも思った。

でも自分でも不確かだとか夢とか

なんか認めたくない気持ちがあった。

さらにいえばそんなこといってまた騒げば

もう日常に戻れない気がしていた

病院から出れない。

それはしたくなかった。

また日常には戻りたいとは思っていた。

そんな思いとともに俺はリビングへと歩いた。

「あ・・・・」

久しぶりに帰ってきても前あったものがないと

違和感があるものだとしった。

「テレビ・・・そういえば・・・」

その夜ぶっ壊したテレビ。

両親が部屋に来て片付けたと言っていた。

その様子をみてきっと俺の精神をさらに心配させたと痛感した。

それとさっき言ったことも訂正する。

“あの”部屋の件は夢ではなかったようだ。

あの夜俺は“あの”部屋に行った。

それは紛れのない事実だ。

そこまでは認めてみよう。

でも

テレビを壊した理由

“あの”部屋を燃やそうとした理由

“あの”部屋で起きたこと

“あの”部屋に入ってから起きたこと

それは・・・・

それは・・・・・・

「やめ!!!」

自分に声をかけて静止する。

そして

「風呂にはいろ・・・」

さっぱりするためには入浴がいいと

なんか感じた。

お風呂大好きなわけではないが

水に流すって言葉があるように

ここは一度いろんなことを水に流すことにした。

この部屋に帰ってくるまで流せなかった

あれやこれや・・・

今やっと流せるのだ。

「ふんふんふん~」

鼻歌交じりに蛇口をひねりお湯をためる

心配や不安

過去そして未来。

思いはたくさん入り混じっている。

でもきっとこれからだって生きていたらそんなことの連続だ。

あの日俺はあの男に言った言葉を脳裏に浮かべた

(おまえは自分で自分の未来を消した!!おまえは自分で自分の過去を呪った!!そこにはたしかにあったはずの幸せを!!!おまえは自分で捨てたんだ!!)

ジャーーーーー

蛇口からお湯が流れ出る

(あんたらはこの文ようにはいかなかった・・・それは残念だし悲しかっただろよ!!でもさ!この時はお互いに本気で思いあってただろ!?時間が二人を割いたとしてもこの時は本物の時間だろ!?)

キュッ

蛇口を閉めた

そして衣服を脱ぎ

お湯の中に身を沈めた

(それにさ・・・この時間に囚われて未来に歩みだせたはずなのに前を見ないで一歩を踏み出さなかった・・・それはおまえだろ?)

気持ちのいい湯加減・・・

髪や体を洗い

また湯につかる

(自分勝手にあきらめた人間が!!人様を巻き込むんじゃね!!!てめぇの生き方!てめぇの日常!!それをあきらめたやつにほかの人の人生をめちゃくちゃにする理由なんてこの世にはない!!!!)

一通り終わり栓を抜く

すると勢いよく水は排水溝に吸い込まれて

渦を作った

その日の言葉が頭にはっきりと浮かんでいた。

その頭をバスタオルで拭いた。

「ふー」

流れていった。

そういろいろ流れていった。

そう思うことにする。

未来を見るんだ!!

そう心に問うが・・・・

「あれ?なんかあいつに言ったこととなんか矛盾している?」

なんだか違和感。

頭の中でリフレインしていたセリフと

今俺がやっていること・・・・

未来を向くのはいいことだ・・・・

日常にもどりたいというのも本心だ・・・・

けど過去は?

俺は過去をないがしろにしてないか?

過去は未来に続いている・・・

それなのに俺はまだどこかで過去を引きずってる?

この部屋に帰ってきたからもその思いに取りつかれている?

だから無理やり流そうとお風呂に入って・・・

そして・・・

信じてもらえないって自分勝手に・・・・

そんなことを考えていたら手が止まった。

そして鏡をのぞいた。

「な・・・・・んで・・・・・・・・・?」

鏡の向こう

男が見開いた目でこちらをみて

笑っていた。




番外編に続く・・・・

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