①ー③ 優奈と登校
「広葵先輩、広葵先輩とこうして歩くのって、なんだか久しぶりですね。」
人通りの多い街中を二人並んで歩いている俺達。昔からずっと、こんな感じで歩いていたはずなのに、今日は普段と、何かが違う。……いや、何もかもが違う。距離も、歩くスピードも、何もかも。
「久しぶりって言っても、二人で登校するのが一年ぶりってだけだけどな。」
小学校五年間、そして中学校に入ってからも三年間、優奈と一緒に登校していたわけで……普通の人にとっては、たったの一年だったとしても、俺たちにとっては、長い長い一年だったのだ。ずっと隣にいた友達が、ずっと近くにいた異性の親友が、こんなにも長い間、近くにいなかったのだから。
「そうなんですよね~。たった一年だけなんですよね。それに私たち、去年、一回も、二人っきりで歩かなかったとか、そういうのじゃないですからね。それなのに、こんなに久しぶりに感じちゃうとか……。もしかして、先輩成分が、足りていないんですかね?」
冗談っぽく笑いながら、優奈がそう言う。
もしかしたらこの中に、一年ぶりにあった相手に、『久しぶり』と、そう言ったことがある人が、いるかもしれない。然しそれは、一年間、全くあっていないからこそ、通用するものであって、一年ぶりに一緒に歩くわけではない俺たちに、何なら昨日の夜、二人で散歩をした俺たちが、『久しぶり』と使うのは、おかしいとしか言えないのだ。
「そうだな、俺も優奈成分が足りていないのかもな。」
いつもなら、普段ならここで、真面目に返す俺だが、この時は、躑躅さんに会うことになるという極度の緊張により、頭がどうやらおかしくなってしまっていたようで、優奈の冗談に、気持ち悪い冗談で返してしまった。……うん、俺何やっているの⁉
幸か不幸か、俺には、自分の発言をすぐに振り返るという、よくわからない癖があるので、その場ですぐ、自分の仕出かしてしまったことに気づいたわけなのだが、その時にはもう、手遅れになってしまっていた。
「せ、先輩、どうしちゃったんですか?急にそんなことを言うようになっちゃって。……もしかして、頭がおかしくなっちゃったんですか?ていうかその発言、セクハラですよね?警察呼んでもいいですか?110番しちゃっても、大丈夫ですか⁉」
……。ん?急にどうしちゃったの?めちゃくちゃキャラ変わってない⁉なんか急に、キャラ変わっちゃってないですか⁉今までそんなキャラじゃなかったよね⁉ていうか『セクハラ』って何⁉いや、さすがに意味が分からないわけじゃないよ⁉あの発言のヤバさに、気づいていないわけでもないよ⁉でもだよ?でもさ、先にやってきたのは、優奈じゃないって言うかなんというか……。
「あの、優奈さん。耳に電話を当てて、何をしていらっしゃるのでしょうか?」
すご~く、すご~く気になる。……いや、さすがに電話をしている振りだとは思うんだけどね?
「いや、何って……。警察に電話をしようとしているだけですけど。何か問題がありますか?先輩が、セクハラをしてきたんですよ?」
いや、まあセクハラを、意図せずにしてしまったかもしれないけどさ……。
「いや、さすがにガチで警察に通報するのはやめてよ⁉俺、つかまっちゃうよ?いや、さすがにセクハラなんかでは捕まらないか。……でも、少なくとも事情聴取はされちゃうんだよ⁉下手したら、女性の権利を守るためのそういう機関に通報されちゃうかもしれないし。……そしたら俺、退学だからね⁉この大卒が当たり前とか言うヤバイ時代に、勉強できない人にとってきつい時代に、俺、中卒だからね⁉精神的にやんじゃってとかなら救いようがあるって言うか、、仕方がないと思うけれども俺、セクハラで高校やめるんだからね⁉人生終わりになっちゃうよ⁉」
さすがに、たった一つの冗談で、人生を終わらせられてしまうなんてことにはなりたくないので俺は、一生懸命抗議をした。言葉の限りを尽くして、俺が考えられる限りの言葉を尽くして抗議をした。すると、すると優奈は、笑顔を浮かべて、
「先輩、冗談ですよ?まさか先輩、本当に私がそんなことをするとでも思っていたんですか?もしそうなんだったとしたら、心外ですよ?し・ん・が・い‼……先輩が、いつもなら真面目に返してくる先輩が、いつもなら、ツッコミを入れてくる先輩が、ふざけてきたせっかくのチャンスなので、先輩をもっともっと、からかってあげようと思っただけなのに……。」
ふぅ。よかった。どうやら人生終わらずに済んだっぽいな。うん。いや~、本当に冗談で良かったよ。さっきの顔、めっちゃ真顔だったからね?『警察に電話しているだけですけど、何か問題ありますか?』って言ったとこ、めちゃくちゃ真顔だったからね⁉本気で、本気でビビったんだからね‼
そしてこの時、俺はあることを決断した。
これから先、優奈の冗談には、真面目に返そうと。
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