②ー① クラス発表
4月のはじめ、学年が上がってから初めて学校に登校する日、多くの学生が楽しみにしているものは、クラス発表だと俺は思う。誰と同じクラスになるか、それはこの先一年間の学校生活を左右する大きな問題となる。この後入学式のある優奈は、どこかに連れていかれてしまったため、俺は一人で自分の名前を探す。昔はよく、優奈と二人で名前を探して、『あ、ありました‼先輩の名前、ありましたよ‼』なんてやり取りをしていたけど、高校生になった今はもう、そんなことはできないだろう。……そもそも、中学時代もそんなことをやっていたのだから、俺たち二人の関係は普通じゃないけど。今回のクラス替え、俺が望むことはただ一つ。躑躅さん、躑躅なずなさんと、同じクラスにならないことだ。振られた相手と同じクラス。気まずい以外の何物でもない。うん、気まずすぎる。いや、もう一周回って気まずくないって可能性もあるのか?むしろ、告白したおかげで距離が縮まって付き合っちゃうなんてことも……。
などと、おかしなことを考えたところで、頭を冷やすため、自分の名前を探すほかの生徒たちから離れた木陰に腰を下ろす。すると……
「おはよう、広葵。」
そう声をかけられた。美しい、透き通るような水色の瞳を持つ彼女の名前は、
「おはよう、日奈。」
まあ、その分俺も、陽川さんのこと、名前で呼ばないといけないんだけど。
「どうしたの?広葵。……もしかしてまだ、なずなちゃんに振られたこと引きずってんの?」
そしてこの女の子、天使みたいな見た目をして、天使みたいな声をしているのに、人の傷にズバズバ切り込んでくる。しかも、本人は良かれと思ってやっているのだから本当に困る。もし、ふざけてやっているとかなら、少し強く、『やめろよ‼』とか言えるのだが、人を傷つけることが何より嫌いな俺は、良かれと思って……いや、悪気があってやっているわけではない日奈のことを傷つけたくはないといいますか……。まあ、そういうわけで、こんな感じの関係がずっと続いているわけなんですよ。はい。
「まあ……。長い間……といっても1年もたってないけど、それでも、それでもずっと、好きだったからな。」
「そうだよね。広葵、ずっとなずなちゃんのこと、大好きだったもんね。毎日のように私に電話で相談してきてさ。ずっと子供のころから、『恋に時間は関係ない』って言葉が気になっていたけど、こういう事なんだね。」
うん。そうだね。すっごく、すっごくいいことを言っているんだけどさ……もうちょっと、小さい声で言ってくれないかな⁉道行く人たち……いや、自分の名前を探していた人たちまでもが振り返って俺たちのこと見てるよ⁉俺たちの話に耳を傾けてるよ⁉失恋した話をたくさんの人に聞かれるとか、すっごく恥ずかしいんですけど⁉今、僕、普通に死ねるんですけど⁉というか今、少し死にたくなってきちゃっているんですけど⁉あと何?日奈って、子供のころから『恋に時間は関係ない』って言葉を知ってたの⁉……どんな子供だよ⁉陽川さんと話していると、すっごく楽しいけど、いっつも、いっつもツッコミが大渋滞しちゃうんだよね。
「そ、そうだね。」
ツッコミどころ満載だが、メンタルボロボロの俺に、大勢の生徒の前でツッコむ余裕など、残っているはずもなく、そう相槌を打つしかなかった。
よし、そろそろ覚悟を決めて、クラス発表、見に行くか。
そう思った時だった。
「あ、そうだ広葵。今年も私たち、おんなじクラスだったよ‼今年も一年よろしくね。」
と、そう言ってきた。……日奈と同じクラスになれるか、俺楽しみにしてたのに。というか、それだけがモチベーションになっていたのにそれ言われちゃったら俺、ほかの生徒の名前とか見られなくなっちゃうよ⁉なずなさんと同じクラスではありませんようにとかいう、マイナスの感情を持ちつつクラスメイトの名前を見ていくことになるんだよ⁉……というか俺、さっきあんなに恥をさらしておいて、あの集団に混ざらないといけないのか。結構きついな。いや、でもなずなさんと同じクラスかは見ておきたいし。
そう思っていると、
「あ、あと、少し言い辛いんだけど……。」
そう、日奈が話し始めた。……この様子って、もしかして。
「残念なことに、多分、広葵にとっては残念なことだと思うんだけれど。」
あ、多分これ、絶対そうだ。あの人と、俺が振られたあの人と、一緒のクラスってことでしょ?
……いや、でももし日奈が、俺がまだ、なずなさんのことをすきだとかんがえていたら、違うクラスだったことを残念っていうことだってあり得る。うん。まだわからないよ。
「実は、なずなちゃんも一緒のクラスだったんだよね。」
……。うん。はぁ~。ねえ、俺、どうすればいいの?これからどうやって、なずなさんとやっていけばいいの?
「しかも、男女別の出席番号が同じだったから、多分席も隣だと思う。」
……。どうやら僕は、神様に嫌われてしまっているようです。
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