英霊バトルロワイアル（旧・古今無双決定戦）

第21話 本田忠勝VS立花誾千代

「噴(ふん)っ！」

　忠勝の突きが迫る、誾千代はあえてその刃に向かい進み、自らの刀の柄と先端を掴み、忠勝の刃に斜めに当てる。

　誾千代の思惑通り忠勝の突きは進行方向をそらし始めるが忠勝の攻撃があまりに重かったため、刃が誾千代にとどく前に槍をそらしきれず、刃は誾千代の左肩をかすり、肩の鎧が裂けるが誾千代はそれにかまわず進み続け、忠勝のふところに潜り込む。

　そのまま忠勝の喉に突きを浴びせようとするが、すでに槍を掴んでいない左の手掌(しゅしょう)が待ち構えていた。

　忠勝の左手は誾千代の刀を巧みに押しのけると誾千代の胸部を強打する。

　吹き飛ばされた誾千代は今の出来事が信じられないといった顔で忠勝を見る、誾千代はまさかと思い、忠勝に駆け寄ると今度は彼女の方から威力は低いが速さのある攻撃を何度も放つ。

　しかし誾千代よりもはるかに大きく、重たいはずの忠勝は名槍、蜻蛉(とんぼ)斬りを巧みに操り、攻撃の全てを受け流し、力の方向を変えられ、目標物を失った刀は空振りし、空(くう)を斬る。

　やがて誾千代は後ろへ下がり、忠勝と距離をとる。

　忠勝は構えを解き、槍を下に垂らす。

「貴公、これで某にかなわないのがわかったはず、某は女子を斬りたくは無い、しかしこの戦いは相手を殺さねば勝ちにならない、おとなしく負けを認めれば一撃で楽に殺すがいかがか？」

　その言葉を聞いた途端、誾千代は感情を爆発させる。

「貴様！　私を女扱いする気か！　私は武士だ、とうの昔に女は捨てた！　二度とそのような事を言えぬよう、その首、刎(は)ねてくれる！」

　忠勝は目を閉じ、息を吐き出すと再び槍を構え、言う。

「残念だ、できれば戦いたくはなかったのだが……」

　忠勝は目を開くと一瞬にして誾千代との距離を詰め、再び瞬速の槍撃を放つ。

　攻撃はその一つ一つが信じられないほどに重い、そして技の全てはあまりに速く巧みだ。

　速く、巧みなその技で敵にスキを作り、ここぞという時はその超重量の体重と常識はずれの筋力を注ぎ込んだ強烈な一撃を放つ。

　決して力任せのパワーファイトではない、あくまで巧みに、あくまでしなやかに、流れるように戦う、これが戦国最強、あの武田信玄に「徳川に過ぎたる者」と言わせた男の実力だ。

　本当に、戦えば戦うほど、刃を交えれば交えるほど最強を感じさせてくれる。

　誾千代は忠勝の攻撃をなんとか防ぐが徐々に押され始める。

　そして誾千代に生じた一瞬のスキをついて忠勝は彼女の体を上へと斬り上げる。

　子供に投げ飛ばされた人形のように宙を舞う誾千代、そして天井にぶつかり、砕けた天井の破片と共に床へ落ちる。

　誾千代は倒れたまま、糸の切れた操り人形のように動かなくなる。

「誾千代！」

　直人は誾千代に駆け寄り、彼女を抱き起こす。

「……し、心配するな、大丈夫だ、直人」

　誾千代は起き上がると直人を担ぎ二階への階段へと走り、駆け上がる。

「この忠勝から逃げるとは、笑止！」

　はるかに体重の重いはずの忠勝は誾千代にも迫るほどの速力で二人を追いかけ、そのたびに鎧の揺れる音と床がきしむ音がする。

「一体どこ行く気だ、逃げるのか？」

「いいからしっかりつかまっていろ！」

　誾千代は二階の長い廊下へ出ると直人を下ろし、刀を構える。

「忠勝の武器はあの長い槍だ、射程で負けるのなら狭い場所へ行けばいいだけだ」

　直人が感心し感嘆の声を漏らす。

「そうか、この狭い廊下じゃあいつの長槍は思うように動かせない、ここなら小柄な誾千代のほうが有利ってわけか」

　うなずくと忠勝が追いつき襲い掛かる。

　しかし忠勝は今までと何の変わりも無い動きで槍を動かしている。

　周りには壁も天井もある、しかし忠勝のあまりに強靭すぎる筋力により、槍に触れた壁や天井はまるでゼリーのように砕け、何の障害にもなっていない。

　二人は同時に言う。

「「そんなっ！？」」

「誾千代！　ここじゃあいつは身動き取れないんじゃなかったのか！？」

「し、仕方ないだろう、奴の筋力が予想以上に強かったのだから」

　誾千代は忠勝の攻撃をかわしながら再び直人を担ぎ走る。そのまま三階へ行くと天井と床を強く蹴る。

　すると床にはヒビが入り、天上は崩れヒビの入った床に瓦礫が落ち、そこへ忠勝が迫る。

「いつまで逃げる、何を考えているかは知らぬが……！？」

　忠勝が瓦礫を踏んだ瞬間、ヒビが入り脆くなった床は瓦礫と忠勝の重量に耐え切れず崩れ落ちる。

　ゆうに一〇〇キロを越える忠勝はそのまま２階を貫き一階まで落ちる。

　二人は大きく息を吐き安堵するが、霧のように舞っていた粉塵が晴れるとそこに忠勝はおらず、床から忠勝の槍が飛び出し、槍は何度も床から飛び出し二人を襲う。

「……これは？」

　誾千代はくやしそうに舌打ちをし、かわし続ける。

「ちっ、どうやらすでに二階に上がっているようだ、忠勝の長槍なら上の階まで攻撃がとどくというわけか……」

　二人が槍をかわし続けるとやがて槍が引っ込んだまま飛び出さなくなる。

　誾千代が不思議そうに床を眺めていると床から突然、忠勝の腕が飛び出し誾千代の右足首をつかむ。

「なっ！？」

　誾千代は周りの床ごと下の階へと呑みこまれる。

　忠勝はそのまま自分が貫いた穴から一階へ飛び降りると誾千代をムチのようにふりまわし床や天上、壁に叩きつけていく。

　最後にはまるでハンマー投げの選手のように誾千代を投げ飛ばし、壁に叩きつけた。

　壁は崩れ、向こうの部屋が見える。

　直人は床に空いた穴に飛び込みなんとか一階に着地することに成功する。

　元々、訓練をつんだレスキュー隊や自衛隊ならば三階から飛び降りることはできる。

　普段から剣術で体を鍛えこんでいた直人にできても不思議ではない。