第49話 一方、王国では⑤

国王視点 


密偵に出していた暗部から、ルマンダ侯爵が治める領地が占領されたという話を聞いてから数日後、正式に建国したとの知らせる為の遣いが来た。


本来であれば宰相辺りに対応を任せるのだが、内容が内容なので、余自ら王座の間で話を聞くことにする。


知らせに来たのは建国したという国の役人だ。

なんとも掴みどころのないスッキリとした顔をしている。


「グラングル王国、デルキア陛下。マ王様がルシフェル国を建国したことをご報告に参りました」


「余は建国を認めていない。帝国と魔国は認めたのか?」

建国したと此奴は言うが、余のところに話さえ来ていない。

建国するなら他国から承認を得るべきであろう。


「認めておりません。マ王様からの言伝をお伝えしてもよろしいでしょうか?」


「構わん。話せ」


「マ王様は建国するのに他国の許可は必要ないとおっしゃっています。異議があるなら直接言いに来いとのことです」


「ふさけるな!」

あまりの言いように怒りが込み上げてくる。


「ふざけてなどおりません。マ王様が建国すると決めたのですから、他国はそれを祝福すべきなのです。ルシフェル国には他国を相手にするだけの力があります。領地を明け渡すように優しくマ王様が頼んだのを断って、武力で追い返そうとしたルマンダがどうなったかご存知ではありませんか?デルキア陛下も同じ思いをしたいのですか?マ王様に他国を侵略して領土を増やす考えはございません。しかし、他国からどうぞもらってくださいと攻めてくるなら遠慮はしないでしょう」


「お前の首を持っていけばその考えは変わるのか?」

余の言葉を聞いて、周りに控えていた兵士と騎士が遣いの男を取り囲む。


「忠告しておきます。この者達に私を止めることは出来ません。死にたい方はどうぞ掛かってきて下さい。と言いたい所ですが、ここにいる方達は相手の実力も測ることも出来ない程度の方達なのでしょう。軽くですが力をお見せします。その後、命を捨てたい方はどうぞ捨ててください」

男はふざけたことを言う。


ドガンっ!ガン!ドドン!……パラパラパラ


何をふざけたことをと思っていたら、男が手の平を上に向け、水球を放った。


水球は城の天井を軽く突き破った。


何故城の中にいるのに空が見えるのか……。

余は現実逃避しそうになる。


「まだ本気ではありませんが、私の力がわかっていただけましたでしょうか?」

男が平然とした顔で言った。


あれだけの魔法を使って息切れ一つしないとは、本当に本気を出していないということだ。

この化け物が!


いや、そんなことよりも余の城になんてことをする。


「……余の城を壊すとは何事だ!魔王は侵略する気がないのではなかったのか!?」

ただでさえ金がないのに、これを直すのにどれだけの費用が掛かると思っている。


「失礼致しました。マ王様にそのようなつもりはありません。すぐに直します」


「簡単に直すというが、それほどの金をお前が持っているのか?」


「お金は必要ありません。少しだけ失礼致します」

男はそう言ってから高く跳んで、破壊された城の上に立った。

魔法だけでなく、身体能力まで化け物か……。


少しして破壊された天井が修繕された。


どうやったかの見当もつかない。

だが、建国された国にはすでに城が建てられていると言っていた。

建てたのはこいつか?

それともこいつのような化け物が他にもいるのか?


