第2話 ギルドマスター失格
「マスターもう一杯!」
その夜、エイルは喫茶店で蜂蜜酒をあおり、空のジョッキをカウンターに叩きつける。
ギルドマスターを引退して、喫茶店のマスターをやっているヴァルキリーの女性がジョッキに蜂蜜酒を注いでいく。
ヴァルハラでは蜂蜜酒とイノシシの肉は無料だ、飲み放題食べ放題だ。
ちょっと視線を左に回せば、お店の壁には空間投影魔術によるテレビ番組が流れている。内容は当然。
『はーい、それではヴァルハラバトル、通称ヴァルバト始まるよー♪ 前回のバトル方式はタイマン張るだけのデュエルだったけど今日はハンティング。お姉さんハンティング大好きー♪』
『今回参加するギルドは全部で九つ。制限時間内に森のマンティコアをより多く殺したギルドの勝ちだよ♪』
店の中はどのテーブルにもヴァルキリーが座り、同じテーブルの席を専属英霊であるベルセルクが腰を下ろしている。
ヴァルキリーもベルセルクもジョッキを片手にテレビに夢中だ。
隣にベルセルクがいないヴァルキリーはエイル以外にもちらほらいるが、彼女達はギルドマスターではなく、役人や警備員、そして商店などで働くヴァルキリーだろう。
ギルドマスターなのにベルセルクがいないなんて恥ずかしいヴァルキリーはエイルぐらいのものだ。
エイルは腹の中で愚痴る。
――何よ何よ英霊なんて。あたしは主神オーディン様に仕えるヴァルキリーなのよ。人間より偉いんだからね。なのにどいつもこいつもあたしの誘いを断って、あームカつくー!
「あれ? もしかしてエイルじゃない?」
びくっと肩が跳ね上がってしまう。
いやーな予感をしながらおそるおそる振り返ると、
「やっぱりエイルじゃない」
五人の見知った顔のヴァルキリーが立っていた。勿論全員女子である。
「げっ、スイレー」
真ん中の女子、スイレーが偉そうに大きな胸を張って、他の女子達もエイルをやや見下した感じだ。
女子達は口々に言う。
「聞いたわよ。あんたまだベルセルク数ゼロなんですって?」
「それってギルドマスターって言えるのかしら?」
「笑っちゃうわよねぇ」
「ほんと、アカデミー時代からエイルはヴァカキリーよね」
エイルが顔を真っ赤にして両目を吊り上げるが、女子達は楽しげに笑う。
「あんたあたし達ヴァルキリーの仕事解ってる?」
「教えてあげるわ、地上で死んだ英雄の勧誘。ヴァルハラに来た英霊の歓待。ギルドマスターとしてベルセルクを管理してヴァルバト興行運営に参加する事」
「な・の・に」
女子達は歌う様にして妙なテンポを付け始めた。
「エイルってば地上での英雄勧誘数ゼロだしー♪」
「英霊のメイドすればトラブルばかり起こすし~♪」
「ギルドマスターになったのにベルセルクはゼロだもんねぇ♪」
「ヴァルキリーのはっじしっらずっ♪」
女子達は吹きだしたように笑い始める。
他の客は、同調こそしないが誰もエイルの弁護はしない。
無理も無い。
ベルセルクのいないギルドマスターなんて、所属タレントがいないのにタレント事務所所長を名乗っているようなものだ。
周囲の客も口元で笑ったり、良くても『否定できないよなぁ』という顔で視線を逸らす。
「しょ、しょうがないじゃない! だいいちいまどき地上での英雄の勧誘なんて無理よ! 今の人間なんて兵器にばっか頼ってみんな弱っちぃし」
「あれ? あんたの姉さん先週、地上から一人連れて来たじゃない」
「っっ、そ、それにあたしは神にお仕えするヴァルキリーなのよ! なのにあたしの誘いを断ってベルセルクにならないボンクラなんていらないし! それになんで人間なんかを接待してやんなきゃなんないのよ! お酒ついでやってたらお、お尻さわろうとしてきたり最低よ!」
「あら何言ってるの?」
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【電撃文庫】から【僕らは英雄になれるのだろうか】昨日発売です。
カクヨムで試しい読みを20話分読めます。
また、アニメイトで購入すると4Pリーフレットが
とメロンブックスで購入するとSSリーフレットがもらえます。
電撃オンラインにインタビューを載せてもらいました。
https://dengekionline.com/articles/127533/
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