2. 2番目ぐらいが?(2)

 放課後、運よく朝凪さんの予定が空いていたので、今日の告白を盗み聞きしてしまったことについて、朝凪さんに謝ることにした。

「ああ、なんだそんなこと?」

 嫌な顔をされると思ったが、特に気にしていないというふうに、グラスに入れたコーラをぐいっと飲み干し、用意したポテチをパリパリとつまんでいる。

「怒ったりしないの?」

「まあ、特には。それに後をつけたんじゃなくて、ただ偶然居合わせただけでしょ? なら、むしろこっちのほうが気を遣わせて悪かったねって感じ」

「朝凪さんがそう言うなら、まあ、よかったけど」

「うん。私は別に聞かれて不味まずいことはないし。相手のこともあるから、多少こそこそはさせてもらったけど。とかそういうの大好きだし」

「新奈……新田さんだっけ?」

「あ、うん。色々顔が広いから、そのおかげで私とか夕も助かってるんだけどね」

 天海さんや新田さんとそこで鉢合わせたことについては、約束どおり伏せておくことに。とにかく、どうするかは彼女たちの判断に委ねる。

 ただ、朝凪さんのことだから、なんとなく天海さんや新田さんがちょろちょろしてるのも気づいていそうではあるが。

「……あのさ、一ついていい?」

「ん? なに?」

「朝凪さんって、わりとその……モテたりするの?」

「ん~、ほどほど? って感じ。夕ほどじゃないよ」

 半年たずに五人は俺の感覚では『ほどほど』じゃないが……しかし、それは本来俺が知り得ない情報なので突っ込まないが。

「なに、前原羨ましいの?」

「いや、全然。……ってか、そういうの、逆に面倒かなって」

「面倒、か。なんで?」

「なんでって言われても……な、なんとなく?」

 返答に困る。

 なにせ、今まで『友達になって』とすら同性のクラスメイトに言えないぐらい筋金入りの俺なのだ。そんな人間が、恋だの愛だのについてしたり顔で語っていいものか。

「それじゃダメ。ほら、想像でいいからさ。前原の話、私に聞かせて欲しいな?」

「う……」

 朝凪さんにそう迫られると、どうにも断ることができない。

 それに、天海さんのことなど、後ろめたいこともあるし。

「じゃあ、笑わないなら」

「大丈夫だって。ほれほれ」

 まあ、もし笑われたとしても、朝凪さんならいいだろう。そういうのにはもう慣れている。

「えと……そういうの、俺には想像も及ばない世界だけど……モテるっていうことは、色んな人からそういう目で見られるってことでしょ? もっと仲良くなりたいとか、他の人とは違う特別な関係になりたいとか」

「まあ、そうだね」

 好意を向けられるのは、それだけ人と違う魅力を持っているということの証拠だから、それはもちろん悪いことではない。少なくとも、悪意なんかよりはよっぽどマシだ。

 だが、好意を受けたからといって、それが自分にとって必ずしもいいものとは限らない。

 そのいい例が、今日、朝凪さんに告白した男子生徒である。

「色んな人がいるってことは、自分にとって何の興味もない人とか、下手すれば内心嫌ってる人とかもいるわけで……そういう人たちにもちゃんと対応しなきゃいけないっていうのは、俺からしてみればやっぱり面倒っていうか。好きでもなんでもないのに、なんでこんなに疲れなきゃいけないのって思う」

 あの時の朝凪さんが言葉を濁したように、告白の返事というのは気を遣うものだと思う。中にはきっぱりと拒絶する人もいるだろうが、それはそれで余計な恨みを買ってしまう可能性もあるわけで。

 人の好きや嫌いという感情は、とても厄介だ。

「そう考えると、逆に俺はモテなくても別にいいのかなって。一人ぼっちなのもそれなりにつらいけど、でも、余計なことに気を回す必要はないし」

「……それ、なかなか寂しい考え方だね」

「それはわかってる。まあ、だからこそ今までこんな状態だったわけだし」

 この考えを少しでも変えていく努力をしない限り、俺はずっとこのままなのだろう。

「……とまあ、こんな感じの話だけど」

「なるほどね。前原の考えはわかったけど、それはさすがにちょっとこじらせすぎだと思う」

「うぐ」

 痛い指摘だが、全て正しいので言い返しようがない。

「……まあ、前原のそういうとこ、私は好きだけど。あ、もちろん『友達』としてね? そこんとこ勘違いしちゃダメだよ?」

「わかってるよ。俺も朝凪さんのことは嫌いじゃないけど、それはあくまで『友達』としてだし。そっちこそ勘違いするなよな」

「お? 私がいなきゃ寂しいくせに生意気な口利いちゃって」

「なに? やるの? 言っとくけど、今日は『待った』とかなしだから。十戦でも百戦でも、とことんハチの巣だから」

「望むところよ。そっちこそ、私の神エイムに震えて眠れ」

「コツを教えた師匠に対して良く言うよ」

 恋バナはそこで打ち切って、俺と朝凪さんはいつものようにテレビの画面へ向かう。

 人付き合いをようやく始めたばかりのお子様の俺には、まだまだ、こちらのほうが性に合っているような気がする。

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