第3話 どうせ所属英霊いないんでしょ?
「あら何言ってるの?」
女子の一人が、近くの席に座っていた自身のベルセルクであろう英霊の手を取とり、自身の豊満な胸を触らせる。
英霊の指が大きく実った双乳に埋まり、英霊は機嫌よく胸を揉みはじめる。
「あたし達ヴァルキリーのお仕事は地上から英霊を連れて来て接待してヴァルハラ景気を回す手伝いをしてもらうこと。この程度は当然よ」
男の手の中で形を変える胸を見て、エイルは目を見開きながら震えた。
また別の女子が、
「今やヴァルバト興行は天界最大の巨大マーケット。このヴァルハラを中心に天界中の景気はうなぎのぼりで世界中の神仏精霊様が客や興行関係者として関わっているわ」
「そしてそのヴァルバト運営に欠かせない英霊を管理しギルドを運営するのがあたし達ヴァルキリーなの。わかる?」
女子達の中心人物であるスイレーが鼻で笑う。
「いい加減ギルドマスターなんて引退すれば? て言ってもあんたは勧誘も接待もできないし、ロートルさん達と一緒に働くしかないんじゃない? ねぇマスター、こいつ、この店の掃除婦にでもしてあげてよ」
また、女子達は笑い転げた。
エイルはくやしくて、でも言い返せなくて、悲しくて、衝動的に立ち上がり啖呵を切ってしまう。
「勝負よスイレー!」
手元にヴァルキリーの槍を召喚。握り込み、スイレーにその切っ先を向ける。
「あんたも戦乙女ヴァルキリーなら、喧嘩売った責任は持ちなさいよね!」
普通なら、ここでスイレー達が自身にたっぷりに挑戦を受けるところだろう。
だが、
「あははははっ。ベルセルクも持っていない奴がなーに言っちゃってんのよ!」
「うっ……」
ハッと思いだしたようにして、エイルはバツの悪い顔をした。
スイレーは得意げに両手を腰に当てる。
「ギルドマスター同士のもめごとはヴァルバトで決める。それがヴァルハラのルールよ」
五人の近くの席から立ち上がった騎士や武士が、それぞれのギルドマスターの隣に立つ。
「専属英霊であるベルセルクを持ってないあんたじゃ、勝負もできないわね」
「負けるよりかっこわるーい」
「ていうかベルセルクがいないって、それギルドマスターなの?」
また五人のヴァルキリー女子に笑われて、とうとうエイルは言ってしまった。
「い、いるわよベルセルク! あたしだっていつまでもゼロ野郎じゃないんだから!」
「へぇ、でも」
スイレーが指を鳴らす。空間にウィンドウ画面が浮かび上がる。
すぐさま画面を指でタッチしたりこすったりして、ヴァルハラのメインサーバーにアクセス。ギルド情報からエイルの名前を選択して、ベルセルク名簿を見た。
「登録選手ゼロなんだけど」
「ひひ、非公開なのよ。あたしの隠し玉なんだから、情報をバラまくような事はしないわ」
スイレーはアゴに手を添え感心する。
「隠し玉、よっぽど凄い英霊をベルセルクにしたのね」
「とかなんとか言って、本当は偉人でもなんでもない、ただそれなりに強かっただけのEランク英霊なんじゃないの?」
「英霊って言っても、みんながみんな歴史に名を残した人じゃないもんね」
「ていうか九割は名もなき猛者Aだし」
「そそ、そんなことないわよ!」
本当Eランク英霊すらベルセルクにできていない。
「まぁいいわ。じゃあとにかくそいつ呼んでよ。一般公開しないのは戦術の一つだけど、勝負する私達には見せて当然でしょ? 貴女から勝負をしかけたのだから、早く見せなさいよ」
「まさか、連れてきてないなんて言わないでしょうね?」
「ていうかどうせ苦し紛れの嘘でしょ? 役立たずの上に嘘つきなんて本当にどうしようもないわね」
ここはぐっとこらえて、嘘だと認めて謝るか、今は家にいると嘘をつけばいいのに、でもやっぱりエイルは、
「ば、バカにしないで! いるわよちゃんと!」
と、言ってしまう。
言ってしまってから、しまった、と自分の愚かさに嫌気が差す。
「じゃあ早く呼んでよ」
「え、えーっと」
スイレーに急かされて、エイルは必死に喫茶店の中を見回す。
でもいるのはヴァルキリーと一緒の英霊と、ギルドマスターではない、引退ヴァルキリー達ばかりだ。
とてでもではないがこの場を誤魔化す起死回生のモノはない。
「!?」
いや、あった。
カウンターの奥で、ヴァルキリーと一緒では無い、一人で蜂蜜酒を吞んでいる男がいる。
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