第62話 魔王
城に戻ってきた翌日、僕はクラスメイトが来るのを待っている。
王の間で王座に座って会うわけだけど、クラスの友達に会うのだからそんな大袈裟ではなく、僕の部屋に通してくれればいいのにと思う。
立場というものがあるので仕方がないらしい。
遣いに出した者が予定の人物を連れて戻ったとの報告を受けて、僕は王の間へと入り王座に座る。
僕が座ったところで、扉が開き男が1人入ってくる。
「お初にお目にかかります。私はヴォルグといいます。本日は貴重な時間を頂き感謝致します。このような場には慣れておりませんので、ご不快な思いをさせてしまうかもしれません。先に謝らせて頂きます」
……誰?
「ルマンダさん、ちょっと……」
僕は隣に控えているルマンダさんを呼ぶ。
「この人が昨日言ってた人で間違いないの?」
「はい。残念ながらご友人ではなかったようですね」
確かに昨日友人かもとルマンダさんは言っていただけだ。
「そうだね。知らない人だ」
「お帰りいただきますか?」
「いや、話はするよ。こちらが勝手に勘違いしただけだからね」
呼んでしまったからには話を聞くしかない。
僕の会いたい人ではなかっただけで、僕に用があるようだし……。
「待たせて悪かったね。僕に用があるってことだけど、用件を聞いてもいいかな」
僕はヴォルグと名乗った男に用件を聞く。
「私の代わりに世界をお救い頂けませんでしょうか?」
「話が読めないんだけど、どういうこと?ヴォルグさんが異世界人だっていうのは聞いているけど、初めから説明してもらえるかな?」
「失礼しました。元々私はカラミテという世界のグルガという国に暮らしていました。先日、目を覚ますとこの世界に来ており、異世界の勇者から世界を救って欲しいと言われました。しかし私には、噂に聞く勇者を相手に出来るほどの力は持ち合わせておりません。ですから、武力で王となられたマ王様に代わっていただけないかお願いにまいりました」
地球とはまた違う所からこの世界に連れてこられた人らしい。
「勇者から世界を救ってほしいって言われたんだよね?誰に言われたの?」
「魔国の王……いえ、代理だそうなので、王代理にです。私は魔国で目を覚ましました。そこで世界を救うように言われました」
勇者に対抗すべく魔国にヴォルグさんは召喚されたってことだよね?
そんな大事な時に魔国の王様は不在だったのかな?
「勇者に対抗すべく連れてこられたなら、それだけの力がヴォルグさんにあるってことじゃないの?」
「もちろん力には覚えはあります。しかし噂に聞く勇者達の力は異常です。力で悪魔を従えていた私にも出来ないことはあります」
「悪魔を従えていたの?」
「僭越ながら、元の世界では魔王をやらせて頂いていました。魔王はその時代で最も力のある悪魔が務めます。カラミテでは私に触れることが出来る者はいないと自負していましたが、この世界では違うようです」
ヴォルグさんは異世界の悪魔で魔王らしい。
「ということは、ヴォルグさんは悪魔なの?」
見た目は普通の若い人にしか見えないけど……、もしかして人の姿に化けてるだけなのかな?
