5.雪の降る昼下がり、リビングで。










「ねぇ、お兄ちゃんっ!」

「どうしたんだ。絵麻」

「えへへ。なにか私にしてほしいこと、ないかな?」



 年末に差し掛かり、両親のいない日常にも馴染んできた頃合い。

 まだ絵麻との生活には気恥ずかしさもあるが、それなりに兄らしくなってきた――かもしれない。そんなある日のことだった。

 俺がゲームをしていると、後ろから絵麻がそう声をかけてきた。

 一時中断し、振り返るとそこには満面の笑みの義妹。



「急にどうした?」

「うん。私だけプレゼント貰って、お返ししてなかったから」

「あー……マフラーのことか」

「うん!」



 訊き返すと、彼女はそう言った。

 どうやら先日のクリスマス。マフラーを買ったことについて、なにかお返しを、と思っているようだった。俺としては別段、特別なことをしたつもりもない。

 でも、絵麻にとっては意味のあることだったらしい。


 だとすれば、なにかしてもらわないと。

 俺ではなく義妹が、気まずくなってしまうのかもしれなかった。



「そうだなぁ……」



 なので、腕を組んで考える。

 しかしながら、これといって思いつかなかった。だから――。



「逆に、絵麻がしたいことはないか?」

「え? わ、私が……?」

「うん」



 あえて、そう訊いてみた。

 今回の目的は、絵麻が満足すること。

 というわけだから、俺は逆に彼女のしてみたいことをすることにした。



「え、あぅ……」

「なんでもいいんだ。俺としてみたいこと、ないのか?」



 困惑する彼女に、少し強引に迫ってみる。

 すると絵麻はしばしの沈黙の後に、ソファーに座って言った。



「じゃ、じゃあ……ここに頭乗せて?」――と。



 …………はい?



 今度は俺が困惑する番だった。

 なんだ、それ。つまるところこれって、膝枕?



「…………い、いいのか?」

「うん。いつも、私が甘えてるから……ね?」

「お、おう……」



 ――おいで、と。


 絵麻は俺を手招きした。

 そして、こちらも流されるままに移動して。



「そ、それじゃ。失礼します……」



 義妹の膝枕に、頭を乗せて横たわった。

 ほんのりと温かい。その柔らかい感触を覚えながら、時間の経過を待つ。



 え、ここからどうしたらいいの……?



 完全に思考が停止した。

 だが、そんな俺に追い打ちをかけたのは義妹。

 彼女はその小さな手で、ゆっくりと優しく、俺の頭を撫で始めた。



「私のお兄ちゃんになってくれて、ありがとう」

「……絵麻?」



 そう囁く声に、俺は――。



「ん……」



 だんだんと、意識が遠くなって……。









「えへへ、寝ちゃったね」



 絵麻は眠る拓哉の横顔に、小さく微笑んだ。

 そして、その頬に軽く触れて、改めてこう感謝を述べる。




「ありがとう。お兄ちゃん……」――と。




 雪の降り始めた、冬の昼下がり。

 急速に距離を縮める兄妹は、それぞれを想うのだった。



 






 

――――

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