クリスマスに『妹が欲しい』と冗談を言ったら、父親が何故か大喜びをしたんだけど……? ~そして当日、学園の高嶺の花が俺の義妹になりました~

あざね

オープニング

1.ほんの冗談。









「なぁ、拓哉。クリスマスは何が欲しい」

「なんだよ親父、藪から棒に」

「いや、これといって他意はない。しかしここ数年、私はお前に父親らしいことをできていないからな。せめてクリスマスぐらいは、願いを叶えたい」

「…………はぁ、さいですか」



 そこで一度、俺はプレイしていたゲームを中断。

 改めて親父にこう訊ねた。



「そうは言ったって、俺はそこまで欲しいものないぞ?」

「お前は昔から、物分かりが良かったからな。だからこそ、だ」

「だからこそ、ねぇ……?」



 どうやら親父は真剣に話をしているらしい。

 高校二年生の冬――あまりに唐突な申し出に、俺はついつい困ってしまう。というのも、母さんが亡くなってから、親父は男手一つで俺を育ててくれた。

 かなりの苦労もあっただろう。

 だからこそ、俺は親父の負担になることを言いたくなかった。


 そうなると、だ。

 どう足掻いても無理な話をして、この話は有耶無耶にした方がいい。



「だったら――」



 俺はそう考えて、こう言った。



「今年のクリスマスは、妹が欲しい、かな」――と。



 はい、終わり。

 こんなの、どう考えたって無理な話だった。

 今から結婚したり、婚前に命を授かったとして、すでに十二月の頭。妹はどうやっても用意できないのだ。そんなわけで、俺は再びゲームを起動した。


 だが、その直後に聞こえてきたのは――。



「妹……! 本当に、妹が欲しいんだな!?」

「え? あ、うん……」

「よし、父さんに任せろ拓哉! その夢、叶えてやる!!」




 なぜか、意気揚々とした親父の声だった。

 俺は振り返って、小躍りしている中年男性を見て思う。



「え、いやいや――」



 ――まさか、そんなことはない。


 なにを企んでいるかは分からないが、とにもかくにもあり得ない。

 ほんの少しだけ嫌な予感がする。でも俺は、すぐに気持ちを切り替えてゲームを始めた。親父は酒が入っているから、酔っているのだろう。そう、思って。



 だが、この時に冗談を撤回すればよかった。

 後になって、そう思うことになる。








 ――数週間後のクリスマスイブ。


 ちょうど高校も終業式だった。

 体育館に整列した学生たちはみな、眠そうに校長の挨拶を聴いている。いや、どう見繕っても半数は眠っているように見えた。

 だが、そんな空気が一瞬で切り替わる出来事が起こる。


 それというのも、現生徒会長が壇上に立った時だ。




「…………おい、砂城絵麻が話し始めたぞ……!」




 そんな声がした。

 直後、眠っていた生徒の中でも特に男子生徒は目を覚ます。

 理由は単純明快。壇上に立つ生徒会長に、みな視線が釘付けになっていたからだ。私語もなくなり、全員が真剣に、彼女の言葉に耳を傾ける。



 俺はそこに至って、改めて砂城絵麻を見た。



「…………相変わらず、美人だよな」



 そして、思わずそう漏らす。

 父親がドイツ人という砂城は、人並外れて美しかった。

 さらりとした金の髪に、凛とした青の瞳。表情は一つも崩さず、淡々と原稿を読み上げている。しかし、その姿さえ絵になってしまうのだから凄いの一言。

 成績も学年トップ。

 俺は精々、中の上くらいなのだから雲の上の存在だった。



「一度も、口きいたことないもんな」



 そのこともあってか、俺はどうにも砂城に近付けないでいた。

 入学して、もうすぐ二年目が終了しようとしている。それでも俺と彼女の間には、それこそ冷たい空気が流れているというか、とにかくそんな感じ。

 喧嘩したわけでもない。

 むしろ、互いに無関心だった。

 しいて言えば、俺が一方的に存在を認知しているくらいで。



「まさしく、高嶺の花――だよな」



 学園の誰もが憧れる、そんな存在。

 でも、憧れは手が届かないから憧れという。

 アレだ。理解から最も遠い、とか言ったのはマンガのキャラだったか。



「まさしく、その通りだよな」



 そう思って、俺はゆっくりと目を閉じた。

 そして、彼女の透き通るような声を聞きながら、意識を闇の中へ……。








――――

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