「そうです」
「ヴォルグさんは勇者に対抗すべく魔国に召喚されたってことでいいんだよね?」
「違います。魔国で聞いた話では、勇者と魔王は一対のようです。王国が禁忌を犯して勇者を召喚したから、私もこの世界に連れてこられたのではないかと言っていました」
王国は僕達と一緒にヴォルグさんを魔国に召喚していたらしい。
魔国に召喚されたのは、王国が魔族と争う為に僕達を召喚したからかな……。
「ルマンダさん、そういった話は聞いたことある?」
「いえ、私はありません」
「フェレスさんは?」
「ないです」
なら仕方ないか。魔王が存在するならマ王なんて名乗りたくはなかったけど、あの時に誰も知らなかったなら仕方ない。
「マ王様、どうなされますか?」
ルマンダさんに聞かれる。
「ヴォルグさんは巻き込まれただけだよね?なんでこの世界を救おうとしてるんですか?」
「世界を救えば元の世界に帰れるからです」
「そうなんですか?」
「魔国で召喚の禁術について書かれている書物を見させてもらいました。勇者召喚により召喚された者は、役目を終えた時に元の世界に帰れると書いてあった。今回であれば、世界を滅ぼすであろう勇者から世界を救えば帰れるのではないかと解釈した」
「勇者は魔族と戦う為に召喚されたって聞きましたよ?魔族が王国を攻めてくるからって」
「魔国が王国を攻める理由なんてないだろう。王国の人間が魔国の領土を得ようとしているだけではないだろうか」
王国が言ってることも嘘っぽかったから、こっちが本当なんだろう。
「わかりました。先に言っておかなければならないことがあります。ここでは話せませんので、場所を変えましょう」
「マ王様、よろしいのですか?」
ルマンダさんに聞かれる。
「この人に頼まれなくてもやることだからね。というわけで、部屋を移すよ」
「かしこまりました。しかし、マ王様にお手間を掛けさせる必要はありません。皆の者、この場から退出しろ。護衛は必要ない」
ルマンダさんが王の間にいた兵士達等を出て行かせる。
ルマンダさんとフェレスさんとシトリーを残して全員出て行く。
「フェレスさんも研究に戻っていいよ」
「いえ、異世界の魔王とは興味深いのでお付き合いいたします」
研究に戻りたいかなって思ったけど、フェレスさんが残りたいならいっか。
「それでヴォルグさんに言っておかないといけないことっていうのは、僕のことなんだよ。ヴォルグさんが相手にしないといけない勇者達っていうのは僕の友人なんだ。僕もその一人だよ。だから勇者達を殺して世界を救うなんてやり方は出来ない。それから、ヴォルグさんが勇者の対の存在として召喚されたなら、ヴォルグさんの力が必要かもしれない。だからヴォルグさんにも手伝ってもらう。それでいいかな?」
「……勇者を殺してでも止めないと世界が崩壊するかもしれない時が来るかもしれない。その時はどうするつもりだ?この世界か、友人か、どちらかを選ばないといけない時はどちらを選ぶんだ?」
「その時の状況にもよるかもしれないけど、僕は友人を犠牲にこの世界を救うつもりはないよ」
「マ王様!?」
ルマンダさんが僕の発言に声をあげる。
「ルマンダさんも聞いておいて。この世界のこととか、ルシフェル国のことを蔑ろにするつもりはないけど、クラスの友達を最優先にこれからは動くことにした。今まではその場の空気に流されていたけど、僕にとって大切なのはこの世界でもこの国でもないってやっとわかった。ううん、最初から分かってはいたけど、そうやって動く覚悟が僕にはなかっただけだね」
「マ王様、それはあまりにも王として無責任過ぎます」
「だったらこの国のことはルマンダさんに任せるよ。僕の名前を勝手に使ってもらってもいいし、必要なら力も貸すよ。ルマンダさんに王を代わってもいい。僕は僕のやりたいことを1番に考えて動くから」
「本気ですか?」
「本気だよ。そもそも、クラスのみんなを助けて、元の世界に帰る方法が見つかれば、僕はこの国の王ではいられなくなるんだよ。いつまでも僕が王でいる方がこの国にとってはよくないと思うんだ」
「わかりました。少し考えさせて下さい」
「そういうことだから、僕は世界よりも友人を選ぶよ。もちろんこの世界を軽く見てるわけではないけど、どちらかを選ばないといけないなら、自分の気持ちに正直に生きようと思う」
話が脱線してしまったけど、僕はヴォルグさんの質問に答える。
「悪魔の私からすると当然のことだが、人族にしては珍しい考えをしている。もちろんそれで構わない。私もこの世界を救うのが目的ではなく、元の世界に帰るのが目的で動いている。元の世界に帰らなければならないから、世界を救うだけだ。この世界を滅ぼせば元の世界に帰れるなら、私は迷わずにこの世界を滅ぼすだろう。私に出来ることならなんでもやるつもりではいるが、私は自身が元の世界に帰ることを最優先に動くつもりでいる。結果としてマ王様と争うことになったとしてもです」
僕はヴォルグさんの考え方が羨ましいと思ってしまった。
自分が進むべき方向にブレがないから。
「それは仕方ないね。そうならないように、僕の友人を助ける方法で世界も救おうと思うから、これからよろしくね」
「よろしく頼む」
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