第56話 本音
「せっかくだから帝都を観光してから帰ろうか。出発は明日で、門の前に宿屋があったからそこに集合にしよう」
「宿であれば最高のものを探させます」
ルマンダさんに言われる。
「別に悪くなさそうだったから、あそこでいいよ。ルマンダさんが嫌だって話なら、別の宿に泊まってきてもいいよ。朝に集合だけ出来れば問題はないから」
「そんなことは言っておりません」
「そう、なら問題ないね。朝にあの宿屋の前に集合って事以外は自由ってことで好きに過ごしてて」
「……マ王様はどちらに行かれるのですか?」
「適当にブラつきながら買い物でもするよ。それじゃあ解散!」
僕は手を叩きルマンダさん達と分かれる。
「さて、無事帝国との戦を回避出来たね。何か買ってあげる約束だったけど、欲しい物は考えた?」
シトリーとの約束を守る為に僕はすぐに帰らずに、出発を明日にしたのだ。
「なんでもいいんですか?」
「大丈夫だよ。それで何が欲しいの?」
「ハラルドの街に着いてからでもいいですか?」
「……わかったよ。それじゃあ今日は僕の食べ歩きにでも付き合ってもらおうかな」
シトリーの顔を見て、欲しいものがわかってしまった。
多分あれだろう。
あれを僕が用意出来るとはすぐには言えない。
僕の覚悟の問題だ。
だから今は気づかなかったフリをして楽しもうと思う。
「お付き合いします」
「うん。シトリーも食べたいものがあったら遠慮なく言ってね」
「ありがとうございます」
僕はシトリーと大通りを少し離れて、屋台が並んでいる所に行く。
「やっぱり、かしこまった店じゃなくてこういうところの方がそそられるものがあるよね」
「そうですね」
2人で目に入った物を買って並んで座って食べる。
「この肉串、付けてあるタレが美味しいね」
「甘辛くておいしいです」
「まだそんなに時間は経ってないはずなのに懐かしく感じるよ。シトリーと初めて会った頃にもこうやって並んで座って食べたよね。あの時はパンだったっけ?」
「懐かしいです。まだマオ様のことをよく知らない時ですね。あの通りからはいつも美味しそうなスープの匂いがしていて、美味しそうだなっていつも思っていたんです。そしたらマオ様が買ってくれました。あの頃はなんで魔族の私にこんなに優しくしてくれるのかなって不思議でした。感謝しながらも、夢なんじゃないかとか、何か騙されてるんじゃないかとか、そんなことを実は思ってた頃です」
「そんなこと思ってたんだね。全然知らなかったよ」
「幸せ過ぎたんです。魔族だとバレて、何も悪いことなんてしてないのに悪人を見るような目で見られて、庇ってくれたオーナーは不幸になっていって……。私なんていない方がみんな幸せなんだって、でも死ぬ勇気もなくて、意味のない毎日を過ごしていた時にマオ様に優しくされたから、こんな幸せあるわけないって思ったんです」
「そっか」
「でも、これが神様のくれた最後のチャンスなんだって思うことにしてマオ様を信じて付いてきたら、こうして幸せになりました」
「シトリーは今幸せなんだね?」
「はい、もちろんです」
「僕はね、あの頃に戻りたいなって思うんだよ」
「えっ?」
「別に今が不幸だとか言うつもりはないんだよ。だけど、なんだかいつの間にか王ってことになっててさ。名ばかりかもしれないけど、なったからには責任を持ってやらないとって頑張ったよ。でも王になりたくてなったわけではないから、ただただプレッシャーを感じるだけなんだよ」
僕はずっと思っていたけど言えなかったことをシトリーに吐き出してしまった。
「それでもマオ様は立派に……いえ、すみません。そういうことじゃないですよね」
「……うん。さっきも皇帝にあんなことしたけど、正直帝国との関係なんてどうでもいいと思っちゃうんだよ。僕がやりたいことって、王国から友達達を助けることであって、国を作ることじゃないんだよ。友達が無理矢理戦わされそうになったから、それが嫌で横槍を入れたら、いつの間にか王国じゃなくて、帝国を相手にしないといけなくなってた。なんでかな。なんでこんなことになってるのかな。シトリーと出会ったあの頃はもっと自由に動けてたと思うんだ。友達を助ける為に国を作る必要なんてなかったんじゃないかな。どこで間違えたのかな」
どこで間違えたか。そんなことわかってる。
国なんて作ったからだ。
覚悟もなく、場の空気に流されて王様になんてなったからこんなことになった。
ルマンダさんに内乱を起こさせないようにするだけで、そのまま戻ってこればよかった。
確かにあの時はフェレスさんの言っていることも間違っていないと思ったけど、それはこの世界の事を考えるならばだ。
明人達を救出することを最優先にして考えるなら、国を作る選択なんてするべきではなかった。
「……全て投げ出して逃げてしまいますか?私はマオ様がどんな決断をしても付いていきますよ」
「……ごめん。シトリーならそう言ってくれると思って甘えてしまっただけだよ。もう今更やめるなんて言えないことはわかってる。誰かに聞いてほしかっただけ」
「無理して溜め込まないでください。私でよければいつでも聞きますので、一人で抱え込まないでください」
「ありがとう。少し心が軽くなったよ。さて、次は何を食べようかな」
「……私はあれが食べてみたいです。甘くて美味しそうです」
シトリーが僕に気を使って言ってくれているのだとわかる。
「本当だ。美味しそうだから僕も食べようかな」
情けないなと思いながらも、僕は甘えることにする。
その後も買い食いをしたり、雑貨屋に入ったりして過ごした後、宿に泊まって、翌日ハラルドの街へと向かう。
「ルマンダさん、僕は少しやる事があるので、ハラルドの街に滞在します。ルマンダさん達は先に戻っていてください。護衛はシトリーに残ってもらうので不要です」
僕が言ったことで、ルマンダさんだけでなく、シトリーも驚く。
「……何をなされるのですか?」
ルマンダさんに聞かれる。
「私用があるんです。一月くらいしたら戻ります」
「では私も残ります」
「ルマンダさんは国のことをお願いします。商業ギルドのこともあります。他にもやることは溜まっているでしょうから、それを頼みます」
「……何をするのか私には教えてくださらないということでしょうか?」
「そうだね。でもルマンダさんを信用してないとかそういうことじゃないから、それは勘違いしないでね」
ルマンダさんが聞けば止めるだろう。それがわかっているから言わないだけだ。
「かしこまりました。深くは聞きません」
「留守の間のことは頼んだからね」
「お任せください」
さて、覚悟を決めないとな……。
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