第13話 魔法少女?
Side ルフラン
甘ったるい砂糖菓子のような少女はピースした指を目元で横にしながら、ものっそいアイドルポーズで自己紹介をしてきました。
「どーもどーも! わたしは魔法少女のベルカちゃんだよ!」
「魔法少女を自称するならその背中に携えた物理丸出しのハルバードはなんですか?」
もう少し隠す努力をしてください。
ピンクのロリータファッションで揃えた赤髪の少女。
ふわっふわとかキラッキラとか、そんな擬音が聞こえてきそうな雰囲気ですね。
彼女の背中には槍と戦槌の複合武器であるハルバードが銀光を吐き出しています。
「ふっふっふ。人は見た目じゃないんだよ。ベルカちゃんのステータスを見るかい?」
そう言って自身満々の顔でステータス画面が記されたウィンドウを見せてきます。
ここまで自身に溢れているとなると魔法特化のジョブなのでしょうか?
だとしたら何故ハルバードを持っているんだという話になりますが……。
【ベルカ・ドロシー『弓使い』Lv8】
「弓使いッ!?」
予想の斜め右後ろくらいの解答に柄にもなく素っ頓狂な声を上げてしまいました。
魔法職でないにしろ、せめてハルバードを使うジョブでしょう!
「どこに魔法少女の要素が!?」
「ふふっ。そんなところがマジカル☆」
どやっ、とした顔をしたベルカさんに私は察します。
これ、話通じない系の人ですね。
「それでメガネくんのお名前は?」
「ルフランです。ステータスはこんな感じで」
私はベルカさんと同じようにステータスを見せます。
「マキドナス? 聞いたことないジョブだね。隠しジョブかな? Lv1ってことは最近始めたばっか?」
「こっちの時間で昨日始めたばかりです」
「わたしは四日前から! 初心者同士仲良くしようね~!」
そう言って屈託ない笑顔のまま手を差し出してきます。
……まあ、悪い人ではなさそうですね。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
【ベルカ・ドロシーとパーティを組みました】
メッセージと共に私のHPバーの下に簡易的なベルカさんのHPバーが現れました。
レベル差があるためベルカさんのほうが多いですね。
「敬語じゃなくていいんだよ?」
「こればっかりは癖でして」
ピカピカの笑顔を見せる自称魔法少女の差し出された手を握り返します。
女の子の、柔らかくてあったかい手でした。
***
王都の南東にある平原は見渡しがよく、装備からして初心者っぽい人たちが魔物と戦っている様子が窺えます。
そんな人たちも私たちが近くを通るとこちらをギョッとした目で見てきます。
あー、ベルカさん、目立ちますもんね。
「みんながわたしを見てる。それも仕方ないか~、こんな美少女魔法少女が視界に入ったら見ずにはいられないよね!」
「ベルカさん、鏡って知ってますか?」
「知ってるよ?」
なら、いまの自分の姿を見てみることを推奨します。
周りの反応は蛍光灯を間近で見た時と同じものですよ?
あと美少女と魔法少女で少女が被っています。
「それで素材はなにが必要なの?」
「レクシア蛙の油、レクシア熊の爪、レクシア亀の甲羅、
私が素材を読み上げるとベルカさんは面倒くさそうな顔。
まあ素材集めクエストはそういうものですよね。
「文句を言っても仕方がありませんよ。一緒に頑張りましょう」
「あらら、ランちゃんはなんかご機嫌な感じ?」
「狩りにくるのはこれが初めてでして」
そうなんですよ。
いろいろあった気がしますけどMMORPGの醍醐味であるモンスター狩りはこれが初めてなんですよ。
あと、ちなみにランちゃんはやめてください。
幼稚園時代に母が私を呼ぶときに使ってたやつです、それ。
「それなら仕方がない! 魔法少女は困ってる人の味方だからね!」
「困っているわけではないですがやる気が出てくれたのなら何よりです」
元気よく背中のハルバードを抜いたベルカさんの横に並びました。
戦闘中のちょっとした取り決めを行おうと思いまして。
「弓使いということは遠距離専門ということで?」
「専門ってわけじゃないけど遠くで戦った方が便利ではあるかな」
「それなら私が敵のヘイトを稼ぎますから後方から援護してもらえますか?」
「まかせろー!」
そう言ってベルカさんはハルバードをぶんぶん振り回しました。
ちょっとちょっと、それ思いっきり近接のやつですよ。
私が訝しい目を向けると、ベルカさんは指を振って「ちっちっち」とか言ってきます、ウザイ。
「ランちゃんは魔法少女がどんなものだと思う?」
「どんなもの、ですか?」
随分と哲学的な質問が来ましたね。
一応、妹が見ていた流れで魔法少女系の女児アニメを視聴していたので知識はそれなりにあるつもりです。
あれですよ、決して自分から見ていたわけではありませんよ。
妹が見ていたのをそれとなく見ていたらハマってしまって、妹の付き添いという名目で劇場版を見に行って感動で涙を流したことなんてありませんよ?
本当ですよ?
「女の子の夢を力に変える存在……という答えでは?」
「ぶっぶー。不正解!」
口を3の字にして両手でバツ印を作るベルカさん。
そこまで言うなら私を納得できる答えを頂こうではありませんか。
私が視線で答えを促すとベルカさんは自信満々に答えます。
「魔法少女ってのはね、変身なんだよ!」
「…………ほう」
完全に納得したわけではありませんが一理はあるかもしれません。
普通の女の子が物語の住人に成り代わるため、変身という過程は非常に重要な要素です。
現実から非現実へ、夢を夢で終わらせない乙女の根本的願望。
変身という言葉には魔法少女の大部分があると言っても過言ではありません。
私は何を語っているんですか?
「それを理解したうえで、いまと何の関係が?」
「ふっふっふ。とくと見るがよい!」
ベルカさんがカッと目を見開くと、太陽の光が彼女の手にしたハルバードに集約していきました。
不思議なエフェクトが彼女の包む空間に溢れ出し、どこからか聞こえるポップな音楽。
それにに合わせて、なんとハルバードががしゃこんがしゃこん言いながら変形していくではありませんか。
柄の部分が二つに割れ、斧の部分が弓の上部に、槌の部分が下部に。
その二つの先端を繋ぐようにして黄色い光の弦が生まれます。
変形を終えた武器を手にしたベルカさんは最後にポーズを決めて「キラッ☆」とか口で言っちゃってました。
「これが魔法少女の変身だよ!」
「どちらかと言えば変身というよりトランスフォームでしたけどね」
しかしまあ、変形とか変身とかそういう流れは嫌いじゃないですよ。
ハルバードが大弓に変化するところはそれなりに興奮もしました。
「なら後ろは任せるということでよろしいですか?」
「ふふっ、大船に乗ったつもりで任せなさい!」
「返事はいいですね。泥舟でないことを信じますよ」
「ベルカちゃんの泥舟は頑丈なのだ!」
泥舟ではあるんですね。
私は苦笑しながら、この何とも喧しい臨時パートナーに微笑みます。
ベルカさんもにかっと笑い返してくれました。
知らない人とパーティを組んで一緒にクエストをこなすのも、MMORPGの醍醐味の一つです。
私は心の内に湧き出すワクワク感の傾くがままに、初めての狩りへと乗り出しました。
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