①ー① 学校なんて、行きたくない
「先輩、おっはようございま~す‼」
朝、自分の部屋でくつろいでいると、大声で、そんなことを言いながら、小さいころから仲のいい後輩、幼なじみの、
「優奈……。こんな朝っぱらから何しに来たんだよ?お前、今日は入学式なんだよな?こんなところで油売ってないで、さっさと学校行ったらどうだ?」
別に、優奈と話すことは嫌いではない。断じて、嫌いではないのだが、さすがに朝くらい、ゆっくりさせてほしい。いや、午前中くらい、ゆっくりさせてほしい。午後になったら、いろいろ頑張るからさ。ね?お願い。俺はそう、神様と、優奈に心の中でお願いをした。
……しかし、どうやら、この俺の願いは、神様には届かなかったようで、
「先輩こそ、何をやっているんですか⁉今日、先輩も学校ありますよね⁉何なら私の入学式って、先輩も出なきゃいけないはずですよね⁉先輩、大切な後輩の、幼馴染の女の子の入学式なんですよ⁉︎ベッドなんかでごろごろしてないで、さっさと学校行きましょうよ⁉」
と、そんなことを優奈は言ってきた。
「なあ優奈、学校って……なんだ?」
俺は優奈に向かって、諭すようにそう言った。
「……。先輩、急にどうしちゃったんですか?学校は、学校ですよ‼先輩の通っている、
ちなみに、今更過ぎる話だが、優奈はいつからか、俺のことを先輩と呼ぶようになった。……昔は、『ひろ』なんて、可愛い声で呼んでくれていたのに。
「優奈、残念ながら俺、もう学校には行かないことにしたんだ。……あんな地獄みたいな場所、もう行きたくない。」
学校、それは人間関係を学ぶ場所だとか、勉強をする場所だとか、そんなことを言う人がいるが、俺はそうは思わない。あんなもの、牢屋と、刑務所と変わらない。やりたくもない作業(嫌いな教科の授業)をやらされ、失敗すると罰を与えられ(再テストや、解きなおし)……こんなのもう、刑務所と変わらないじゃないか。うん。
「先輩、急にどうしちゃったんですか⁉ついこのあいだまでは、好きな人ができたとか言って喜んでいたのに……。(まあ、私はすっごく悲しかったですけど。)」
……。
「好きな人に振られたんだよ。告白したら。」
そう言って俺は、学校に行きたくない理由、母さんにすら言わなかった本当の理由を話す。
「え⁉(やった~‼こ、これで私にも、チャンスが‼)」
さっきから、なんか小さい声で優奈が何か言っている気がするんだけど、何て言っているんだろう。
「先月、俺の誕生日に、大好きだった人に、ずっとずっと……まあ、高校入ってからだから、まだ一年くらいしかたってないけど、ずっと大好きだった人、告白したんだよ。」
今年の誕生日、俺は朝から、いいことが全く起きなかった。ベッドから落ちて起き、階段から転げ落ち、登校中はイヌのフンを踏み、学校で、手を挙げて自信満々に答えていたら、『-』をつけ忘れて間違い、クラスメイトに笑われ……。そんなひどい一日だったからこそ、最後に何か、いいことが起きるだろう。そう思って告白をした。大好きだった女の子の友達に、学校一可愛いといわれている俺の初恋相手に告白をした。自分の気持ちを全部、言葉にして伝えた。いや、伝えきれなかった、なんとも残念なことに、俺の好きっていう気持ちを、全て言語化することができなかった。いや、出来るはずもなかった。だって、それだけ想いが強かったから。……でも、それでもできる限りの想いを伝えた。その結果、相手から帰ってきた言葉は、『ごめんなさい』だった。
できる限り簡潔に、優奈にそのことを説明した。そうすれば、優奈は俺が学校に行きたくないことを分かってくれるだろうと、そうすれば俺を学校に連れて行くことなんかしないだろうとそう思っていた。……でも、実際の行動は違った。
「先輩、星の数ほど女の子なんています。可愛い女の子も、優しい女の子も。きっと、世界に一人くらいは……ううん、世界に一人以上は、先輩のことを好きな人はいますよ。だって一人、私っていう、広葵先輩のこと、大好きな女の子がいるんですから。」
なんて、顔を赤く染めながら、そんなことを言ってきた。……そして、次の瞬間、
「よし、先輩、学校に行きますよ‼」
いや、最後の、すっごく強引だな⁉
……でも、ありがとう、優奈。俺のこと、励まそうとしてくれて。そうだよね。一回振られても、何度も、何度も告白すればいいじゃん。ほら、失敗は成功の基っていうし。まあ、優奈の伝えたかったことはそう言う事じゃないだろうけど……というか、絶対に違うけど、優奈のおかげで、そう思えるようになってきた。本当に、本当にありがとう。やっぱり、友達って、こういう時、励ましてくれる友達って、辛いとき、笑わせてくれる友達って、大事だね。
……あれ?何か忘れているような。……あ⁉
「ちょっと待って、優奈‼俺、まだ制服に着替えていない‼」
俺がそう言うと、
「え~、先輩、何やっているんですか~。さっさと着替えてくださいよ~。……あ、何なら私が、手伝ってあげましょうか?ほら、先輩、ばんざ~い。」
「着替えくらい、一人でやるよ‼」
こうして、いつも通りの朝が、何年間もずっと、変わらなかった光景が、一年ぶりに、優奈の高校入学をきっかけに、戻ってきたのだった。
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