英霊バトルロワイアル(旧・古今無双決定戦)

鏡銀鉢

第1話 散る 戦乙女

 みんなにはあらかじめ言っておこう、これは地上最強を決める戦いじゃない、史上最強を決める戦いだ。この地球の歴史上最強の存在が何か、知りたいだろう?



 暗い夜の森の中、一人の女性が血を流す、その女性は世界でも最高の部類にはいるほど美しく、自らの血で絹のような髪と雪のように白い肌が紅に染まるがそれは彼女の美しさを引き立てる最高の戦化粧となる。

 細身の体を山吹色の甲冑で包み、その手に握られた刀で敵と闘っている。


「やあああああ!!」


 彼女は上空へ飛ぶと刀を振りかざし、それを敵に振り下ろす。敵はそれを持っていた大太刀で受け止める、敵は苦しそうに息をしながら体から血を流している。


 しかしそれは彼女も同じだ、けれど彼女の攻撃は止まらない、なによりも速く、鋭い攻撃が敵を襲う。

「貴様もこれまでだな」


 彼女の美しく凛とした声が闇の中に染み込む。

 敵は憎しみを込めた眼差しで彼女をにらみつける。


「覚悟!」


 彼女はそう言うと敵に斬りかかるが。


「・・・!?」


 周りの闇からいくつかの影が飛び出す。それは彼女に襲いかかり、体の自由を奪う。


「忍び!?・・・卑怯な真似を・・・・」


 彼女は自分を拘束する忍び達を振りほどこうと体を動かすが、疲労しきっている彼女にその力は残っていなかった。


 その様子を見て敵は鼻を鳴らし言う。


「ふんっ、戦いに没頭し、忍びの気配に気がつかなかった貴様の失態だ、悪いが家のため、わしはこんな所で死ぬわけにはいかないのだ・・・」

「おのれ~~・・・・・きさま~~~!!」


 彼女は満身の力を込め、忍び達を振りほどこうとする、そして最後の力である技を使う。


「はああぁぁぁぁ!」


 忍び達は突然感電する、彼女の体から大量の電気が放出されたため、彼女をつかんでいた忍び達の体に雷が流れたのだ。


「・・・ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・・」


 彼女はあまりの疲労でその場に座り込み、そのまま立ち上がれなくなる。


 そして敵は徐々に近づいてくる。


 彼女は必死に体を動かそうとするが動かない。


 敵は大太刀を振り上げる。


 今動かなければ死ぬ、彼女は自分の体に何度も何度も「動け」と命じた。


 彼女を縛るものはもう何もない、だというの彼女は身動き一つ取れない、彼女の意識は残っている、戦う気力もある、そしてこれからどのような行動を取ればいいのかもわかっている、しかし彼女は動けない、体が彼女の言う事を聞いてくれない、縛るものは何もないのにだ、そして自分の体なのに動かないという事実、今動かなければ自分は死ぬという現実が襲ってくる。


 彼女はただ涙を流すしかなかった。

「・・・・・くっ・・・・」


 敵は大太刀を握る手に力を込める。

「・・・さらばだ・・・・・」


 敵はその手に握っていた大太刀を彼女に向かって振り下ろした。




 ハハハハハハ、聞け、世界中の戦士達よ、この二十一世紀の世はまもなく歴史上最大の戦場となる。世界は歓喜し奴らを迎え入れるだろう。


 アアアアア、魂よ、うぶ声をあげるがいい、死後の世界からあの英傑たちが、超人たちがよみがえる。


 さあ、好きなだけ殺し合え、最後まで生き残り史上最強を証明した者にはすばらしい未来が待っているぞ。





 戦士ならば誰でも夢見る史上最強、けれどもう死んでしまった戦士と戦うことなどできはしない。史上最強になどなれるわけがない、史上最強の証明などできるわけがない、なのに・・・・気がつけばいつも史上最強を目指している。




「・・・・!!?」


 神弥(かみや)直人(なおと)は布団から飛び起き、慌てて辺りの様子を見渡す、その右手にはいつも寝る前に布団の横に置いている木刀が握られている、起きる時にすばやくそれを取ったのだ。


「・・・・・・・ゆ・・ゆめ・・・・?」


 直人は時計に視線を移す、時計は直人に午前五時半を表示している、それを確認すると直人は着物に着替え、木刀を片手に家の敷地内にある道場へと朝の修行をしに行く。

 直人が道場に入り、辺りを見渡すとそこには誰もいない。


「あれ・・・・父さんがいない?」


 直人が道場の中を歩くと壁に一枚の張り紙を見つける。直人は張り紙に近づき、それを読んだ。


「武者修行の旅に出ます、門下生達をよろしく、両親より・・・・?」


 直人はその張り紙を勢いよく剥がし、グシャグシャと丸める。


「二度と帰ってくるな!!」


 直人はそう叫んで丸めた張り紙をゴミ箱に叩き込んだ。


「まったく、何が門下生達をよろしくだ・・・・」


 直人はふと、横の壁を見る。

 そこには門下生達の名札が下げられており、その数は百近くある。

 直人は何か思いつめたような顔でそれを眺める。


「・・・・・まったく・・・」


 直人は木刀を握る手に力を入れなおし、素振りを始めた。


 直人は一目見ると中肉中背の平均的な体格の少年だ。しかし長年、剣術の稽古を積んだ体は服を脱ぐと鍛えられた筋肉が伺え、引き締まった体をしている、稽古でついたのか小さな傷跡がいくつもあり、なかなかに精悍な顔立ちで今年、中学三年生になる。


 やがて素振りをする直人の額からは汗が流れ、床へと滴り落ちる。

 朝の修行が終わり、直人は道場を出た。目の前には巨大な武家屋敷が待ち構えている。


 直人は母屋へ向かって歩き出した。


 その後、直人はシャワーを浴び、着替えると朝食を作りそれを食べる。


 屋敷の瓦屋根にはスズメがとまり、庭園には桜の花が咲き乱れている。実に気持ちの良い朝だ。


 何故、彼がこんなに立派な武家屋敷に住んでいるのか、彼の家を訪れた大半の者は疑問に思う。


 それは直人自信も同じで昔、父親に尋ねたことがある、父の話では彼の家は五〇〇年以上も昔、なんと戦国時代からある道場らしく、国の重要文化財にも指定されているらしい。


 その頃は家来や内弟子達(師匠の家に住み込んで技術を学ぶ弟子)がたくさんいたので、そういった人たちの部屋も用意されていたが、明治に入って平和な時代になると家来は必要なくなり、師匠の家に住み込んでまで剣術を習おうという人もいなくなる、結果的に家来や内弟子用の部屋として用意された十数部屋全てが空き部屋になってしまい、今ではこんな広い武家屋敷に直人達家族だけで住んでいる。


「ごちそうさま」


 直人は食器を片付けると鞄を持ち、学校へと行く。

 ただでさえ家族三人では広い家、両親が旅に出た今。しばらくの間は直人一人になる、直人は腹の中で両親が帰ってきたらどう文句をつけてやろうかと考えながら学校へと向かった。


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ニワトリが飛べないのは才能でも努力でもなく環境のせいだ! 無能な少年と師匠の出会いが、一人の英雄を誕生させる──。

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