第13話 内政チート無双


 次の日。信長は自身の執務室で、舎弟たちに宣言した。


「はい、じゃあこれから今川と斎藤をぶっ潰すための万軍育成計画を実施します!」


 恒興、信盛、長秀の三馬鹿が拍手を送ると、利家、慶次、秀吉は首をひねった。


「ノブ、何よその万軍育成計画って?」


「よく聞いてくれたなワンコ。まず、俺らの敵は三人。尾張の北半分を支配していて、尾張全土の覇権を狙う織田信賢。知多半島を中心に尾張支配を狙う東の今川義元と北の斎藤義龍だ。こいつらを全員倒すための軍事力が俺らには不足している。そこで俺は、一万人の常備兵育成を目指す」


「いやノブ、それいくらかかるのよ、えーっと」


 利家は貰ったばかりのソロバンを使い、計算しようとするが、使い慣れないので目が泳いでしまう。


 でも、計算しなくても、利家のツッコミはもっともだと誰もがわかる。


 この当時、兵の半分以上は徴兵した農民で、ようは臨時のバイト君だった。だが信長はこの臨時バイトを職業軍人、ようは正社員にしようというのだ。戦がないときも月収を払い続けなければならないので、人件費にどれほどの費用がかかるかわからない。


「でも常備兵なら毎日軍事訓練させることができるから兵の質は高くなるし、農繁期――畑仕事が忙しく農民から徴兵できない時期――に関係なく、一年中一定の兵力で戦えるぞ」


「いや、そのお金をどうすんのって話よ。いくら織田家がお金持ちでも限界があるわよ。去年買った火縄銃五〇〇挺でだいぶお金使っちゃったし、ノブの考えた改造を施すのにも予算かかっているわよ」


 唇を尖らせる利家に、信長は余裕を崩さず答える。


「心配すんなよ。作戦なら考えているからよ。名付けて、信長四大政策だ」


 信長が親指を立てると、利家は『四大政策?』と聞き返してくる。


「ああ。主に兵農分離、納税改革、関所撤廃、印象操作だな」

「なんだかカッコいい名前ですね♪」


 四字熟語の羅列に、慶次は上機嫌だ。


「ありがとう。まず兵農分離だけど、これは徴兵制の廃止と志願制の導入だな。俺の軍は全員、練度の高い常備兵を目指す。それに俺以外の有力者が領民に兵役を強いるのも禁止だ。戦には出たい奴だけが出ればいい。その代わり、志願者は足軽として取り立てる」


 つまり戦う兵士と、畑を耕す農民を完全に分けて、人材の専門性を高めるということだ。


「さらに納税改革として、農民は年貢を銭じゃなくて、米で納めていいことにする」


 当時、農民は獲れた米を米問屋で換金し、銭で年貢を納めていた。だが町まで米を運ばなくてはならないため、農民にとっては大きな負担だった。


「農民は畑仕事に専念させてやりたい。それに、いままでは農民が米問屋に米を売って、その米を俺らが買って兵糧米にしていた。仲介人として米問屋が入ることで、兵糧米が高くついていた。でも仕入れを安くするには産地直送が一番。農民から直接米で年貢を納めてもらって、余剰分を俺らが米問屋に売ったほうがより多くの兵糧米が手に入るだろ?」


「それは素晴らしい政策ですのみゃ♪」


 元農民の秀吉は、身を乗り出して声をはずませる。他の舎弟たちも、秀吉の反応を見て、信長の政策が農民の暮らしを楽にすることを強く実感できて、得心をうる。


「関所撤廃は読んで字の如く、俺の領内、尾張の南半分の土地に存在するすべての関所を撤廃して、通行料と通行税の徴収を禁止するってことだ」


 当時、日本には尋常ではない数の関所があった。しかも通行料を取り、馬や荷車を使うと税まで取られた。


 これが原因で戦国時代は物流が冷え込み、町と町の交流も少なくなっていた。


 そのうえ、実はこの関所、公家や豪族など、その道のある区画の所有権を持つ小領主が勝手に作ったもので、通行料や税を自分たちの収入にしていたのだ。


 つまり、信長には一円も入ってこないのである。


「考えてもみろよお前ら、ちょっと隣町に行くだけでいくら金かかると思ってんだよ。なんでみんなが豪族や公家共にお小遣いあげなきゃいけないんだよ!」


 信長の演説に、舎弟たちはみんな『そうだそうだ!』と同調する。


「でもノブ。そんなことしたら、ただでさえ敵が多いのに、豪族や公家まで敵に回るわよ」


 親指を顎に添える利家に、信長はぐっと親指を立てた。


「おう、それが狙いだ♪ 近いうちに戦になるから準備しとけよ♪」

「……へ?」


 信長の快活な笑みに、利家は目を瞬かせた。

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