第57話 王国では⑥

委員長視点 国王が隷属された翌日


いつも通りダンジョンに潜る為に庭に行くと、何故かそこには国王がいた。


散々今まで放置しておいてなんだろうか?

まさか、もう魔国との戦いに駆り出される?

まだ戦えるようになんてなってないわよ?


「他の者はどうした?なぜこれだけしかいない!」

国王が兵士に威圧的に聞く。


「……自室にいると思われます」

兵士が怯えながら答える。


「部屋にいてレベルが上がるのか?」


「いえ……上がりません」


「ならどうして部屋にいる?何故連れてこない!」


「……兵士の数が足りていません。恐れながら申し上げますが、勇者様方の教育として配置されていた兵を他に回したのは陛下ではないのですか?」


「余の責任だと言うつもりか?」

国王が兵士を睨む。


「そ、そうは言っておりません。この人数で勇者様達全員をダンジョンに連れて行けば、目の届かない所で死ぬ者が出て来ます。数人くらい死んでも良いと考えなかった私共の責任です。すぐに連れて来ます」

今までは戦いたくない人は放置されていたのに、これからは見逃してくれないようだ。


しかも安全も保証してくれなくなる。


戦いの日は近いのかもしれない。


「私が呼んできます」

私は兵士に申し出る。

全員揃える為に部屋を見て回れば、竹原君達がいなくなっている事がバレるかもしれないからだ。


今は明らかに少ないからバレただけだ。


私は皆の部屋を回って、遂に放置してくれなくなったと説明して庭に集まるように言う。


このまま行かないと碌なことにならなそうなので、無理矢理にでも連れて行くことにする。


庭に引きこもっていた人を連れて戻ると、兵士の数が増えていた。


「連れて来たわ」


「訓練を拒否することは許さない。必ず参加せよ」

国王が言い放つ。

今頃になって何を言っているんだと思う。


「私がいない間に何があったの?」

私は龍崎君に聞く。


「俺もよくわからないが、俺たちの事をちゃんと訓練する気になったらしい。それで、俺達が死なないようにしろって兵士を増員した」


「私達がサボらないかの見張りじゃなくて?」

流石に言っている事が変わりすぎている。


私達が死んだって構わないみたいなスタンスだったはずなのに。


「1人でも死なせたらお前ら全員処刑すると言っていた。あれは演技には見えなかったな」

私の知らないところで何が起きているのだろうか……。


私と龍崎君と宮本君の3人は特別扱いする感じだったけど、他の人は死のうが気にしないような感じだったよね?


本当にそろそろ魔国と戦わせるつもりなのかな?

それで私達を本気で戦えるようにしないといけなくなったのかな?


「勇者達1人につき兵士を1人付ける。死なないように気をつけつつ、最速で戦えるように育てろ!」

国王が兵士長に言う。

さっき龍崎君に聞いた通り、国王が私達を死なせないように言っている。


確かに演技には見えない。


「はっ!」

兵士長が返事をして、振り分けていく。

この人は昨日まではいなかった。


「……数が合わないな」

兵士長が部下の兵士を振り分けていき、兵士が3人余ってしまった。


ヤバい。遂にバレた。


「聖女様、全員連れてこられたのですよね?」

兵士長に聞かれる。


「……生きている人は全員連れて来たわよ」

なんとか誤魔化さないといけない。


「皆様は30人いましたよね?処刑……コホン!追放された方を除けば29人いるはずですが、26人しかいませんね。残りの方はどちらにいらっしゃるかご存知の方はいらっしゃいますか?」

竹原君達がいないことはクラスの皆は気づいている。

私が言ったわけではないけど、王国の人とは違って友達がいなくなってれば気づくだろう。


気づいた人には、うまく逃げたかもしれないからバレないように知らないフリをして、誰にも言わないようにと言ってある。


私が逃したことはもちろん言ってないし、逃げたかもしれないと言っただけで、私が知っているわけではないということにしている。


私以外は指輪によって無理矢理言う事を聞かされる可能性がある。

本当の事を言えとでも言われたら、意思とは関係なく話してしまうかもしれない。


兵士長の言葉にみんながザワザワしながら周りを見る。


「みんな黙っててごめんなさい。宮本さんと橋本さんと竹原君は死んでしまったわ。ショックだと思って黙ってたのよ」

私は嘘を吐く。

私の嘘に皆はショックを受けるけど、実際には城からうまく逃げたはずなので許して欲しい。


「聖女様、それは本当ですか?」

兵士長に聞かれる。


「……私が嘘を言っていると言うんですか?3人はダンジョンで魔物に殺されたわ。私の目の前で」


「……そ、それはいつのことだ?」

国王に緊迫した表情で聞かれる。

それがそんなに大事な事なのだろうか?


「……ダンジョンに初めて入った初日よ」


「生きているということはこれは許されたということか……?いや……まさか」

よく聞き取れなかったけど、国王が何やらブツブツと言っている。


「嘘は言ってないだろうな。実は逃したなんてことはないだろうな?」

国王からも同じことを聞かれる。


「言ってないわ」

私は答える。


「……ならよい。他の者は誰一人として死なせるな」

やけにすんなりと納得したということは、本来なら嘘を吐けなくされていたのだろうか。


とりあえず、なんとか乗り切ったようだ。


そして、ここからの訓練はなんとも過保護なものとなった。


今まではほとんど放任されていた。


さっきの私の嘘が通ってしまうほどに、何をしていても兵士達は気にしていなかった。


訓練をつけているというよりは、ただの見張りだった。

いや、見張りとして機能はしていなかったから、見物人と変わらなかった。


だけど急に態度が変わった。

まず戦わせてくれない。

死なせたら処刑すると言われていれば、危険なことなんてさせられないのだろう。


レベル自体は魔物にトドメをさせば経験値みたいのが流れてきて上がる。


なので、私の担当になった兵士が魔物と戦い動けなくしたところで、私がトドメをさす。


確かに私が苦戦する魔物から経験値を貰うからレベルはすぐに上がるけど、全く戦えるようにはなっていない。


この兵士が倒せない魔物と戦わないとレベルが上がらなくなったどうするつもりなのだろうか?


そもそも、私達よりもこの兵士達の方が強いなら、この人達が魔族と戦いに行けばいい。


本当に何をしたいのかわからない。

それとも国王は、命を絶対落とさないように私達にちゃんと戦わせて、戦闘技術を覚えさせながらレベルを上げる事が可能だと本気で思っているのだろうか?


だとしたらバカすぎる。


まあ、私達からしたら死なないようにしてくれるのはありがたい事だけど……。

命を賭して戦ってレベルを上げろと、洗脳された状態で命令でもされたら、本当に何人も死んでしまいそうだから。

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