第11話 決闘当日

 ヴァルバト当日。


 直隆とエイルが出会った次の日の午前、エイルとアイル、直隆とジュウイチは約束通り第七アリーナの外にある広場にいた。


 芝生で埋め尽くされた広場に集まる野次馬を見て、エイルが渋い顔をする。


「どうしたエイル?」

「あいつら、全員あたしのアカデミー時代の同期よ。きっとスイレー達が呼んだんだわ」


 スイレー達五人はエイル達と対峙する形で並び、そのうちの一人が前に進み出る。


「良く逃げなかったわねエイル。逃げれば恥かかずに済んだのに、バカな奴」

「そんな軽口がいつまで叩けるかしらね。ギルドマスターの力量はベルセルクを用意する早さでも数でもない。質がものを言うのよ。言ったでしょ? 能ある鷹は爪を隠す。今までは三流のあんたを気づかってあげてたけど、今日という今日はそうはいかないわ!」


 相手の女子の顔が、みるみるひきつっていく。


「なんですってー! 雑魚エイルの分際でぇ! ゲッツ!」

「おうよ!」


 昨日喫茶店にいた、右手にだけガントレットをつけた、ガラの悪そうな白人男性が前に進み出る。


「サモン!」


 ゲッツが召喚の呪文を唱えると、ゲッツの全身が光りの粒子に覆われた。

 光の粒子は一瞬で甲冑と剣、盾の形と質量を持ってゲッツを完全武装させた。


「オレ様はドイツの騎士、ゲッツ・フォン・ベルリヒンゲン。通称鉄腕ゲッツ様だ!」


 偉そうに胸を張り、自信たっぷりに剣を握った右手を震わせた。


「アイル、あいつなんで鉄腕なんだ? 鉄腕アトム?」

「うんとね、確か戦争で右手を失った後は鋼の義手をつけてたからなんだって」

「あいつの右手動いているぞ?」

「英霊は全盛期の肉体になるから、右腕を失う前の体で英霊になったみたい。ジュウイチだって死んだ時おじいちゃんだったけどピチピチじゃない♪」

「あー、それで鉄腕じゃなくなっちゃったから右手だけガントレットして鉄腕感だしてたのか。涙ぐましい努力だな」

「そうだね♪」


 直隆が、


「おいジュウイチ、突っ込んでやるなよ。あれで本人気にしてたらどうするんだよ」


 エイルが、


「えー、でもさぁ、異名が鉄腕ゲッツのなのに鉄腕じゃないとなんかコレジャナイ感しない? 広告詐欺よね? あたしでもつっこむわ」


 真顔のまま一本、また一本と青筋の浮かぶゲッツ。

 ジュウイチは悪びれもせず、


「ところでダンディー坂野」

「鉄腕ゲッツ様だ!」


 激昂するゲッツ、それでもジュウイチは無視する。


「はいはい、じゃあ俺らは手ぇ出さないから好きにやってくれ、行こうぜアイル」


 ジュウイチとアイルはその場から離れ、野次馬達のそばまで下がる。


「よし! さぁ行きなさい直隆! ご主人様であるあたしの為に勝ちなさい!」


 エイルは偉そうにゲッツを指差して、直隆はちょっとかけだるそうに足を進めた。


「はいよっと。サモン」


 直隆の全身が光りの粒子に覆われて、赤い戦国甲冑に覆われる。


 騎士VS武士。

 剣VS刀。


 を想像していた周囲の野次馬は、だが次の瞬間裏切られる。

 直隆の手に集まる光の粒子が妙に多いのだ。


 まるで槍、いや、それ以上の太さだ。


「まさか……」


 エイルが息を吞む。


 質量と実体を伴ったソレは、身の丈ほどもある大刀だった。


 柄頭から鍔までが五〇センチ。刀身だけで実に一二五センチ。


 直径一七五センチの長刀、否、刀身の幅も並の倍はある、まるで空想世界だけの産物、グレードソードと呼ぶべき大刀である。


「なな、貴様なんなんだそれは!?」


 驚愕の声を上げるゲッツに、直隆は不思議そうに首を傾げる。


「へ? 何って俺の太郎太刀だけど。よっと」


 直隆は刀の峰を肩に乗せてから、両手で握り込み正眼に構える。


「それじゃ、久しぶりにやるか」


 長さなら槍のほうが上だが、槍は殺傷力を持つ穂先が短い。

 あまりに長大過ぎる刀身部分を突きつけられて、ゲッツは一瞬のまれそうになる。


「そそ、そんなハッタリが効くオレ様じゃねぇんだよ東洋人! 行くぜ!」

「こいよ南蛮人。俺様が引導渡してやるぜ! 真柄家随一の猛将、真柄直隆! 参る!」

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