第25話 ゼノビアの勧誘術

「とっとと帰んな!」


 アメリカ西部開拓時代に活躍した女ガンマン。カラミティ・ジェーンはウエスタンラリアットで同時に二人の男を叩き飛ばす。


 男達は酒場の羽扉を突きぬけて外へ放り出される。


 残る男達は銃で撃たれた腹を抑え、必死に逃げて行った。


「けっ、おととい来やがれってんだ! べーだ!」


 大きくあっかんべーをして、カラミティは両手の拳銃を腰のホルスターに戻す。


「貴方、ケガはない?」


 極端に胸の大きい、超乳の女性は頷く。


「助かった。いつもならあの程度の雑魚、私の槍で一払いなのだが……あまり多くの男に近寄られると怖くなってしまう」


 女性は大人びた、そしてブリュンヒルデにも似た騎士のような気品を持つ美女だった。


 けれど素直にお礼を言ってゼノビアとカラミティに軽く頭を下げる親しみやすさがある。決して、近寄りがたい女性というわけではない。


「貴方、名前は?」

「チュウ・アウだ。これでもベトナムではかなり名を馳せた英雄なのだが……お二人は西洋の方だろう? 聞いたことがないかもな」


 最後、アウはやや恥じいるようにそう言った。


「いえ、この世界に来て、名前だけは知っていますわ。英霊超乳ランキングでマリーアントワネットと並んで一位ですもの」

「あうぅ」


 凛とした表情が崩れる。

 若干頬を染めて、両手で超乳を抱き隠す。

 もっとも、それでも全体の二割程度しか隠せていないわけだが……


「ところで貴女、フリーですの?」

「え? ええ、まぁ。ベルセルクは何度か経験があるが、やはり私は自分が納得のいく仲間や主君に仕えたい」

「なるほど、そうですの。では、ワタクシは現シリアの、パルミラ王国女王ゼノビア、こちらはアメリカのガンマン、カラミティ・ジェーンですわ。またどこかで御縁があれば」


 そう言って、ゼノビアは早々にテーブルに戻ってきた。


「おいゼノビア、あいつ誘わなくていいのか? チュウ・アウって確かベトナム最強の女将軍だろ? あいつがいたほうが」

「そうよ、ていうか今からあたしが」

「お待ちになって」


 ゼノビアはエイルの腕をつかんで、座らせる。


「今、アウはワタクシに助けられて恩義を感じています」

「助けたのはあたしだけどな」


 カラミティを無視して、


「そこへ仲間になるよう要求すれば、彼女は断りにくいでしょう。それでは恩を売り、仲間にする為に助けたとは思われます、それが心外です。下手をすれば、あのローマ野郎達の行動しだいではワタクシと彼らがグルで、最初からそれを狙ってアウを襲った、などと誤解を生む可能性もありますわ。トラブルは避けるべきです」


 ゼノビアの主張に、エイルは黙ってしまった。それどころか、ぽかん、とした顔で聞きいる。


「ワタクシとアウに縁があるならばまたの機会があるはずですわ。その時、ワタクシ達が困っていたら助けてもらう、それで良いではありませんか? 無理にこの場で誘う事はありません。それに」


 ゼノビアの視線が、お会計を済ませて外へ出るアウに向けられた。


「テーブルの様子を見る限り、彼女は既に食事を終えています。これから食事をするワタクシ達と一緒に食事をして親交を深めるのは彼女を引きとめる事になります。だからテーブルを一緒にすることもなく、すんなり身をひいたのです」


 詰まる事無く、スラスラと答えるゼノビアに、直隆は感心してしまう。


「お前あの一瞬でそこまで考えたのかよ?」

「ふっ、ワタクシを誰だと思っていますの?」


 澄まし顔のセクシーな唇に指を添え、ゼノビアは語る。


「ワタクシはかの地中海全土を支配したローマ帝国東部を一代で切り取り、パルミラ王国を築き上げた女王ゼノビア。その程度ができなくてどうします?」

「はは、だな」


 痛快に笑う直隆。

 エイルはゼノビアの言葉を聞きながら、先程のカラミティの拳銃さばきを思い出す。そしてここには鉄腕ゲッツを瞬殺した直隆がいる。

 エイルは、もしかしなくても自分はかなり強力なギルドチームを作ったのでは? と期待した。

   

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