第66話 救出作戦開始

「あなたがカゲさんですね。そんなに緊張しなくても、僕にあなたを害する考えはないから安心して」

フェレスさんから話を聞いた後、二重スパイとなったというカゲという人物を呼んでもらい話をする。


「寛大なお心に感謝致します」

カゲさんは片膝をつき頭を下げたまま返事をする。


「まず、あなたを縛っている鎖を解きます。フェレスさん、構いませんね?」


「はい」

フェレスさんが懐から黒い球を取り出して握り潰す。


これはこの人を信用したということではなく、隷属という行為自体に僕が嫌悪感を抱いているからだ。

隷属されたままでは、やり直すチャンスまで奪うことになる。


「……感謝致します」

カゲさんが更に深く頭を下げ礼を言う。


「これであなたは自由になりました。その上であなたに選択肢を与えます。一つは僕の配下として働くこと。もう一つはここから黙って去ることです。当然次出会った時、あなたが敵対関係にあれば容赦はしませんが、どちらを選んでも、僕に仇なす行為をしなければ悪いようにはしないと約束します。自由の身としたのは、隷属されて行った結果だとしても、あなたが王国から持ち帰った情報への対価だと思ってください」


「慈悲深きマ王様に忠誠を誓います」

カゲさんが顔を上げて返事をする。


「良い返事を聞けてよかったよ。それじゃあ最初の仕事だけど、二重スパイをこのまま続けてもらいたい。ただし、自身の身が危険だと感じたら任務を放棄して逃げても構わない。失敗を責めはしないけど、さっきも言った通り向こうに付くならそれなりの覚悟をして欲しい」


「重々承知しております」


「カゲさんにはこの後王国に戻り、聖女をこの国の偵察に出させるようにしてもらいたい。国王はこちらの手中にある。聖女が隷属されていると勘違いしているのであれば、他の貴族を説得することも可能だと思う。これが作戦の内容だから、確認して何かあれば遠慮なく言って欲しい」

カゲさんにフェレスさんが主に考えた作戦書を渡す。


「必ずやご期待に添えてみせます」


「頼んだよ」


カゲさんはスッと消えるように研究室から出ていく。


「さて、フェレスさんにもやってもらいたいことがあるんだ。研究が遅れるかもしれないけど、裏切りを許した対価として働いてもらえるかな?」


「もちろんやらせていただきます。それで、何を致せば宜しいでしょうか?」


「ユメのスキルで王国の城を映し出した時、親友の明人の姿が見当たらなかったんだ。ユメのスキルは連続で使えないからどこにいるのかわからないんだけど、ユメのスキルが使えるようになってからでもいいから、探して迎えに行ってきてもらえるかな?」


「やらせていただきます」


「よろしくね」



数日後、ユメの力で明人がどこにいるのか判明し、フェレスさんが国を出た後、一度は敵対した帝国の重鎮が訪ねてきた。


「この度は貴重なお時間をお取り頂き感謝致します」

帝国の魔導部隊統括であり、フェレスさんの師匠であるネフィルムさんが王の間で片膝をつく。

ネフィルムさんは以前に比べて痩せこけている。


「帝国との協定に関しては双方の納得のいく形で話し合いが進んでいると聞いておりますが、本日はどのような用件ですか?」

ルマンダさんが僕の代わりにネフィルムさんに用件を聞く。

ルマンダさんからこちらに有利ではあるけど、反感を買いすぎない程度に帝国にも利がある協定を結ぶ流れだとは聞いてはいる。


まだ正式に協定は結ばれてはいないけど、今は細かいところを精査している段階で、大まかに内容は固まったそうだ。

つまり、協定の話を無かったことにするならこれが最後のタイミングになる。

協定を結ぶ前でも後でもルシフェル国との関係が悪くなるのは変わらないけど、協定を結んだ後に破棄したとなれば、他の国からも反感を買うことになる。


「帝国の使者として参ったわけではありません。私個人としてお願いがあり参りました」


「それは皇帝も知っていることですか?」

僕はネフィルムさんに尋ねる。

ネフィルムさん個人のことだとしても、魔導部隊統括であるネフィルムさんが独断で他国の王に会いにきているのなら、内容も聞かずに追い返した方がいいかもしれない。

トラブルの種になりかねないから。


「皇帝陛下には話をしております」


「それであれば話を聞くのは構いません。但し、今回謁見が叶っているのは帝国の使者としてあなたが来たと考えたからです。私的な内容であれば正規の手続きを

してください」


本来、使者であろうと急に来て他国の王に会えるわけではない。

魔導部隊統括という帝国の中でも中心人物がわざわざ使者として訪れたから時間を空けたに過ぎない。


「ネフィルム殿が使者だと明言していなくとも、ご自身の立場をよく考えて行動をお願いします。場合によっては剣を交えることにもなりかねませんので」

ルマンダさんが付け加え、ネフィルムさんを退出させる。



「では、ネフィルム殿の対応を決めましょうか」

会議室に移動して、ルマンダさん進行の元話し合いを始める。


「話というのは無くなった魔力のことだろうけど、使者ではなかったね」

謁見を行う前にルマンダさんから、ネフィルムさんが使者としての役目も担っている可能性があると聞いていた。

ネフィルムさんが来た理由は魔力の件だとも言っていたけど。


「立場のあるお方が帝都を離れるわけですので、それなりの用件を皇帝から預かっている可能性も考えられましたが、杞憂だったようです。魔力を元に戻して欲しいという話で間違いないと思いますが、他の件だった場合には内容を考慮して再度今のように時間を取ればよろしいかと」

ルマンダさんが答える。

先程、王の間からネフィルムさんを退出させたのもルマンダさんが前もって決めていたことだ。


「ネフィルムさんにとって魔力は生き甲斐そのものらしいから、相応の魔力を与えてあげるのは構わないと思っているけど、タダで返すのは勿体無いね。ネフィルムさんの魔力が戻ることを皇帝が願っているというなら、帝国に対して対価を求めることが出来たけど、ネフィルムさん個人だと何がいいかな?フェレスさんの師匠ということは魔法の知識が豊富だろうから、そのあたりで何か頼むのがいいかな」


「私もそれがよろしいかと思います。何を対価として頂くのが利が大きいか、まずは案を出していきましょう」

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