第61話 帰還

深淵の樹海からハラルドの街に戻ってきた僕達は冒険者ギルドに来ていた。


色々と手を貸してくれたギルマスに報告するのと、ピュアの登録をする為だ。


「死なずに帰ってこれました」


「よく戻ってきた。なかなか戻ってこないから心配していた」


「ご心配お掛けしました」


「それでどうだったんだ?妖精には会えたのか?」


「会えませんでしたが、妖精は呪いを無効化しているだけで、呪いを解くことは出来ないことがわかりました」


「そうか。残念だったな」


「わかっただけ収穫です。ふりだしではありますけど、知らずに妖精を探し続けているよりはマシです」


「他に当てはあるのか?」


「いえ、今のところはないです」


「何か糸口はあるはずだから、諦めるなよ」


「もちろんです。それから、この子の登録をお願いします」


「ああ、ずっと気になってはいたが、こいつもあそこで捕まえてきたのか?」


「そうです」


ギルマスが魔導具を取りにいき、ピュアに魔導具を触らせる。


「……該当なしだな。ギルドで確認されていない生き物だ」


「ジェネシス・ドラゴンって種族みたいです」


「種族はわかるんだったな。新種のはずだが種族名があるのは不思議だな。坊主が嘘をいう理由もないだろうから、その種族で登録はしておく」

確かにギルマスの言うとおり不思議だ。

誰が種族名をつけたのかな?あのドラゴンの言ってたカルアって神みたいな人かな?


ギルマスにスカーフを貰いピュアに結ぶ。


「それと、前に出会った漆黒のドラゴンはカタストロフィ・ドラゴンでした。――――――――ということがありまして、深淵の樹海はそのドラゴンが管理しているみたいです。妖精の話もその時に教えてもらいました」

僕はギルマスにカタストロフィ・ドラゴンに出会ったことを説明する。


「…………それで坊主は世界を滅ぼそうとしているそのドラゴンを見逃したと」

やっぱり見逃したのはマズかったのかな……


「……そうですね」


「大地が赤く染まる時、天より一対のドラゴンが現れ、新たな世界を創造するだろう」

ギルマスが急に難しいことを言う。


「それはなんですか?」


「古い伝承だ。坊主の話を聞いて思い出した。この伝承を神からのお告げだと信じている者もいる。教会の連中なんかがそうだ。新たな世界というのは、新天地のような良い意味の解釈をされていることが多いが、坊主の話を聞く限りだとこの世界が一度終わるみたいだな」


「そんな伝承があるんですね。伝承の一対のドラゴンというのが、カタストロフィ・ドラゴンとジェネシス・ドラゴンのことならそういうことですね」


「さっきの話は他の誰かに話したか?」


「いえ、まだギルマスにしか話してません。知っているのは僕とシトリーだけですね」


「誰にも言わない方がいい。少なくても教会の連中に聞かれたら異端だとして敵視される可能性が高い。教会の連中を敵に回すと厄介だ。神を信仰しているからな。信仰心で自らの命を捧げることも苦としない者も少なくない。それに民衆からの支持も多大だ。俺も自分の心の中だけに収めておく」


「わかりました。そうします」


「だがそうなると、カルアという者が本当に神に思えてくるな。大地が赤く染まる時というのは、大量の血が流れた時という意味だろう。教会の連中は神への贄という都合の良い解釈をしているが、天から姿を現すというドラゴンが神の命で世界を滅ぼすのであれば、大地が戦などで血に染まり、神がこの世界を見限った時、神の遣いであるドラゴンが、世界に終焉をもたらす為にやって来るということだろうな。そのドラゴンが深淵の樹海を管理しているということは、時がくれば深淵の樹海に棲む魔物が解き放たれるのかもしれない」


「……そうかもしれないですね」


「なぜ、深淵の樹海から魔物が外に出て来ないのかずっと疑問に思っていたが、謎が解けた。あまり良い答えではなかったがな……」

深淵の樹海の奥に棲む魔物が街を襲えば、簡単に街は壊滅してしまうだろう。

今までそうならなかったのは、あのドラゴンが管理してくれていたからかもしれない。


そう思うと、あのドラゴンを殺さなくてよかった。


制御を失った魔物達が各地の街を襲っていてもおかしくない。


「ドラゴンを逃したのは正解だったみたいでよかったです」


「あくまで想像であって、実際のところはわからない。見逃さなければ将来起きるかもしれない世界の崩壊を防げたかもしれない。現状維持と言う意味で坊主の判断は間違ってはなかったとは思うが、何も起きないことを祈るしかないな」


「……後悔したとしても、あの時にあのドラゴンを殺す選択を僕はしなかったと思うので、やり直したところで結果は変わらないと思います。僕の選んだ答えなので、もしその時がくるなら、僕の出来る限りで抗います」


「その時は私も一緒に抗います。一思いに命を刈り取らなかったのは私も同じです」


「シトリーは僕の言うことを聞いて…………いや、そうだね。その時は一緒に運命と戦おうか」

僕の決めたことだからシトリーは関係ない。

そう言おうと思ったけど、シトリーの真剣な顔を見て言うのをやめた。


「最後の時までお供いたします」


「よろしくね。それではこれで自分の国へと戻ります。今後もどうかよろしくお願いします」


「ああ、こちらこそな」


僕達はコロネさんに挨拶した後、久しぶりに自分の国へと戻る。


「お帰りなさいませ、マ王様」

城に入った所でルマンダさんに出迎えられる。


「留守を任せて悪かったね。何か問題はあった?」


「問題はありませんがお耳に入れていただきたいことが2点あります。……後ほどのほうがよさそうですな」


「……そうだね。後からルマンダさんの部屋に行くよ」


「かしこまりました」


ルマンダさんには待っててもらい、僕は庭へと行く。


「遊んで欲しいワン」

「妾を撫でてもいいのじゃ」

「ユメは留守を守ったにゃ。褒めるにゃ」


僕にくっ付いて離れようとしない構ってちゃん達と遊ぶ為だ。

みんなの方から寄ってこなくても僕の方から探しに行ったけどね。


もふもふ成分が不足している。


「お待たせ」

みんなと戯れてある程度満足した後、ルマンダさんに会いに行く。


「もうよろしいのですか?」


「とりあえずはね。それで話ってのは何?」


「まず一つ目ですが、商業ギルドのギルドマスターが先日来られました。マ王様が不在なので、また後日足を運ぶように言ってあります。内容に関しては予想していた通りでしょう。二つ目にマ王様に会いに来たと言っている方がいます。自分は異世界人だと言っているので、マ王様のご友人かもしれません」


「え!本当に?」


「私には判断が付きませんが、嘘を言っているようには見えません。また、噂のとおりかなりの力を有しているようです」

みんなと遊んでる場合じゃなかった。

誰かな?


「今どこにいるの?」


「マ王様は不在だと伝えたら、街の宿で待つとおっしゃって帰られました」


「隷属されてる?」


「いえ、隷属はされておりませんでした」

うまく逃れたのかな?


「ありがとう。今日はもう遅いから明日会いに行ってくるよ。商業ギルドの方はその後に対処するってことで」

商業ギルドの方は予想通りなので後回しでいいや。

それよりも今はクラスメイトを優先しないと。


「マ王様、ハラルドの街では理由を教えていただけなかったので言いませんでしたが、あまり城を離れないで下さい。謁見に来るように遣いを出しますので、マ王様は王座に座ってお待ちください」


「……わかったよ。それじゃあ準備は任せるからよろしくね」


「かしこまりました」

王国で何が起きてるのかわかるかもしれない。

それに他のみんなの能力も分かれば助けやすくなるかも。

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