「失礼しました。これでよろしいでしょうか?」

男が王座の間に戻ってきて、何食わぬ顔で聞いてくる。

元からこうするつもりだったのではないかと思ってしまう。


「構わん。次はないからな」

破壊される前よりも立派に直されては文句の言いようがない。


「お許しいただきありがとうございます。話を戻させていただきますが、自殺願望のある方はいらっしゃいますでしょうか?」

男の言う通り、この男を捕らえようとすれば死ぬだろう。


「下がれ!今他国と争う気はない」

余は既に男から距離をとっている兵士達に下がるように命令した後、ルシフェル国と争う気はないと言う。


「ではマ王様が建国したことに対して異議はないということでよろしいでしょうか?」

男は聞いてくる。こんなものは脅しと変わらない。


「勝手にするがいい」


「ではそのようにマ王様に報告致します。失礼します」

男は満足した顔で出ていった。


「宰相!動向を探れ。他国を侵略する気がないというのが本当かどうかわからん」


「かしこまりました」


余は心を落ち着かせるために自室へと戻り、椅子に深く座る。


「動くな!」


一息吐こうとしたら、目の前に先程の男が現れた。


「侵…ぐふぅ!」

侵入者が現れたことを知らせようと声を出そうとしたら腹を殴られた。


「喋るな!」

近衛兵は何をしている!

侵入を許しおって。全員処刑してやる。


「もく…かはっ!」

目的を聞こうとしたらまた殴られる。


「喋るなと言ったんだが、死にたいのか?予定とは変わるが死にたいなら殺すのもありか……」


「…………。」

本気でやりそうなので余は黙ることにする。

今は従って、隙を見て殺してやる。


「選択肢をやる。私に隷属されるか、死ぬかだ。どちらを選んでもこの国は私がもらう。操り人形として生きるかどうかだ。はいかいいえで答えろ。それ以外は死ぬことを選んだと捉える」

余に隷属されろというのか……。


「早くしろ……後5秒だけ待ってやる。5…4…3…」


「わ、わかった。隷属する」

王である余が隷属されるなど屈辱ではあるが、隷属の呪法を解く方法は色々と知っている。

タイミングをみて解呪して、従っているフリをして寝首をかいてやる。


「これを自分で腹の中に入れろ」


「うっ。痛い…痛い…」

男に腹を切られた。


痛がっている余は冷たい目で男に睨まれて、仕方なくガラス玉を傷口から腹の中に入れる。


「では命令だ。召喚された者共を徹底的に鍛えろ。勇者が雑魚だと不都合だ。但し、1人だろうと死なせるな」


「何故そんなことをする?」

この男の狙いがわからない。


「お前が知る必要はない。召喚された者は特殊な力を持っていて、世界を滅ぼすことも容易だと噂を流せ。本当は雑魚だということは他国に悟らせるな」

此奴は何がしたいんだ?

勇者を鍛えて、他国に勇者の力を知らしめて何の意味がある。


「貴様が隷属されたことは誰にも悟らせるな」

命令出来るのも今だけだ。

上から目線でいい気になりやがって。


「ぐふぅ!があぁ!…………何をする!?」

急に男に両手足を切られる。


「これを切られたところに入れろ」

男からさらにガラス玉を4つ渡される。


余は命令に逆らえずガラス玉を切られた場所にそれぞれ入れる。

こいつもしかして隷属の呪法の解き方を知っているのか?

あれは王族の他には一部しか知らないはずだ。


「命令を破ったら速やかに自害しろ。呪法の媒体が一つでも体から出ても自害しろ」

簡単に余に自害しろと縛りやがって……。

しかし、秘匿された解呪の一つは知っているようだが、もう一つは流石に知らないようだな。


此奴がいなくなったら解呪して、余にこんなことをしたことを後悔させてやる。


「わかっていると思うが、霊峰の秘薬は飲むなよ。王族だから持っているのだろう?秘薬に触れたら飲む前に自害しろ」


「…………。」


「はっはっは!もしかして私がそんなことも知らないと思っていたのか?」

男は高笑いする。


終わった。

もう余は死ぬまで此奴の奴隷だ。

それならいっそ死んだ方がいい。

そんな屈辱には耐えられない。今だけだとわかっていたから耐えられただけだ。


「もう一つ命令を忘れていた。命令を守る為に死力を尽くせ。命令を破った時以外の理由で自害するな。寿命で死ぬまで私に服従しろ」


男は余が死ぬことも許さず部屋から出ていった。


男の目的が結局わからないが、絶望しかない。

しかし、勇者共を本気で鍛えていればそれ以外は自由にしていていいのか?

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