第18話 四日目 買い物
「いらっしゃいませ!」
まのびせずにしゃっきりとした物言いの店員
明るく清潔感のある店内
ずらっと並ぶ普段は着ないYシャツやスーツ
その光景だけでもなんとなく気分がしゅっとする
スーツのチェーン店
今の俺の気分とは全くの逆といっていいそんな空間
その中を店員に向かって歩いていく
タッタッタ
「あの、すいません・・・」
「いらっしゃいませ!!」
はきはきと答える男性店員
明るく清潔感のある笑顔で対応してくれる
「あの・・・喪服を探してまして・・・」
「あっ、そちらの商品はこちらになります」
そういってスーツがある一角に案内される
「こちらが商品になります」
その先には黒色のスーツがびっしりと並ぶ
「実はあまりスーツなくてサイズとかが・・・」
「わかりました。では今サイズを測りますね」
店員はなれた手付で採寸する
「えー、お客様のサイズでしたらこちらの棚のサイズでしたら合うかと」
「わかりました、Yシャツとかあとネクタイもほしいのですが」
「はい、今こちらにお持ちいたしますのでお待ちください」
店員はとても雰囲気がよく
対応もてきぱきとしていた
その中俺は言われたサイズのスーツを手にとり
体に合わせてみる
「うーん・・・こんな感じかな?」
合わせて首をひねる
するとそこには全身を映す鏡が設置されている
「ちょっと・・・」
そういって鏡に向き直る
スーツがしっかりフィットしているか確認するためだ
体にスーツを合わせたまま鏡に映ると
「!!」
そこには夢に出てきた“あの”男性が立っている
「!!あっ!!」
驚きスーツを手放し
そのまま後ろにたじろぐ
カチン!
ハンガーの部分が床にあたり乾いた音をたてる
その音でまたハッとしてスーツを急いで拾い上げる
そして再び鏡を見る
そこには
「・・・・俺だよな・・・」
そういって少し手を動かす
そこには少し顔色の悪い
目の下にくまを作った
俺の顔
そしてどこか間抜けに思える感じで手を動かす
そんな姿が写っていた
(あれは・・・?)
「お客様」
ビクン!!
声の方に振り向く
「お客様こちらがYシャツとネクタイになります」
さきほど同様にてきぱきとした様子でこちらを見てきた
「お客様?」
「あ、あの・・・はいありがとうございます」
不審な俺の姿に疑問を持ったのか
店員は不思議そうにこちらを見た
それに俺は平然を装い
持ってきてもらったYシャツとネクタイを手にした
「こちらの商品でしたらお客様にもお似合いになるかと?」
「わかりました、じゃー・・・これとこのスーツもお願いします」
「ありがとうございます」
店員は一礼し
「こちらでお会計お願いします」
とレジの方へと案内される
その時もう一度先ほどの鏡を振り返る
そこには誰もいなく
店内の風景を映している
「・・・」
なんとなく眺めて会計に向かう
(俺・・・おかしくなったのかな?)
自分の正気を疑う
ここ最近のことは
たぶん
(誰にいっても信じてもらえない・・・)
夢を見るぐらいなら
トラウマとか“あの部屋”の印象の強さが要因で
まだ「大変だね」とか「やっぱり過酷なんだね」で終わるだろ
けど仕事中に謎の音が聞こえるとか
テレビに夢の映像が映って消えない
そしてしまいにコンセントを引きちぎる・・・
そんな行動・・・
たぶん、いや
ほとんどの人は思うだろう
「大丈夫?病院行った方がいいよ」って
「・・・・ぇんになります。お客様?お客様!?」
パッと顔を上げる
そこには訝し気な顔の店員
「え、あーすいません、えーっと」
「はい、お会計は・・・・」
金額を伝えられてその値を払う
そして
スーツとその他の諸々を手に持ち店を後にする
背後では
「ありがとうございました」
と声をだして店員が頭を下げていた
「さて・・・どうしようか・・・?」
なんだかどっと疲れが出てきた
なんというかあれだろうか?
シャッキっとした空間にいたからか?
それとも朝から続く疲れなのか?
だから鏡にあんなもの・・・
頭を振る
「まだ時間あるし・・・どっかファミレスでも・・・行こうか」
歯切れ悪い独り言
だが自分の家に帰る気は今はしなかった
それにファミレスなら食事以外にも
ドリンクバーがある
それで時間は潰せる
なにより人がたくさんにいるから気分がまぎれる
個人的には最後の目的が一番大切だった
人ごみは嫌いだ
騒がしいのも好きではない
でも今はそれが逆に必要だった
一人で静かにできてしまったらまた考える
また見てしまうかもしれない
“あの”部屋や“あの”男性を・・・・
そんな風に俺はファミレスに逃げ込むのだった
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